KDDIは、10月1日にUQ mobileをUQコミュニケーションズから承継。auとUQ mobileの2本柱を中心に、マルチブランド戦略を強化している。
同社は傘下に、ISPのビッグローブや、ケーブルテレビ会社のジュピターテレコムを抱えるが、これらの会社も、au回線を借りるMVNOを展開。さらに、KDDIは、シンガポールに拠点を構えるCircles.Lifeのノウハウを生かし、eSIMを軸にしたMVNOを新たに立ち上げる見込みだ。
au、UQ mobile、そしてMVNOの棲み分け
マルチブランド化にあたり、それぞれの特徴はより明確に打ち出した。5Gを軸に、容量無制限のプランを中心に据えているのがauだ。auでは、今後発売する全スマホが5G端末になり、「データMAX 5G」やNetflixなどの各種サービスをセットにした料金プランを全面的に打ち出していく。
対するUQ mobileは、4Gのみの展開だが、中容量のプランが充実しており、料金もauに比べるとリーズナブルだ。
UQ mobileは、3GBの「スマホプランS」と、楽天モバイル対抗で生まれた10GBの「スマホプランR」から料金を選択できるが、21年2月には新たに20GBプランの「スマホプランV」を加えて3本柱にする。20GBプランは、政府の要請にこたえて生まれたプランだが、UQ mobileも徐々に大容量化が進んでいる。一方で、容量無制限のプランはなく、auとは棲み分けが図れている格好だ。
より低価格を求めるユーザーには、KDDIから回線を借りたMVNOの出番となる。ビッグローブのBIGLOBEモバイルはISPのユーザーに、ジュピターテレコムのJ:COM MOBILEはケーブルテレビのユーザーにと、販路も明確に分かれているため、auやUQ mobileとは差別化もしやすい。マルチブランドでユーザーの受け皿を増やすことで、多様化するニーズにこたるのがKDDIの戦略と言えるだろう。
Circles.Lifeのノウハウを生かして設立する新MVNOは、デジタル中心でeSIMを武器にする。価格やブランド名は未定だが、eSIMとeKYCでの本人確認を組み合わせて、ネットで完結するMVNOにしていく方針。サイト上で簡単に料金の変更やサービスの追加ができるような仕組みを、想定しているという。
このように、マルチブランド展開は、メインブランドのauだけではアプローチできなったユーザーを獲得していくうえで、有効な手段になる。
各社が取り組むマルチブランド戦略
KDDI全体にとっては、ユーザーの流出を防ぐことにつながる。auで満足できなかったユーザーが、ドコモ、ソフトバンクとった他キャリアや、MVNOに移ってしまうと、KDDIにとって、そのユーザーからの収入が丸々なくなる。一方で、au以外のマルチブランドが流出先であれば、通信料収入は落ちるかもしれないが、ゼロになることは防げる。逆に、低価格を武器にしたMVNOで、他社からユーザーを奪うこともできる。
さらに、いったんマルチブランドのひとつに転出したユーザーが、再びauの回線品質やサービスに魅力を感じて戻ってくれば、“アップセル”が狙える。単純に料金だけが違うのであれば、ユーザーが戻ってくることは考えづらいが、5Gが使えて容量無制限なら、ある程度容量の大きなプランを選択しているその他のブランドのユーザーが、auに出戻りする可能性もありそうだ。
それだけに、auブランドでは、5Gのエリア拡大や容量無制限のプランの魅力を高める必要がある。セットプランを強化しているのは、その一環と言える。
マルチブランド戦略を強化しているauだが、こうした仕組みを先に手がけてきたのは、ワイモバイルやLINEモバイルといったサブブランドを擁するソフトバンクだ。同社も大容量プランのユーザーはソフトバンク、中容量のユーザーはワイモバイル、ネットで手続きを済ませたいユーザーはLINEモバイルと、データ容量や料金、販路ごとにブランドを使い分け、ユーザー数を拡大している。KDDIのマルチブランド戦略は、これに対抗した動きと見ていいだろう。
対するドコモは、これまでサブブランドの創設に対して否定的な見方を示していたが、NTTによる完全子会社化によって、前提条件が変わりつつある。NTTによるTOBが成立したあと、UQ mobileやワイモバイルが導入した20GBプランへの対抗策を打ち出すことも示唆しており、サブブランドでの導入も可能性がありそうだ。欧州の一部の国では、1つのキャリアが複数のブランドを展開している例があるが、日本も、その環境に徐々に近づいていると言えそうだ。
(文・石野純也)
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- Author:Techable編集部