Spotify(スポティファイ)は米国時間11月3日、同社のプラットフォーム上でどのように音楽が見つけられるかと言う点において、アーティスト自身の意見がより尊重されるようにするための新サービスのテストを開始すると発表した。アーティストやレーベル自らが優先的に売り出したい曲を特定し、その後Spotifyがその曲がパーソナライゼーションアルゴリズムによって浮上するようにする信号を加えるという仕組みである。
この新サービスは有料プロモーションではなく、アーティストやレーベル側は前もって料金を払う必要はないが、同社によるとアーティストやレーベル、権利者は同社がサービスを提供しているストリームに対して「プロモーション用の録音使用料」を支払うことに同意することになるという。ただし、アプリ内の他のカテゴリーからのストリームに関してはこの規約は適用されない。
同サービスの開始直後は、Spotify Radioや自動再生などSpotifyアプリの一部でのみプロモーション料金が適用される。プロモーションされたトラックはアルゴリズムでも編集でもプレイリストに表示されることはない。しかし同社は将来的な拡張を否定しているわけでもない。
「弊社は、あらゆる段階にいるどんな規模のアーティストにもこのツールを提供できるようにしたいと考えていました」とSpotifyのプロダクトマーケティングリーダーであるCharleton Lamb(チャールトン・ラム)氏はこの新サービスについて説明する。同氏によると、これが同社がアーティストやレーベルに前払い料金を要求しない理由である。
「我々はより受け入れられやすく、より民主的で公平なモデルを追求していました。このモデルにより本当に無名のアーティストでも一流レーベルと同じレベルのプロモーションが行えるようになるのです」とラム氏。
このプロモーションによってあるトラックが成功した場合、音楽の人気が高まりプロモーション料金が低いエリア以外での再生回数が増えると、権利所有者は全体的にプラスのROIを得ることができる。このツールにプラスの経済的利益がない場合、アーティストはいつでもプロモーションをオフにすることができる。
同社はプロモーションの使用料の変更に関しては明らかにしていないが、同テストの結果として調整される可能性はあると伝えている。
同社はまた、リスナーの興味の度合いを考慮した上で変更を考えていきたいと強調している。音楽のパフォーマンスが良ければプロモーションを継続するし、そうでない場合は中止されるとのことだ。
「我々はレーベルやアーティストに曲のあっせんを保証するわけではなく、あくまでもリスナーが聴きたいと思うもののみをお勧めするまでです」とSpotifyは発表の中で伝えている。
プロモーショントラックは、ユーザーが既にそのジャンルやそのアーティストを聴いている場合に現れるのが通常だが、それ以外にもユーザーがその音楽を気に入る可能性があることを示すシグナルが見られる場合にも提示されるとラム氏は言う。例えばユーザーが既に聴いている音楽と音響的に類似している場合、その類似したプロモーショントラックがユーザーに提示される可能性がある。また、ユーザーが似たようなアーティストを聴いていたり、同じような趣味の人がその音楽を聴いていたりする場合にも、その曲がユーザーに提示されることがある。
その逆もまたあり得る。ユーザーと似たような音楽の趣味を持つ人がセッション中にその曲をスキップしたり、ラジオからのストリーミングの頻度を減らしたりして、プロモーショントラックに否定的な反応を示した場合、その音楽のプロモーションは中止される可能性がある。
「レコメンデーションのせいでリスナーが否定的な反応をしたり、ラジオシステムにあまり関心を示さない場合、推薦の仕方を調整することになります」とラム氏。
また、リスナーへ勧める曲のプールは24時間ごとに更新されるため、このユーザーフィードバックのループはトラックのプロモーション範囲にすぐに影響を与えることができると同氏は指摘する。
現時点ではアーティストやレーベルが一度にプロモーションできる楽曲数に制限はなく、プロモーションの時間枠にも制限はない。
アーティストはいつリリースした曲でもプロモーションを行うことができるが、Spotifyとしてはこのツール最大の焦点は音楽をある文脈に当てはめるカタログ化であると考えている。例えばアルバムのアニバーサリーを祝ったり「文化的瞬間」を利用したいと考えている場合である。
つまり、あるアーティストの古い曲が突然人気を得た場合、このサービスが役立つかもしれない。これはTikTokの存在により最近頻繁に見られるようになった現象だ。TikTok上でのバイラル動画である古い楽曲がBGMとして使用された場合にこういった古い曲が表面化して人気となる場合があるからだ。
例えば、TikTokユーザーで@420doggface208として知られているNathan Apodaca(ネイサン・アポダカ)氏が、バンドFleetwood Mac(フリートウッド・マック)の「Dreams」に合わせてOcean Sprayのクランラズベリージュースを飲みながらスケートボードをしているビデオを録画したところ、1977年のこの名曲が再びチャートのトップに返り咲いたと言う例がある。
@420doggface208Morning vibe #420souljahz #ec #feelinggood #h2o #cloud9 #happyhippie #worldpeace #king #peaceup #merch #tacos #waterislife #high #morning #710 #cloud9♬ Dreams (2004 Remaster) – Fleetwood Mac
TikTokによると、9月25日の動画公開から10月中旬までの間に、TikTok動画内での「Dreams」の1日における平均利用率は1380%に達し、売上は374%、ストリームは89%増しとなったとのことだ。これによりこの曲は43年ぶりにBillboard Hot 100に21位で再登場し、またSpotifyのグローバルチャートと全米チャートのトップ10入りを果たし、Apple Musicでも1位を獲得した。
これこそがSpotifyが今後利益を得ようとしている「文化的瞬間」と言うわけだ。
このサービスはいわゆる「有料再生」モデルではないものの、音楽プロモーションのための有料サービスであり、ストリームが新ツールで「プロモーション」されるとSpotifyは効果的に利益を得ることができるようになる。
Spotifyは数年前から有料再生市場への参入を進めてきた。2019年には、アーティストがレコメンド用の画面を購入して、Spotifyがファンとして特定したユーザーにニューアルバムのプロモーションを行うことができる新機能を導入した。ローリングストーン誌が内部文書を引用して述べたところによると、広告クリック1回あたりのコストは55セント(約57円)だという。
この機能はこういった通知を歓迎する可能性の高いユーザーをターゲットにしてはいたものの、多くの資金を費やすことができるレーベルが最も多くの再生を得ることを意味するため、ある意味での賄賂であると批判されていた。
ここ数年間、Spotifyはプレイリストに賄賂が絡んでいるとして批判の対象となってきた。2018年にはアプリ内のブラウズやプレイリストなどのセクションにラッパーのDrake(ドレイク)の画像やアルバムを次々と並べ、ダンスヒットやポップスなど彼の音楽が一切含まれていないプレイリストにさえにもDrakeの画像を使用したあまりにも大掛かりなアルバムプロモーションでユーザーの怒りを買ったことで有名だ。
一方で、この新サービスはすでに気に入って聴いているユーザーにトラックをおすすめするという方法のため、これまでのプロモーションの問題点に対処することが可能となるだろう。ポップアップ広告や過剰なグローバルプロモーションよりも控えめなものとなる。
Spotifyはこれまでに少数のパートナーと技術テストを行なってきたが、今後は米国内でのテストを本格的に開始すると伝えている。
テスト期間中、同社はインディーズとメジャーの両方を含む少数のレーベルと連携し、さまざまなフィードバックを得る予定だ。Spotifyによるとこの機能を今後グローバルに拡大していく予定であるという。
関連記事:Spotifyがポッドキャストのホスティングと広告会社のMegaphoneを約250億円で買収
カテゴリー:ネットサービス
タグ:Spotify 音楽ストリーミング
[原文へ]
(翻訳:Dragonfly)