macOSの最新バージョン、Big Surの正式リリース版がようやく登場した。6月のWWDCで発表してからここまで、ずいぶんと引っ張ったものだ。macOSのリリースが今のような毎年恒例のパターンになってからは、たぶん最遅だろう。それというのも今回は、同じく今年のWWDCで発表したMac用の新しい自社製CPU「Apple M1」(Apple Silicon)を搭載したMacの新モデルの発売に合わせたからだ。
パブリックベータ版のリリース状況、バージョン番号などから考えると、従来のインテルCPU用のBig Surは、だいぶ前に完成していたように思われる。それでも、両CPU用をいっしょにリリースするために、新製品の発売を待っていたのだろう。
この最新のmacOS Big Surは、従来とはアーキテクチャの異なる新CPUを採用した「新たなMac」用の初OSであると同時に、インテルMac向けの集大成的なOSというふたつの異なる面を持っている。今後インテルCPUを搭載したMacの新モデルが登場する可能性は低いと考えられるから、もはやインテルMacにとっては、いわば「後世」のOSということになるだろう。
機能面の拡充と、ユーザーインターフェースの刷新
新たなバージョンのmacOSとしてみた場合、Big Surは、機能面の拡充とユーザーインターフェースの刷新という、また違った切り口でもふたつの面を併せ持っている。切り分けが難しいものもあるが、これらの中には、ユーザーインターフェースとは一切関係のない、新CPUならではの重要な新機能もある。これはMacのハードウェアのアーキテクチャが安定していた近年のmacOSには見られなかったもので、Big Surの最大の特徴のひとつといえる。またユーザーインターフェースの変化だけを見ても、近年のmacOSの新バージョン中ではかなり大きなものとなっている。
そこでここでは、macOSの新バージョンとして見たBig Surについて、ハードウェアの新製品レビューでは取り上げられにくい点を中心に見ていく。インテルMac、Apple Silicon Macを問わず共通の部分を中心に、Big Surの新機能、新たなユーザーインターフェースを解説する。
7年前のインテルMacも対象、意外にも古いMacもサポートするBig Sur
まず、Big SurがこれまでのインテルMacをどこまでさかのぼってサポートするかを見ておこう。「Macのハードウェア条件」のリストを見ると、意外に古いMacもサポートしていることに驚かされる。
- MacBook Air 2013以降
- MacBook Pro Late 2013以降
- MacBook 2015以降
- Mac mini 2014以降
- iMac 2014以降
- iMac Pro 2017以降
- Mac Pro 2013以降
この中でもっとも古いのは2013年のもので、3機種もある。他の機種を見ても、MacBookにせよ、miniにせよ、2013年以降に出た最初の新製品からサポートしている。またiMac Proは、そもそも最も古いモデルが出たのが2017だ。つまりサポートの起点は2013年にあると考えていい。
この2013年は、macOSでいえば10.9のMavericksが出た年だ。正確にいえば、「macOS」ではなく、まだ「MacOS」と表記されていた遠い昔のこと。その当時のマシンを、まだ現役で日常的に使っている人は、それほど多くないと思われるが、Big Surはそこまでサポートしている。
Big SurはApple M1に重点を置いて開発されたという印象がどうしても強いが、7年前のインテルMacをもサポートする懐の深さを兼ね備えている。最初に述べたように、インテルMac用macOSの集大成を担うという考えも、そう的外れとはいえないことが分かるだろう。
なお、搭載メモリーやストレージの容量など、いわゆるシステム要件については明記されていない。善意に解釈すれば、上記の条件に合致したMacならば要件を満たすと考えられる。
アップル製デバイスのOSとして、統一感を高めたルック&フィール
Big Surのユーザーインターフェースのルック&フィールについては、WWDC直後に掲載した記事「次期macOS Big SurでUI/UXはどう変わるのか?細かすぎて伝わりにくい部分も解説」で、それまでの発表や資料から分かる範囲でレポートした。その時点では、「こうなるはずだ」という範囲の話だったが、それが実際にどうなったのか、主なところを確認しておこう。
少なくともアップル純正アプリに関する限り、すべてのアイコンがiOS/iPadOSと同様の角の丸い正方形の枠に囲まれたものに統一された。Dockを見ても分かるが、Launcherを開けば一目瞭然だ。
「その他」に分類された比較的マイナーなアプリについても、見事に外枠の形状が角丸正方形で統一されている。
なお、Big SurになってもインテルCPU搭載マシンについてはBoot Campがサポートされている。つまりメインディスクにパーティションを切り、Windows 10をインストールし利用できる。そのためのユーティリティ「Boot Campアシスタント」も健在だ。
実は、Big Surパブリックベータ版の公開時には、一部純正アプリのアイコンは修正が間に合っていなかった。macOSのインストーラーに組み込まれていない、後からApp Storeからダウンロードするタイプのものだ。その時点では、まだCatalinaが現行OSだったからだと思われるが、Big Sur正式版リリースとともに、それらアイコンのアプリも更新され、ようやくアイコンの統一を見た。
「コントロールセンター」と「通知センター」に見る統一感
ユーザーインターフェースの統一は、アイコンの形状にとどまらない。iOSやiPadOSと見紛うようなインターフェースは、特に「コントロールセンター」と「通知センター」で顕著だ。Big Surの場合、コントロールセンターはメニューバーから起動できる。そこで設定できる内容も、Wi-Fi、Bluetooth、AirDropのオン/オフ、おやすみモードの設定、ディスプレイの明るさやサウンド音量の調整など、共通しているものが多い。
通知センターは、以前のmacOSにもあったが、Big Surからはデザイン的にも最新のiOSやiPadOSとの統一感が高められている。
ただし、通知センターに表示する内容の編集画面は、Macならではの広い表示面積を有効に活用したものとなっており、iOSやiPadOSよりも使いやすい。
「Dockとメニューバー」
また、主に通知センターに関連して、「システム環境設定」にも大きな変更が加わった設定項目がある。そのひとつが、以前は単なる「Dock」だったものが「Dockとメニューバー」に拡張されたパネルだ。
このパネルでは、左側にサブ項目が垂直のタブ状に並んでいて、その中から選択した項目の設定内容が右側に表示されるという比較的新しいインターフェースを採用している。Catalinaでも「通知」パネルに見られた方式だ。その中から、たとえば「バッテリー」を選ぶと、メニューバーやコントロールセンターにバッテリーのアイコンや残量を表示するかどうかを設定できる。
これとは独立して「バッテリー」というパネルもあるので、ちょっと紛らわしい。こちらは、「使用状況履歴」によって、iOSやiPadOSと同様にバッテリーの使用状況がグラフ表示される。ただし、Big Surではアプリごとの電力使用状況は表示されない。このあたりは、まだ改良の余地がありそうだ。
メニューバーにバッテリーの残量アイコンを表示するかどうかは、「Dockとメニューバー」パネルの「バッテリー」タブでも、「バッテリー」パネルの「バッテリー」タブでも設定できる。それに対して、残量の割合(%)を数字で表示するかどうかの設定は、「Dockとメニューバー」でしかできないなど、ユーザーを惑わせるような部分も残っている。
「サウンド」で設定可能な通知音
見た目とは関係ないが、Big Surでは「サウンド」で設定可能な通知音が、従来のmacOSのものから刷新された。通知音の名前も、音色も、これまでのものをなんとなく連想させつつも、音色自体は新しいOSにふさわしい、いかにも現代的なものだ。
ただし、iOSやiPadOSのものとは名前も音色も統一されていない。つまり、まったく別系統のものだとなっている。これは意図的そうしたものと考えられるが、その意図がどこにあったのかは不明だ。
思い切って統一しても良かったようにも思えるが、MacとiPhone、またはMacとiPadを日常的に併用している人にとっては、通知音が被る心配がなく、どちらが発した通知なのか画面を見なくても分かるという点では便利かもしれない。
地味ながら有効なアップデートと残念な取りこぼし
アップルがあまり大々的には宣伝しなかったり、パッと見には気付きにくい変更点や改善点は、アップルのサイトのBig Surの紹介ページの中でも、比較的目につきにくい場所「macOS Big Surで
利用できる新機能。」に網羅的にまとめられている。
同ページを見ると、ここまで挙げた特徴的なルック&フィール以外を除くと、ほとんどの変更点や改善点部分はOS本体ではなく付属アプリ関連であることに気付く。その中で、ちょっと感心した部分と、がっかりした部分をひとつずつ挙げておこう。いずれも「言語」がらみのものだ。
まず感心したのは、「辞書」アプリで使える辞典データの拡充が、綿々と続けられていること。デフォルトでは、国語辞典(スーパー大辞林)、英和/和英辞典(ウィズダム)、Appleの用語辞典、それにWikipediaが設定されているだけだが、辞書の環境設定で、その他の多くの辞典を選んで追加できる。今回のBig Surでは、そこに「フランス語 – ドイツ語」、「インドネシア語 – 英語」、「日本語 – 簡体字中国語」、「ポーランド語 – 英語」の辞典が加わった。これまでは日本語がらみのものは国語辞典と英和/和英しかなかったが、そこに「超級クラウン」の中日/日中が加わったのだ。地味ながらユーザーによっては非常に有効な追加だろう。
一方残念だと感じたのは、Safariに新しく加わった翻訳機能に日本語が含まれていないこと。今のところ対応しているのは、英語、スペイン語、中国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、ポルトガル語(ブラジル)の各言語だけだ。
この機能自体がまだベータ版なので、今後日本語が追加される可能性はあるが、iOS 14に新たに加わった翻訳アプリに最初から日本語が含まれていることと比べると、日本国内でのシェアの違いはあるにせよ、Macがないがしろに扱われているのではないかと感じる。
いずれにしても、Safariの翻訳機能を利用するには、システム環境設定にある「言語と地域」の「優先する言語」において、翻訳後の言語を追加しておく必要がある。すると、Safariで翻訳可能なページを開けばアドレスフィールドに「翻訳を利用できます」と表示されるようになる。フィールド内の翻訳ボタンをクリックして、目的の言語を選ぶだけで、ページ全体が翻訳される。
気になるApple Silicon Macへのアプリ対応
最後にApple Silicon Macへのアプリ対応について、気になる3つの点に簡単に触れておこう。1点目は、Apple Silicon用ネイティブコードを含むアプリの状況はどうなっているかということ。2点目は、従来のインテルMac用アプリは、本当に何の問題もなくApple Silicon上で動くのかということ。そして3点目は、iOSやiPadOS用のアプリは、実際にApple Silicon Mac上で使えるのかどうかだ。
Apple Silicon用ネイティブコードを含むアプリの状況
1点目についてまずいえるのは、Big Surに付属する純正アプリは基本的にすべてUniversalアプリとなり、インテルとApple Siliconの両方にネイティブで対応していること。これはアプリの「情報」ダイアログで「アプリケーション(Universal)」という表記を見れば確認できる。
App Store上のアプリも、続々とUniversal対応が進んでいるようだが、これはアプリごとに異なるので、現状で全体の何%が対応しているかは不明だ。対応はサードパーティ任せとなるものの、実際にApple Silicon Macも発売されたので、盛んにアップデートがなされアプリが対応するのは時間の問題だろう。
従来のインテルMac用アプリは、本当に何の問題もなくApple Silicon上で動くのか
従来のインテルMac用アプリが、Apple Silicon上で問題なく動作するのかという点だが、これもアプリごとに異なる。そのため、現状でどれくらいの割合で動作するのかということはいえない。もしうまく動かないアプリがあった場合、インテル版のままアップデートされて動くようになることは考えにくい。その際は、Universal版のリリースを待つしかないだろう。
なお、インテルMac用アプリを初めてApple Silicon Macで起動する際には、Rosettaのインストールを確認するダイアログが表示されるので、インストールを行う必要がある。これまで試した範囲のインテル用アプリは、Rosettaのインストールだけで何の問題もなく動作した。
iOSやiPadOS用のアプリは、実際にApple Silicon Mac上で使えるのか
3点目は、待望のiOS/iPadOSアプリの動作状況だ。これらのアプリは、Mac用App Storeを使って検索し、通常のMac用アプリとまったく同様にMacにインストールできる。デフォルトでは、検索結果に「Mac App」が表示されるので、「iPhoneおよびiPad App」のボタンをクリックすれば、iOS/iPadOSアプリが表示される。
まずこれらiOS/iPadOSアプリのデベロッパーが、Mac用App Storeに公開することを選択していなければ、見つけることもできず、インストールもできない。iPhoneやiPadのセンサーを利用するものなど、明らかに動作しないものは、デベロッパーの選択によってMac用としては公開しないことも可能となっている。
ただし、公開されているからといって、必ずしも動作するとは限らない。記事執筆時点では「macOSでは検証されていません」と表示されるものも多く、その中にはインストールすらできないものもある。インストールできて動作するものについては、従来のMac用アプリと同様に違和感なく利用できた。
Big Surの正式版がリリースされたとはいえ、アプリについては、まだしばらくは流動的な状態が続くものと考えられる。Apple Silicon Macを安心して本格的に活用できるようになるまでには、まだ少し時間がかかるかもしれない。
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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Apple / アップル(企業)、macOS(製品・サービス)、WWDC(イベント)
- Original:https://jp.techcrunch.com/2020/11/30/apple-macos-big-sur/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Fumihiko Shibata