ファーウェイのサブブランド「Honor」(オナー)が別会社として独立することになった。アメリカ政府による制裁を受け、Honorを販売する中国の関連企業を救済するためだ。Honorはファーウェイのスマホ出荷量、2億4000万台の約1/4を占める巨大ブランドだ。年間約6000万台を出荷する巨大メーカーが2021年に誕生するのだ。
もはや格安スマホブランドではない
ハイスペックスマホも展開するHonor
Honorブランドのスマホはファーウェイの低価格モデルとして誕生した。時は今から7年前の2013年12月16日、ファーウェイとは全く異なるブランド名「Honor」を冠したスマホ2機種、「Honor 3」「Honor 3X」が発表された。オンライン販売に特化し、格安だがファーウェイの主力製品とバッティングしないルートで市場展開されていったのだ。
Honorは価格の安さと性能バランスの良い「コスパスマホ」として話題となり、特に若者たちに受けていった。実はHonorが登場する半年前に、コスパスマホ元祖のシャオミが「Redmi」を発表し、中国中で大ブームとなった。しかしシャオミのスマホは「安い」が売りであり、シャオミのスマホを使っていることはあまり自慢にはならなかった。一方ファーウェイは中国の大手スマホメーカーであり、しかもHonorはブルーの美しい箱に入れて販売されたことで「安いけどちょっとおしゃれ」というイメージを若者たちに植え付けていったのだ。
Honor人気が高まっていく中で、ファーウェイはHonorを若者に特化した製品展開を行うメーカーとして、ファーウェイとは全く別のブランド展開を進めていった。日本など海外ではファーウェイのサブブランドという位置づけだったが、中国ではファーウェイの店ではHonorのスマホは売らず、Honor専門の店舗を次々と展開していったわけだ。
気が付けばHonorはハイスペックなCPUに高画質カメラを搭載するモデルも展開するほど製品ラインナップも増えていった。モバイルゲームやライブコマース配信を行うユーザーには高速CPUや高画質カメラが必要だ。若者が買いやすい手ごろな価格の製品ばかりだったら、Honor人気が高まることはなかったに違いない。
現在最高スペックのHonorのスマホは「Honor 30 Pro+」。チップセットはKirin 990を搭載、これはファーウェイ春のフラッグシップモデル「P40」シリーズと同じものだ。カメラは5000万画素のメインに加え、800万画素の50倍望遠、1600万画素の超広角、200万画素の深度測定と4つを搭載。さらにフロントカメラは3200万画素もある。価格は4999元、約8万円だ。こんなハイスペックなスマホも出しているからHonorは中国で大人気なのだ。「Honorのスマホを持っていると、周りから羨望のまなざしを受ける」のである。
スマホ以外も盛りだくさんな
Honorの製品ラインナップ
Honorは他にも7インチを超える大画面スマホ「Honor X10 Max 5G」もある。本体サイズも174.4 x 84.9 x 8.3 mmと大きく、重量は232gだ。カメラは4800万画素+200万画素と今時珍しく2つしか搭載していないが、大きいボディーサイズを生かしてバッテリーは5000mAhを搭載する。巨大なディスプレイで半日くらい動画を見続けても十分電池は持つ計算だ。価格は1899元、約3万円。格安スマホらしい価格だろうが、こんなデカい画面を持つ格安スマホなどないだろう。
Honorを代表する2つのスマホを紹介したが、只者ではないことがおわかりだろうか? Honorがファーウェイから独立することは日本でもニュースになっているが、「ファーウェイの格安ブランド」とHonorを紹介するメディアも多い。しかしHonorは決して格安ブランドではない。若者を狙ったカジュアルブランドと言ったほうが正しいのだ。
たとえばHonorはスマートウォッチも出している。高性能な「Honor Watch GS Pro」にはミリタリーカラーっぽいベルトをつけたモデルもある。また低価格でカジュアル路線の「Honor Watch Magic」にはピンクのベルトのモデルもある。どちらもスマートウォッチというよりも普通の腕時計のようなデザインだ。Apple Watchのようにスマートウォッチであることを大きくアピールするような外観ではないため、さりげなく腕にはめておけば友人が「あれ、それ何?」と気づいてくれるだろう。ファッションアイテムとしても普通に使えるスマートウォッチをHonorは出しているのである。
さらには若いゲーマーのためのゲーミングノートPCもHonorは出しているのだ。本家ファーウェイもノートPCを出しているがビジネス向けの外観のモデルだけだ。それに対してHonorのノートPCは天板部分に光るロゴを埋め込んでおり、さらに側面やキーボードもライトで光る。ゲーミングPCといえばド派手に光るモデルばかりだが、Honorもそれに倣って青い光を放つクールなゲーミングPCを仕立て上げたのだ。
ユーザーを絞った製品展開
ファーウェイを脅かす存在になる
Honorが若者向けスマホとして成功した理由の1つに、ファーウェイの製品開発力があったのは当然のことだ。ファーウェイが常に最高のチップセットやカメラを開発し、それと同じ部材を使ってHonorのスマホは次々と生まれてきた。しかしファーウェイから分社化されるとなると、もはや「他社」であるファーウェイの技術は使えない。例えばライカと協業し業界最高のカメラを開発してきたファーウェイのカメラを今後のHonorのスマホは搭載することができないのだ。
しかしHonorにはすでに多くの若い世代のファンがいる。その若い世代をターゲットにした製品に特化したモデル展開をこれからも進めていけば、他のメーカーに浮気するユーザーを最小限に抑えることができるだろう。もちろん今後出てくる製品は今までのHonorに比べてハイエンドモデルではスペックがやや低めなものになってしまうかもしれない。しかしその分価格を抑えることはできる。
今後超ハイエンドモデルの開発は難しいかもしれないが、ある程度高画質なカメラと高速なCPUを搭載したモデルの開発はできる。なぜならファーウェイから独立したことで、これからはファーウェイ系列のKirinチップセットを使う必要は無くなり、業界最大手のクアルコムのチップセットを使うこともできるからだ。
一方、若い世代を狙ったモデルはOPPOやVivoといった他の中国メーカーも展開している。さらにファーウェイの「nova」シリーズも実は若者を狙った製品を出しているのだ。特にnovaは今までファーウェイとHonorで同じターゲット向けの製品展開をしていたことから、製品イメージも似通ったところがあった。しかし今後は真っ向からぶつかるライバルとしてHonorはファーウェイに挑むことになる。
どんな世界でも競争がよりいい製品を生み出してきた。ファーウェイは中国で今やシェア4割以上のトップメーカーとなった。しかしシェアが高すぎることはイノベーションの停滞を招いてしまう恐れもある。ファーウェイからHonorが独立することで、ファーウェイのスマホ出荷量も今の3/4に減少する。その結果再び各社の競争が激しくなり、全く新しいスマホが生まれてくるかもしれない。2021年はスマホ各社の戦いがより激化し、面白い製品が出てくることに期待したい。
- Original:https://www.digimonostation.jp/0000132402/
- Source:デジモノステーション
- Author:山根康宏