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マツコもたぶん知らない!? IHクッキングヒーターのアツすぎる世界

直接鍋を加熱するIHクッキングヒーターは、高火力、かつ火を使わないので安全かつクリーンといった利点があります。今年は、パナソニックが業界で初めて200V対応のビルトインIHクッキングヒーターを生産してから30年。累計生産台数は700万台を突破しました。その生産拠点である神戸工場で、製造工程を取材してきました。あまり知られていないIHクッキングヒーターの最新機能についてご紹介していきましょう。

IHクッキングヒータの世帯普及率は約23%(平成29年環境省調査)。ざっくり4世帯に1世帯が使っている計算です。しかし、都市ガスが発達している東京や大阪圏ではこの数字は小さくなる傾向があります。飲食店で鍋料理に使われていたりするし、存在自体は知られていると思うんですよ。ただ、ビルトインのIHクッキングヒーターは、そう簡単に取り付けられるものでもないので、使ってない人にとってはよく知らない、なんならネガティブなイメージを持っている人もいそうです。私自身もかつては、「オール電化のためのものでしょ」とか「鍋などをIH対応に買い替えなくちゃならないのは面倒」などと思っていましたから。

だいたい、火を使わずに鍋が熱くなるのか、昔の人には魔法にしか見えなさそうですし、現代人とて原理を説明できるのは少数じゃないですか? 原理から最新の機能までを知るには製造現場へ行くのがいちばん。というわけで、パナソニックIHクッキングヒーターの製造拠点、神戸工場へGO!

パナソニック アプライアンス社神戸工場。生産品目は、IHクッキングヒーター(ビルトイン、据え置き、卓上)や業務用電子レンジなど。

冒頭にも書いたように、今から30年前の1990年、200VのIHクッキングヒーターを業界で初めて量産開始したのがパナソニックです。初代モデルは全国初のオール電化住宅に採用されました。それ以前にも、飲食店向けの業務用のワゴンタイプ、卓上タイプのIHクッキングヒーターを手がけていましたが、一般家庭のキッチンでガスコンロからの置き換えがスタートしたのは、高出力200Vのビルトインタイプ以降です。ちなみに、IHジャー炊飯器が各社から発売されたのは1988年。炊飯器の方が生まれが少し早く、生活に溶け込むのも早かった先輩ですね。

(左から)1974年、国内初の高周波方式によるIHクッキングヒーター「クールトップワゴン(KZ-1W)」。価格は16万9000円。客の前で料理を披露するホテルや飲食店で使用された。100V対応の卓上IH調理器「ジョイクック(KZ-1000T)」(1978年発売)、「ジョイクック(KZ-20AT)」(1986年発売)は、家庭で気軽に使えることからIH調理器の認知を大きく広げるとともに、普及に貢献した。
左が1990年に発売された業界初の200V対応ビルトインタイプ「KZ-DHC31」35万円。全国初のオール電化住宅「コモンシティ星田」(大阪・交野市)に導入された。右のモデルと比較するとわかりやすいが、高さは27cmと大きい。後継機ではインバーター回路の小型化によってシステムキッチンモジュールサイズ(22cm)になった。

そして、神戸工場でIHクッキングヒーターの製造が開始されたのは1995年。直後に阪神・淡路大震災に見舞われたましたが早急に復旧。この震災では火災の被害が甚大でしたし、またガスより電力インフラの方が復旧が早かったこともあり、期せずしてIHクッキングヒーターに注目が集まりました。さらに2001年から2010年にかけては、オール電化住宅の普及が拡大し、大きく需要を伸ばしていきます。ところが2011年に発生した東日本大震災で状況は大きく変わります。原発事故により、それまでオール電化住宅を推進してきた電力会社の活動が停滞。さらに首都圏でも計画停電が実施されたため、オール電化がリスクとして捉えられるようになります。「IHは、もう終わってしまうの?」と思われたものの、2016年以降は、初期ユーザーの買替え時期が到来し再成長に転じています。

アジア向けのIHクッキングヒーター。パナソニックは2006年に香港市場に参入、以降アジア、欧州向け製品を神戸工場で生産している。

さて、ここからは、工場の製造工程を挟みながら、IHクッキングヒーターの原理と最新機能をご紹介していきましょう。掃除機や扇風機にとってのモーター、冷蔵庫におけるコンプレッサーのように、IHクッキングヒーターの心臓部にあたるのが「コイル」。ぐるぐる巻かれた銅線ですね。IHクッキングヒーターのトッププレート下にはコイルが埋め込まれています。コイルに電流を流すと磁力線が発生し、その磁力線が金属の鍋を通過し電流を発生させます。この現象を「電磁誘導」といいます。鍋を通った電流は金属の抵抗によって熱に変わる。これが、鍋自体が加熱される仕組みです。電磁誘導の仕組みは、スマホなどのワイヤレス充電器にも用いられています。ワイヤレス充電の場合は、受け側もコイルにすることで大きな熱を発生させることなく電気に換えているのです。

IHクッキングヒーターの心臓部とも言えるコイル。右側のコイルはグリル底面に設置するため四角形に成形されている。

従来のIHクッキングヒーターでは、銅製やアルミ製の鍋は加熱できませんでした。なぜなら、これらの金属は電気抵抗が小さい(電気を通しやすい)ので、ワイヤレス充電器と同じ原理で熱を発生させにくいのです。土鍋はもともと電気が通らないので、金属を混ぜたIH対応土鍋があったりします。土鍋ぐらいならまだしも、今使っている銅やアルミの鍋を買い替えるのはコストですし、鍋を買う際にIH対応か確認するのも面倒ですよね。そこでパナソニックは、2002年にあらゆる金属鍋を加熱できるオールメタル対応IHを開発します。オールメタル対応IHでは、高周波の電流を、従来の約30kHzから約90kHzにアップ。コイルを構成する銅線を従来の0.3mmから0.05mmへと細く、より多くの線を使うことで、より多くの電流を流せるようになっています。

より細い銅線で作られたオールメタル加熱対応コイル(右)。
3倍の周波数を生み出す制御ユニットも小型化が進められた。
2000年の新製品から搭載された「光るリング」。LEDを赤く光らせることにより、左右どちらのヒーターを使っているかが一目でわかる。

神戸工場では、この髪の毛より細い銅線を最大で1600本撚って(よって)加熱コイルユニットを作っています。極細の線が撚られて段階的に太くなっていく工程は、家電というより製糸工場のようです。そして、最終的に巻き上げられたコイルに接着剤を付けてフタをする工程には、人型のロボットも導入されていました。工場はあらゆる工程が自動化され、全体が大きなロボットのようなものですが、人の形をしたロボットがいると「オオッ!」っと反応してしまいます。SF映画などの影響でしょうか。

髪の毛よりも細い銅線を撚り上げていく工程。
撚られた線が加熱コイルの形に巻き上げられる。
コイルユニットを黙々と加工する人型ロボット。

工場見学では、最新モデルを使っての試食会も行われました。パナソニックのIHは、温度検出にレスポンスの早い「光火力センサー」を採用しており、温度制御に優れています。なので、ホットケーキ、ハンバーグ、餃子、お好み焼きといった、火加減の難しいメニューも「焼き物アシスト」機能によって失敗なく作ることができます。10種類のメニューから選択すれば、火力と焼き時間を自動でコントロール。「食材を入れる」「フタを閉める」「裏返し」「焼き上がり」などのタイミングが音声とディスプレイでお知らせされます。実際にホットケーキを何枚も焼いてもらっていましたが、すべてのホットケーキが同じや黄色に仕上がっていました。

裏返しまでの時間がカウントダウン。
何枚焼いても焼き色が一定!

グリル部も進化しています。ピザや干物、焼きなすといった自動調理機能を搭載。さらに「凍ったままIHグリル」機能では冷凍の食材を解凍せずそのまま一気に焼き上げることができます。これはなかりの時短。庫内もフラットかつLED灯まであるので、お手入れも楽です。これまで魚焼きぐらいしか使わなかったグリルの使用頻度がかなり高まるはずです。

このようにカッチカチに冷凍された鶏肉を……。
解凍なしで一気に焼き上げる。皮はパリッと中はジューシーな仕上がりでした。
グリルには取っ手の撮れる某フライパンもそのまま入るんですよ! 人によってはオーブン要らないんじゃない?

正直、これまで保守的に調理はやっぱりガスでしょ派ではあったのですが、家を買うことがあれば断然IHクッキングヒーターにしたいですね。とくに自分がこれから歳を取っていくことを考えれば、安全のメリットも大きいですし。その前に、家・欲しい(IH)。

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