サイトアイコン IT NEWS

リモートワークは環境に優しいがそのためのテクノロジーにも炭素コストがある

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるリモートワークへの大幅なシフトによって、自動車その他の二酸化炭素排出量は大幅に減少したが、また別のコストがかかっている。最新の研究によると、自宅勤務を可能にするためのネット接続やデータインフラストラクチャーは一時的な炭素コスト引き上げを起こしている。そしてそれは、カメラをオフにするいい訳になる。

パデュー大学、イェール大学、およびMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者が、インターネットインフラストラクチャーの炭素、土地、および水のコスト分析を試みた。

「持続可能なデジタル世界を構築するためには、インターネットの環境負荷を慎重に評価し、その増大に最も影響を与える個人あるいは集団の取るべき行動を見定める必要がある」と彼らの論文の導入部に書かれている。

単一の指標を使うのは短絡的すぎると彼は指摘する。炭素排出量は有効な指標だが、電力源や水のコスト(データセンターの冷却・運用に必要)に加え、製品を作るために必要な理論的「用地費」を追跡することも重要だ。もしこれが少々根拠に欠けると感じたなら、それは一連の推計がそうだからだ。

「この種の計算を地球規模で行うためには、数多くの仮定が必要であり、必要なデータの多くが欠けています」と筆頭研究者であるイェール大学のKaveh Madani(カーヴェ・マダニ)氏はTechCrunch宛のメールで述べた。「それでもこれは良い出発点であり、手に入るデータを使ってできることにベストを尽くすだけです」(マダニ氏は、統計的や科学的な厳密さの欠如よりも、業界の透明性の欠如の方が、研究の精度を妨害していると指摘した)。

研究結果の一例を挙げると、1時間のHDビデオストリーミングは最大440gの二酸化炭素を排出する。YouTubeの排出は最大1000g、Zoomやビデオ会議では160gなどビデオ品質によって異なる。一方、現代の自動車はガソリン1ガロン当たり8887g(1リットル当たり2347g)排出している、とEPA(米国環境保護庁)はいっている。職場まで20マイル(32 km)通勤する代わりに、ビデオミーティングを1時間行っているなら、間違いなくグリーンであり、1桁か2桁は違う。

画像クレジット:Madani et al

ただし、在宅勤務へのシフトやデジタル消費が悪いことだといっている人はいない。「もちろん、バーチャル会議はオフィスにクルマで行くよりも環境に良いけれど、もっと良い方法があるはずです」とマダニ氏はいう。

問題は、わずかな環境コストでビットを動かすことだけではないことだ。たしかにそのデータはファイバーを通じて送られるだけたが、それは巨大なデータセンターや通信インフラ、そしてもちろん無駄なデバイス買い替えの永遠のサイクルのおかげでもある。ただし最後の1つはこの論文の推計には含まれていない。

使うもののコストを知らなければ、情報に基づく使い方はできないと研究者らは警告する。
「バンキングシステムはペーパーレスによる環境への好影響を訴えるが、カメラをオフにしたりストリーミングの解像度を下げることの有益性は誰も教えてくれない。つまり、ユーザーの了解を得ることなく、各プラットフォームは私たちの環境負荷を増やしているのです」とマダニ氏はパデュー大学のニュースリリースで語った。。

顔が見える必要のない通話でカメラをオフにすることによる炭素排出量の削減は、わずかではあるが些細ではない。同様に、ストリーミングの品質をHDからSDに落とすことで、通信に関わるエネルギーを約90%節約できる(もちろんテレビやスピーカーの使用電力は変わらない)。

悲観的情報を読み続けるあの「ドゥームスクローリング」の習慣はすでに問題になっているが、親指のフリック1つずつが、間接的にどこかのデータセンターに熱い不気味な気体を排出させ、空調費用をわずかに上昇させていることを思うと、いっそう問題だ。ソーシャルメディア一般はHDストリーミングほどのデータを消費していないが、TikTokをはじめとするビデオ中心ネットワークの普及は、すぐに追いつくことを意味している。

マダニ氏は、彼らの研究に関する誤解を招く記事はともかく、この研究はカメラをオフにするなどといった簡単な治療薬を処方するものではないと説明する。もちろんそうすることは可能だしするべきだが、我々が見るべきは体系的変化であり個人ではない、と同氏はいう。何百何千万人の人々がそれぞれカメラをオフにしたりストリーミング品質を4Kから720pに下げる可能性を考えてみてほしい。ほんのわずかだろう。

その一方で、もしこれらのサービスのコストが明確になれば(マダニ氏らが取り組み始めているように)、対象となる企業にインフラ側の変化を求める圧力がかかり、アルゴリズムを改善することで、5000万人がかすかな不快を受け入れる意識的決断をする以上のエネルギーが節約されるだろう。

「消費者には、今起きていることをもっとよく知る権利があります。彼らは自分のコンピューターでEnterボタンを押したとき何が起きるかを知りません。知らない人たちが行動を変えることは期待できません」とマダニ氏はいう。「政策決定者は立ち上がってこの分野の問題を提起し、規制を検討し、透明化の改善を強制し、公害税を課し、インセンティブ機構を作るべきです。将来もう1つの維持不可能で制御不能なセクターを見たくなければ」。

デジタルへの転換は、驚くべき効率を生み出し多くの無駄を削減あるいは排除してきたが、その過程で新たな問題を生み出した。進歩とはそういうものだ。新たな問題が古い問題より好ましいことを願うばかりだ。

この研究は学術雑誌、Resources, Conservation and Recyclingに掲載されている。

関連記事:リモートワークは「自宅監禁」から柔軟性のある「どこでも勤務」に変わっていくべき

カテゴリー:EnviroTech
タグ:リモートワーク二酸化炭素排出量

画像クレジット:Olivier Doiliery / Getty Images

原文へ

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

モバイルバージョンを終了