放置されたスクールバスに潜り込み、荒廃した廊下に不法侵入し、つかの間の雷雨を避けて、夜遅くまで誰もいないチャイナタウンの通りをさまよった。夏の2週間、私はこの上なく幸せだった。
ニューヨーク市は封鎖されていた。狭いアパートに隔離されていた私は、意気消沈して落ち着きがなかった。何か創造的なことをしたいと強く願っていた。ありがたいことに、レビュー用のHasselblad(ハッセルブラッド)X1D II 50Cが届いたので、スタジオの上司たちの承認を得て、ソーシャルディスタンスを守りながら屋外での撮影に出かけることにした。
花や建物などの日常的な写真を撮るのは、1万ドル(約105万円)超のカメラキットにはもったいないので、代わりに友人と私は楽しくて小さなプロジェクトに参加した。それは、私たちの好きな映画にインスパイアされたポートレートを撮影するというものだ。
マスクと手指消毒液を用意して、X1D II 50Cと80mm F1.9レンズ(被写体に近寄らずクローズアップ撮影するのに最適)を使って、ニューヨークのあまり馴染みのない風景の中でその性能を試してみた。
最後の写真について面倒に巻き込まれる前に言っておくと、Alex(アレックス)とJason(ジェイソン)はプロのスタントマンで、持っているのは小道具のゴム製の拳銃だ。彼らは香港映画の傑作「Infernal Affairs(インファナル・アフェア)」(スコセッシのリメイクよりずっと良い)のラストシーンを再現している。
このカメラは、いくつかのアップグレード(大型化して反応も改善された背面のタッチディスプレイ、整理されたメニュー、テザリング機能、速くなった起動時間とシャッターレリーズ)を受け、価格と使いやすさの点で、従来より若干親しみやすくなっているもののX1D IIは基本的に先代モデルと変わらない。だから私は、標準的なレビューは省いた。
それは何であり、何でないか
X1Dに関する最も一般的な不満は、オートフォーカスの遅さ、シャッタースピードの遅さ、バッテリーライフの短さだった。X1D IIではこれらの点が改善されているが、それほどではない。私はこのラグを邪魔だと思うよりも、性急でなく落ち着いた撮影スタイルのために脳を切り替えることにした(嬉しい副作用だ)。
X1Dのレビューでも言及したが、最近ではApple(アップル)をはじめとするスマートフォンメーカーが、簡単にすばらしい写真を撮影できるようにしている。そんな手軽さが、日常の平凡さを過剰に捉える文化を生み出した。必要以上にたくさん撮ってしまう。私も同罪だ。私のiPhoneのカメラロールにある画像の90%は、間違いなく「撮り捨て」も同然と言えるだろう(残りの10%は私が飼っている犬の写真で、彼はすばらしくフォトジェニックだ)。
しかし、X1D IIは決して簡単なカメラではない。時にはイライラすることもある。初心者であれば、基本的なこと(ISO、F値、シャッターを切るタイミング)を覚える必要があるかもしれない。だが、それに見合う価値はある。1枚の写真が良く撮れたときには、圧倒的な満足感が得られる。しかもその写真は、5000万画素で、細部までしっかりと描き込まれており、壁に飾る価値がある。X1D IIに大金をつぎ込んだからといって、すぐに良い写真家になれるわけではない。だが、そうなるための励みにはなるはずだ。
スタジオの人工的な照明や不自然なセットのない屋外での撮影は即興の練習になった。私たちは実存の街灯やネオンや陽光を求めて街中を歩き回り、撮影に適した場所を発見したり、あるいは上手くいかない場合は場所を変えたりした。
私たちは目的を持ち、探索していた。
このカメラを使った2週間から私が得たもの、それは「一旦止まって、自分の行動が意味あるものにすること」である。
レビューに使用したレンズキット:税別1万595ドル(約112万円)
ハッセルブラッド X1D II 50C ミラーレスカメラ ボディ:5750ドル(約61万円)
ハッセルブラッド 80mm F/1.9 XCD レンズ:4845ドル(約51万円)
カテゴリー:ハードウェア
タグ:Hasselblad、カメラ、写真、レビュー
画像クレジット:Veanne Cao
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(文:Veanne Cao、翻訳:Hirokazu Kusakabe)