【Japan編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説する「Off Topic」の投稿の転載だ。
自己紹介
こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話や最新テックニュースの解説をしているポッドキャストもやっています。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!
はじめに
Twitterには多大なる可能性があり、ものすごい価値を世の中に提供している会社・サービスだが、同じレベルの価値を捉えてない。そのため、多くの人はTwitterに対してフラストレーションを抱いている。ただ、そんなTwitterがここ数カ月でかなりおもしろい動きを見せている。
複数の会社の買収、そして自社開発している音声SNSはTwitterがこれから元々自社の優位性だったディスカバリー・ディストリビューションするサービスからコンテンツ制作およびエンゲージメントプラットフォームへ進化するように見える。これが本当にTwitterのビジョンであって、ちゃんとビジョンを実行できればTikTokやFacebookと対等に戦えるプラットフォームになるかもしれない。
今回の記事では、Twitterの最新動向から考えられる今後の戦略、その偉大なるポテンシャル、そして成功・失敗するかもしれない理由を解説する。
Twitterが買収した会社
昔、Twitterは多くの会社を買収していた。2011年から2015年の間で44社買収していたが、2016年では3社、2017年では0社、2018年では1社、2019年では3社、そして2020年では3社とペースダウンしている。そんなTwitterだったが、2020年12月と2021年1月の買収履歴を見てみると、
1カ月ちょっとで5社の買収はTwitterとしてはすごく早いペース。そのため、Off Topic含めいろいろなメディア企業はTwitterが大きく方向性を変える、新しい取り組みを行うと読んでいる。それを理解するために、まずTwitterが最近買収した会社を見てみよう。
Squad
2020年12月に買収されたソーシャルスクリーンアプリ「Squad」は、若者層から人気のアプリで、新型コロナの影響も追い風になりさらに伸びた。TechCrunchの記事によると、3月前半の2週間で利用が54%増え、3月後半には1100%増加となった。
Twitterは、Squad買収により、Squadとしてのサービスは終了し、Twitter内に組み込むことをプロダクト開発責任者のIlya Brown(イリヤ・ブラウン)氏が投稿した。
Excited to share that the @squad team is joining @Twitter to help us bring new ways for people to interact, express themselves, and join in the public conversation.
— Ilya Brown (@ilyabr0wn) December 11, 2020
Ueno
2021年1月にTwitterはクリエティブエージェンシーのUenoを買収したと発表。Uenoは過去に何度もTwitterと一緒にプロダクトのデザインやUX改善を行ってきたが、Twitter以外にNew York Times、Apple、Slackなどの大型プロジェクトを担当してた。
Uenoを買収したのはチームのためなので、Twitterは今後Uenoのチームメンバーをいろいろな新規プロジェクトに関わってもらう予定。
Breaker
Uenoを買収する数日前にTwitterはソーシャルポッドキャストアプリのBreakerを買収。2016年に設立したBreakerは2020年末時点では番組数が70万超えていたが、ポッドキャストのアプリランキングでは10位とメジャーアプリにはなれなかった。
こちらもUenoと同じようにBreakerチームをTwitterが採用したかった。サービス自体は別の会社が引き取ることになり、BreakerチームはTwitterの音声サービス(Twitter Spaces)の開発に取り組むことがわかった。
In work news, I’m joining Twitter to help build @TwitterSpaces! While I’ll very much miss @breaker, I’m so excited to help create the future of audio conversations. https://t.co/0Y8fkbCIFm
— Leah Culver (@leahculver) January 4, 2021
Revue
2021年1月末にTwitterはSubstack競合のメルマガ配信サービスのRevueを買収。Revueは1700万ドル(約17億8000万円)の売上を持つSubstackと比較するとかなり小さいプレイヤーで、まだ6名体制だった。
TwitterはRevueをそのままプロダクトとして開発し続けながら、Twitterとの連携を進めると語っている。今回の買収はTwitterがロングフォームコンテンツ(メルマガ・記事)の市場へ入り込むと噂されるきっかけとなっている。
この買収は個別で関係ないものに見えるかもしれないが、実はTwitterの今後の戦略に大きく繋がるものになるかもしれない。この戦略を理解するためには、まず最もTwitterが今後注力するであろう音声SNSとメルマガ配信をどうTwitterが侵入して拡大できるかを解説していきます。
Clubhouseに対抗する音声SNS:Twitter Spaces
2020年に音声SNSアプリのClubhouseが人気になり始めた。当初は音声版Twitterとも言われていたが、初期のユースケースはTwitterなどのニュースや何かの情報についてディスカッションするアプリとなっていた。そのため、多くの米国のVCはClubhouseを始めた当初はTwitterの利用時間が減ったこと発言していた。
Off Topicでも2020年4月からClubhouseを追っている中、Twitterが買収するべきことを語っていた。
今Twitterは$3.8Bぐらいのキャッシュを持っている。。。Clubhouseへの買収オファーはまだしていないのかなw https://t.co/sE9GKiGeAc
— Tetsuro Miyatake (@tmiyatake1) April 27, 2020
それに気づいたのか、Twitterは2020年12月に音声ベースのチャットルーム「Twitter Spaces」を検証し始めた。
そもそもその前からTwitterは音声機能を追加したのと、会社の創業時(当時はOdeoというサービス名)もポッドキャストプラットフォームを作っていた。直近ではSquadやBreakerを買収したが、それはTwitterとしては本気で音声領域に入り込もうとしている証拠。
ベーシックな機能としては、ClubhouseやChalkのように話している人やリスナーのプロフィールアイコンが写り、音声ベースでの部屋を簡単に立ち上げられるプラットフォームとなる。Clubhouseと同じように、部屋に入って会話を聞きながらTwitterのアプリでブラウジングが可能で、他のアプリを開いても音声は途切れない。どのようなUIになっているかを見たい方は、以下の動画でご確認を。
Android gang…we haven't forgotten about you
@af_mada pic.twitter.com/SLaE1bXZUz
— Spaces (@TwitterSpaces) January 29, 2021
現在、Twitterのストーリーズ機能のFleetsと同じ場所に出てくる。色合いを紫色にして、人数の表記やSpacesのアイコンを入れている。
今はTwitterのスマホアプリ内でしか対応しておらず、まだバグが多い。特に音声クオリティが低く、場合によっては途中で音声が聞き取れないケースも多々ある。特にAirPodsを使うと、音声クオリティが低いという噂も出ている。
そんな中、Clubhouseとはいくつか機能的な違いと、プロダクトの方針の違いがあることがわかる。
Clubhouseとのプロダクト方針の違い
Clubhouse創業者のPaul Davidson(ポール・デビッドソン)氏は1月後半にClubhouseは動画展開を絶対行わないとユーザーからQ&Aを受けるTownhallで発言した。そして、同時にClubhouseのroom(部屋)をプラットフォーム、会話の中心機能として活用し続けたいと話した。明確には語ってないが、これはおそらくClubhouseを音声メインとしたプラットフォームとして続けて、音声と一緒にその他の体験・コンテンツ提供をあまり考えていないということだと理解している。
Twitter SpacesのUI・機能を見ると、Clubhouseとはかなり違う戦略をとっているのがわかる。Clubhouseはroom、いわゆる音声の会話をコンテンツの中心にする予定だが、Twitter Spacesは音声だけではなく、いろいろな共有コンテンツをベースに会話ができるようなプラットフォームにしているのがわかる。
Clubhouseとの機能の違い
まず、最もわかりやすい違いはTwitter Spacesだと部屋のスピーカー・モデレーターがツイートを表示できること。ツイートがTwitter Spaces内のUIで現れ、それを他のスピーカーやリスナーが読んで、それについて会話ができるようになっている。
複数のツイートが共有された場合、スワイプして他のツイートを見ることができるようになっている。
今までだと会話につながるような情報、おもしろいMeme、プロダクトの紹介など、さまざまなユースケースが登場している。ほとんどの場合、新しいツイートが共有されると、当然ながらそのツイートをみんな見てそれについて話す。それを考えると、一切画面を見なくても良いClubhouseとは少し違う使われ方が想定される。
さらに、Twitter Spacesでは書き起こしボタンがある。
米国だと英語の書き起こしの精度がかなり上がっている。Google Hangoutsなども似た機能があるが、Twitter Spaceだと音声の質が悪いので、スピーカーの話が聞こえなく書き起こしに頼るケースもあった。
それと比較してTwitterは他のスピーカーもリスナーも絵文字を使ったリアクションが可能だ。
今出せる絵文字は「
絵文字を増やすリクエストはかなり多いらしく、モデレータースピーカー側とするとどの話が響いているかがわかりやすくて高評価。ベータ版であまり広がっていないからかもしれないが、Twitter Spacesユーザーにヒアリングしたところ、Clubhouseより小さい部屋で、友達同士で話しているイメージがあるという。
重要なのはツイートの表示、書き起こし、絵文字リアクションはすべて音声以外のインタラクション機能・方法であることが、Twitter SpaceとClubhouseの根本的な違いとなる。そうなると、もしかしたらTwitterはClubhouseと当初だけ競合して、最終的にはTwitch、Zoom、イベントサービスと競合するかたちになるかもしれない。Color CapitalのChris Cantino(クリス・カンティーノ)さんが予測するには、以下のようなユースケースがTwitter Spacesだと考えられる:
- SpaceXのロケットの打ち上げイベントをElon Musk自身がライブ配信する
- ミュージシャンが新しい音楽のリリースするタイミングで作る際にサンプルやNGテイクを見せる
- 教育系のレクチャーをやる際に図やビジュアルを見せる
- 投げ銭が一定数超える際にアンロックされるコンテンツ
この方針を考えると、Twitterは音声・会話をメインというより、共有できるコンテンツ体験を軸としてSpacesを作っていて、それを後々プラットフォーム化する戦略を取っていると思われる。
音声をきっかけにプラットフォーム化
Twitterは何故この方向性に向かっているのか?これは後ほど具体的に説明するが、Twitterは新規ユーザーの獲得、既存ユーザーのエンゲージメントの増加、そしてマネタイズオプションを増やす必要がある。その中でも特にプラットフォームが重要視しているのは既存ユーザーのエンゲージメントとマネタイズ。Twitter Spacesはどちらとも解決できる機能だ。
まずエンゲージメントを高める方法としては、Spacesを開発する際にTwitterは今後恐らく。ツイートの共有以外に、ライブ動画や他のコンテンツの共有を試せるようにするはず。
まずはライブ配信もしくはその他の動画コンテンツで、NetflixのWatch Party機能と似たようなユースケースが思いつく。それ以外にもTwitterが買収したRevue上で作られた記事を一緒に読むことも可能になる。記事以外にもスライドショーやプレゼンなども行われる可能性がある。将来的にはスタートアップがVCに対してピッチイベントも行えるようになる(クローズドルームだと営業などもTwitter Spacesで行える)。それ以外に既存のTwitter機能だと投票機能、そしてイベントなどでQ&Aとしてよく活用されるSlidoなどをコピーして質疑応答を出せるようにするなど、1つのスペースに参加者が全員集中できる共有体験をTwitterが試しそう。
そして、SnapchatのAR戦略と似たように、自社で試してから第三者に広げて、Twitterはさらなるユースケースやエンゲージメント方法を探してもおかしくない。
Twitter SpacesがSnap Mini化?
Spacesがエンゲージメントを上げられるとTwitterが確信した際に、次のステップはその共有コンテンツのスペースの上にいろいろな体験が作れるように第三者にオープン化する。これはWeChatのMini ProgramsやSnap Miniと似たような考えで、Spaces内でTwitterが持っていないアセットを繋ぎこむチャンスでもある。
ゲーム会社がミニゲームを開発したり、Hopinなどのイベント会社がTwitterで簡単にイベントの開催と管理ができるようにするなど、いろいろな新しいユースケースが考えられる。そうするとAppleやGoogleと似たようなアプリエコシステムを保有して、プラットフォームの価値を高めながらユーザーを他のプラットフォームへ流入させないようになる。
TwitterがSpaces Mini的なプラットフォーム的なポジションを取らないかもしれない理由は、会社がニュース・情報系のコンテンツにフォーカスしているからだ。元々Facebookに追いつけないと理解してニュースへフォーカスしたのがTwitterが成長した理由でもある中、再度他のプラットフォームと違うコンテンツで戦うのはTwitterとしては危険な動きかもしれない。
マネタイズ
Twitter Spacesのマネタイズはかなり幅広くなる可能性がある。今現在だとClubhouseが今後検証するマネタイズオプションと似ていて、イベントのチケット、投げ銭、そしてサブスクが考えられる。ただ、Twitter Spacesの強さは本当に共有コンテンツが人気になれば、そこでいろいろな新しいマネタイズ方法が生まれる。有料コンテンツ化、API使用料、アプリ内課金の手数料(AppleやGoogleと同じように)。
しかも共有コンテンツを見なく、Twitterのアプリ内をスクローリングさせることによって、Twitterは既存の広告ビジネスを見捨てずにSpacesを立ち上げることができる。
ディスカバリー課題の解決
Clubhouse含め、多くの音声スタートアップの大きな課題はコンテンツディスカバリーだ。Clubhouseだとフォロワーベースで通知が届いたり、roomがフィードで表示される。Twitter Spacesも同じくフォローしている人がTwitter Spacesを作ると、Fleetsと同じ場所に浮かぶ。ただ、これだけだとそこまで使われないかもしれないので、もし音声スペースが人気になれば、Twitterはいろいろな場所にSpacesのディスカバリー機能を入れられることが1つのアドバンテージポイントになる。
Twitter Spacesは共有コンテンツがツイート、記事、動画、画像などと考えると、そのコンテンツに対してSpacesを当て込むのが自然な流れだ。クリス・カンティーノさんは3つの事例を上げている。
- ホーム画面のフィード内で1つのツイートの下にSpacesのアイコンが表示される
- おすすめフィードのライブ配信動画にSpacesのアイコンが表示される
- 検索結果で記事のツイートにSpacesのアイコンが表示される
結局、Twitter Spacesの使用が何かの特定のトピックや共有コンテンツに対しての会話・音声体験であれば、自社サービス内のコンテンツを軸としてSpacesへ誘導させられる。これは今現在の膨大なTwitterトラフィックを活用しているため、Clubhouseにはない力となる。
音声からの興味グラフの強化
Twitterはどのプラットフォームよりも興味グラフを作れる会社だ(TikTokは違うアングルから興味グラフを作っているが)。特にニュースや情報系の話はTwitter上では盛んで、ツイートのスレッドや返信などで会話データも一部取得はできている。ただ、Spacesはそれ以上の深いデータをTwitterが取得できるようになる。すでに書き起こし機能があるのはわかっているので、そのデータをTwitterが上手く分析・カテゴライズできると、今まで以上の興味グラフを作れる。
それは後々広告に繋げたり、Twitterの今後のサービスに活かせる、長期的なアセットとなるはずだ。
Substackにプレッシャーを与えるメルマガ連携
2020年に人気になったメルマガ配信プラットフォームのSubstackに対抗するためにTwitterは競合サービスのRevueを買収した。特にTwitterとして気になったのはニュースメディアの記者が独立してSubstackを始めたことだ。Twitterのコアビジネスはニュースコンテンツを扱うことでもあるので、ニュースや情報を提供する人たちがメディア企業から他のプラットフォームに移行するのは注意しているはず。その影響なのか、New York Times記事によると2020年にTwitterは社内でSubstackの買収を検討した。
Revueの買収はBreaker買収やTwitter Spacesの開発よりもはるかにTwitterと相性の良い買収になるかもしれない。TwitterはSubstackや他のメルマガサービスより圧倒的に強い優位性を持っている。その優位性とはディストリビューション、いわゆるユーザー獲得能力。
Twitterの強みはディストリビューション
今だとSubstackやMediumなどのユーザー獲得方法は主にTwitter。大体どのコンテンツ制作サービス、特にニュースや情報系のプラットフォームはTwitterを活用してコンテンツのディスカバリーが行われる。TwitterはSNSという見方もあるが、どちらかというとディストリビューションネットワークに近しいかもしれない。
Substackはメルマガ配信を始めるには的確なサービスだが、スケールするとSubstackの手数料を嫌がり、プラットフォームから離脱する人たちが増えている。StratecheryのBen Thompson(ベン・トンプソン)さんが言うように、あるメルマガ配信者が毎年100万ドル(約1億500万円)の売上を達成した際に、Substackはその10%を取るので、少なくとも10万ドル(約1050万円)分の価値をライターのために提供しなければいけない。Substackはそのためにライターが書きやすくするプログラムやリーガルサポートなどのインフラ周りを固めているが、結局、一番ライター側がほしいのはユーザー獲得。
今Substackの最も強いディスカバリー機能はコンテンツをTwitterにシェアして拡散させるか、Substack上で自分がTwitterでフォローしている人がSubstackを作っているかチェックできる機能だ。
特にこの2つ目のユーザー獲得方法はすばらしいが、両方ともTwitterに依存している戦略となる。Twitterがもし自社のメルマガ配信サービスを始めたら、Substackで作る理由はどこにあるのかが問われるようになる。
Twitterとの連携方法
Twitterが本気でメルマガ配信サービスを既存プロダクトに埋め込むと、いろいろな可能性が生まれる。まずTwitterはすでにメールアドレス情報を持っているため、メルマガを作るのがワンクリックでできるようになる。実際にRevueとはこの実装がすでに完了している。Revueのホームページにいって「Start a newsletter for free」をクリックすると、Twitterで登録ができるようになっている。
次にTwitterはアプリ内にエンゲージメントが高いメルマガをフィード内に表示したり、場合によっては別のタブを作ることもできる。ニュースや情報系のツイートに関しては、関連するメルマガをプッシュすることも可能。そのプッシュを一部広告としてマネタイズもできるようになる。さらに、そのメルマガにクリックしたユーザーは場合によってはTwitterアプリ内でメルマガ自体も読めるようにしたり、メルマガ内のテキスト、画像、動画を簡単にTwitter上でシェアできるようになってもおかしくない。これはGeniusのアノテーション機能と似たようなものを想定できる。
それに追加して、今後ユーザーがメルマガ記事を読むと、よくよくツイートされた部分をハイライトして、そこをクリックするとどういうツイートがあったかを見せることができる機能とかも開発が可能になる。
Twitterにはすでに、アプリ内でロングフォームのコンテンツが作られている。1回のツイートで140文字しか入れられないため、多くのユーザーはスレッド機能を使って長文を書いている。それを考えると、TwitterもThreaderアプリと同じように、長めのスレッドを書いた人にスレッドを記事化できるオプション、もしくは自動的に記事化するサービスを儲けてもよいかもしれない。
Substackとほぼ同じ機能を持つRevueを取り入れるだけで、Twitterは自社の優位性を活用してメルマガ市場のシェアを一気に増やすことができる。しかもこれはTwitter CEOのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)が過去に検討していたサブスクのよるマネタイズと合致している。コストは多少かかるが、将来的にTwitterが1つのサブスクで全Revueメルマガコンテンツにアクセスできる仕組みが考えられる(Netflix的なサービス)。Netflixとの違いはメルマガ配信サービスだと常にコンテンツ制作が必要なので、どういうコストストラクチャーを構成するかが気になる。これはまた別途記事にて書くかもしれない。
結果としてRevueなどと連携すると、新しいTwitterのマネタイズチャンスが生まれる。
メルマガから第三者メディアのインフラ化
TwitterはRevueから始め、メルマガ市場に上手く入り込めば次の展開、より大きい展開が見えてくる。それはSpacesと同じように、第三者に同じインフラを提供すること。たとえば米国だとNew York TimesやWashington Post、日本だと日経などと連携して、各メディアで登録する際にTwitterでログインできるようにする。すでにTwitterアカウントを持っていてメルマガ課金していれば、そのまま自動決済できるし、今後Twitter上でおもしろいNew York Times記事を見ても、Twitterアカウントから見ているので別途ログインしなくていいようになる。場合によっては、Twitterはアプリ内で記事を読めるようにするかもしれない。
さらに考えられるのはメルマガと一緒に、いろいろなメディアのサブスクをすべてバンドル化すること。実際にそれがどういういで上手くいくかはまだ考え中だが、どのプラットフォームよりもTwitterにはこれができるチャンスがある。それはTwitterが今すでに情報フローのハブになっていて、どのメディア媒体よりもユーザーがいるからだ。
競合プラットフォームと縁を切る
お互いのコンテンツを見にくくするのは大手SNS企業の間では普通のことだ。今ではInstagram、Facebook、TikTokなどのURLをツイートしても、OGPや画像が反映されない。
この3つの投稿を見てわかるように、Twitterがどのようにコンテンツを表示するかによって、よりクリックしたくなる・しなくなるかが変わる。今後はSubstackやClubhouseのOGPを一切表示せず、ただURLが表記されるようになる可能性もある。そしてそれ以上に、両者に対して重要なTwitter連携を切ることも可能だ。
Clubhouseの場合はTwitter IDを使ってログインすることができ、恐らく裏にあるフォロワーのオススメのロジックの一部に、Twitterのフォロワー数や誰をフォローしているかを考慮している。それ以上に、ClubhouseはTwitterを使って今後行われるトークを事前告知を簡単にできるようにしている。その事前告知が見にくくなると、Clubhouseへのトラフィックが減る可能性がある。
Twitterが連携を切ると一番困るのはSubstack。今は恐らくほとんどのSubstackコンテンツのディスカバリーがTwitter上で行われている。TwitterはSubstack記事をツイートする際にOGPを見にくくしてトラフィックを下げることもできるし、Substackの重要なユーザー獲得ツールのTwitterでフォローしている人たちがSubstackを使っているかをチェックするツールも止めることができる。そうするとSubstackがすでにあるディスカバリーの弱点がさらに深まり、Revueへ移行するユーザーが増えるかもしれない。
Twitterは過去に連携を止めたことがある。最も有名な事例はMeerkat。2015年2月にローンチしたMeerkatはTwitterフォロワーに簡単にライブ動画配信ができるサービスで、アプリリリース後に人気が急増した。Meerkatがローンチしたすぐ後に人気テックカンファレンスのSXSWで大絶賛され、すぐに50万ユーザーを達成した。過去にはTwitterなどがSXSWをきっかけとして爆発的に伸びた経歴もあったので、Meerkatはかなり期待されていた。期待値が高まる中、Meerkat CEOのBen Rubin(ベン・ルビン)さんがある土曜日にTwitter社から電話がかかってきて、Meerkatが使っていたTwitterのソーシャルグラフへのアクセスを取り消すと言われた(取り消す2時間前に電話があったとベンさんは語る)。
TwitterがMeerkatとの関係性を切った理由は明確。Meerkのローンチ直前にTwitterはMeerkatの競合サービスのPeriscopeを1億ドル(約105億円)ほどで買収していた。関係性を切って、Periscopeがローンチした際にTwitter上でのMeerkatとPeriscopeへの配信URL数を見ると、差が出たのがわかる。
Meerkatは200万ユーザーまで辿り着けたが、TwitterやFacebookがライブ配信へ展開をすると理解し、最終的にHousePartyへピボットした。
もちろん同じようなことをTwitterがやるとは限らないが、RevueとTwitter Spacesを持っている以上、SubstackとClubhouseは正式に競合となった。そして両者、特にSubstackはTwitterが非常に重要なパートナーであるため、多大なリスクを持つこととなる。
Twitterは自社が持つ優位性のディスカバリーをRevueやSpacesを通して次なるプラットフォーム展開がこれで可能になる。
すべてのサービスが統一される、ディスカバリーからエンゲージメントプラットフォーム
Twitterはすばらしいプラットフォームでありながら、最ももったいないSNSでもある。Twitterは現在ほとんどのオンラインコンテンツ(特にテキストコンテンツ)の最高のディスカバリープラットフォームとなっている。
コンテンツのユーザー獲得するのに最も優れたプラットフォームであるTwitterはかなりの価値を各メディアに提供しているが、自社のマネタイズには繋げられていない。
たとえばSubstack上でライターが記事を書けば、以下が1つのコンテンツに対して各ステークホルダーが提供する価値となる。
- ライター:記事 / コンテンツを作る
- Substack:簡単にコンテンツを作れるプラットフォーム
- Twitter:ユーザー獲得と拡散するプラットフォーム
逆に、各ステークホルダーがもらう価値(お金)は以下となる。
- ライター:新規登録者でマネタイズできる
- Substack:新規登録者が課金すると10%もらえる。コンテンツ拡散によって新規ライターが登録するかもしれない
- Twitter:ほぼマネタイズできていない
簡単に表現すると、このようになる。
もちろんコンテンツがツイートとして拡散すれば、Twitterは多少広告収入をもらえる。ただ、Substackなど記事のツイートの場合、そのURLをクリックしたらSubstackページに飛ぶので、結局数秒しかTwitterへエンゲージしてないため、ほとんど広告収益になっていない。
上記はSubstackの事例だが、これはYouTube、note、Medium、メディア媒体、Spotify、ポッドキャストなど、どのコンテンツでも同じ。Twitter上で拡散して新規ユーザーを獲得して、Twitterからユーザーを自社サイトやアプリや誘導させるのが今の現状だ。そしてそれに対してTwitterは一切税金を取っていない。
この問題を解決するために、Twitterはエンゲージメントを高めることにフォーカスして、マネタイズオプションを増やす方向性が自然な流れとなる。
Twitterのエンゲージメントへのフォーカス
実はTwitterのMAUはここ数年フラットになっているが、DAUが伸びている。まずMAUは2017年から3億2000~3億5000ユーザーのままで増えていない。
ただ、DAUを見ると、2017年では1億900万人だったのが、2020年9月時点では1億8700万人まで伸びている。
TwitterとしてはMAUの成長もほしいところだが、売上向上のためにはDAUの成長の方がやりやすいと考えているはず。その第1ステップは、Twitterでコンテンツを見つけるのだけではなく、Twitter内でコンテンツ消費するプラットフォームになること。
ディスカバリーからエンゲージメントを増やすには、Twitterが自社でコンテンツ制作能力を持ち、その制作と消費がアプリ内で可能にするのがベスト。そう考えると、これからのTwitterの流れは以下のようになる気がする。
同期音声 + メルマガ + ポッドキャスト + ???
コミュニティのコンテンツ展開
今はSpacesとRevueと連携して、Twitter内でリアルタイム性の音声会話とロングフォームテキストを消費できるようにする。後にそこにポッドキャストと、後ほど話す新しいコンテンツが加わり、ツイートから外部コンテンツへ誘導させてたのをプラットフォーム内にキープする事が可能になる。そして、プラットフォーム内にいれば、コンテンツからツイートや他のコンテンツフォーマットへ誘導させることができる。たとえばTwitterに訪れるユーザーはバズっているメルマガ記事がバズっているのを見て、その記事をTwitter内で読む。その記事を読んでいる間、自分がフォローしている他のTwitterユーザーがこの記事についてSpacesでディスカッションしているのを見て、そこに参加する。そして参加している間に、その中で共有されるコンテンツ(ツイート、ゲーム、動画など)を消費して、さらに次の記事、友達、ツイートを消費するようになる。Twitterが元々ディスカバリープラットフォームであるからこそ、エンゲージメントできる機能を追加できると本当に強くなる。
実際に、Revueを買収した際に、Twitterはライターがオーディエンスと簡単に繋がれるように、Twitter上でライターが登録者と会話できるようにしたいと言っている。これはSpacesとRevueが連携する想定はできる。
ただ、今の流れで1つ足りてないところがある。それは非同期なかたちでクリエイターがファンと接する場所だ。Twitterが一部その需要を満たしているかもしれないが、機能として少し足りていない気がする。そのため、Off Topicの予想としては、2021年中にTwitterはどこかのコミュニティツールを買収すると考えている(Geneva、Circleなど)。
今後Spacesの会話を一部記録してポッドキャスト化したり、過去の記事やコンテンツを貯め込む場所が必要になるのと、ファンがお互い非同期でインタラクティブに話し合える場所が必要になる。それを既存のTwitterで解決するのか、それともTwitter内にそれ専用のコミュニティツールを開発・買収するのかはわからないが、少なくともTwitterはただのディストリビューションプラットフォームとして終わらない可能性が日々高くなっている。
サブスクコンテンツを第三者にオープンにしてマネタイズ戦略を拡大
Twitterの可能性は第三者を巻き込むとさらに大きくなる。しかもこの巻き込み方はいろいろなレベルがあるので、Twitterサブスクですべてのメディアやメルマガ登録ができなくても、各社のサブスクインフラとしてTwitterが入り込むだけでもTwitterとしては価値があるはず。最近だとForbesが自社の記者に対して給料を払いながら独立して課金型のメルマガを試せる試作を作っている中、それと似たような精度をTwitterはどのメディア企業とも作ることができる。さらに、TikTokやSnapchatのようなクリエイターファンドみたいなものを作れば、そこから給料分の支払いなどを行って、メディア企業の負担を削減することも可能となる。
そんな中、Twitterにはもう1つ新しい拡大戦略を取れると思っている。それは非同期型のショートフォーム音声領域だ。
Twitterが非同期型のショートフォーム音声領域に入るべき理由
どのフォーマットもロングフォームから始まって、ショートフォームへシフトしていった。動画だと映画・テレビ・NetflixからYouTube・Meme・TikTokなどへ流れ、テキストだと大手メディア・新聞・メルマガ・フォーラムからTwitter・SMS・チャットへ変わってきた。音声の場合はポッドキャスト・音楽(Spotify)、そして最近だとClubhouseが入ってきて、音声メッセージ(WeChat)や音声Meme(TikTok)のシフトが行われている。ただ、その中でまだショートフォームへシフトしてないコンテンツフォーマットは、パブリックな非同期型のショートフォーム音声。いわゆる音声メッセージのSNS・UGCプラットフォームだ。
元々Anchorは音声版のTwitterとしてローンチしたが、結果としてポッドキャスト制作ツールへとピボットした。音声メッセージが流行っている中、なぜ非同期の音声SNSが流行らないのだろうか?非常に興味深い領域で、今後もしかしたら新しいSNSが入り込める市場かもしれない。
この領域に。Twitterが入り込めると思われる。完全UGCプラットフォームにはならないが、上手くユーザーのコンテンツを非同期型のショートフォーム音声に変換して、新しいディスカバリー機能を作れるのではないだろうか。
まず、Twitterがこの記事で話したことを諸々エクセキューションしている前提で話すと、Twitterはディストリビューションからエンゲージメントプラットフォームへ進化していて、そこでいろいろなコンテンツへアクセスできるようになっている。そうすると、Twitterはツイート、メルマガ、Twitter Spacesコンテンツなどを音声化することが可能になる。
Twitterが最初に音声ツイート機能をローンチした時から個人的に気になっていたUIは、Twitterアプリの下にコントロールUIが出るため、Twitterをスクロールしながら音声コンテンツを聴けるようになっている。これは一部本来のTwitterフィードの広告を表示させてマネタイズすることでもあるが、同時にTwitterがどこかのタイミングでロングフォーム音声(ポッドキャストやバックグランド音声)を検討していると予想できる。
An element of @Twitter's audio tweets that we shouldn't overlook: the player that pops up at the bottom of the app, allowing you to scroll Twitter while listening.
Means Twitter could make a play at hosting long-form audio or background audio. That's a move. pic.twitter.com/eOQN0JQNAa
— Jack Appleby (@JuiceboxCA) June 17, 2020
いろいろなコンテンツを音声化して、その中で最もエンゲージされそうな部分を切り取って編集ができれば、かなりおもしろいコンテンツ制作ができる。それができるとTwitterではツイート、Spaces、メルマガ制作だけではなく、それらのコンテンツをリミックスして違うフォーマットでも配信できる、TikTokやVineと近しい新しいコンテンツ制作フォーマットを作れる。
Twitterのコンテンツをすべて音声化 自動編集 ショートフォーム音声の誕生
あまり想像ができないかもしれないので、事例で説明する。たとえばOff Topicが長めのツイートスレッドを出して、それをRevue機能などを通してメルマガの記事化する。その記事自体をTwitter上で将来ワンクリックで音声化もできるようになる。そうすると記事を読むのではなく、他のことをしながら聞くことが可能になる。しかも将来的にはクリエイターが自分の声をTwitter上で登録すると、もしかしたらそのクリエイターの声(もしくはユーザーが選んだ声)でその記事を聞くことができる。
そしてその記事を読んでおもしろいと思った読者はTwitter Spacesでその話をしたり、記事内でおもしろかったテキストをシェアするようになる。これも全部その記事を読んでいる最中に、簡単に作れるようにTwitterは設計できる。
ここからショートフォーム音声が入り込めるチャンス。Twitterは記事のどの部分がおもしろかったのかもしくは記事が一番伝えたいことだったのか、どの部分が最も共有されたのか、そしてTwitter Spacesでこの記事について何の会話が一番盛り上がったのかがわかる。それを1つずつ分けて音声コンテンツにする、もしくはまとめてハイライト音声コンテンツを自動生成できれば、非常におもしろい。Twitterがこれをできるようになると、どのコンテンツ(ツイート、ポッドキャスト、記事など)もより短縮されて配信されるようになるので、ディスカバリーに繋がる。
果たして、Twitterはこんなことができるのか?これを実行するには、Twitterはもう2社を買収する必要がある(もしくは自社で開発する)。1つは書き起こし・音声化ツール、もう1つは自動音声編集ツール。これを解決するソリューションは、実は最近、登場している。
書き起こし・音声化ツールのDescript
まずTwitterは音声の書き起こしや、コンテンツの音声化する必要がある。すでにGoogle HangoutsでもTwitter Spacesでも書き起こしを行っているが、書き起こしと音声化を上手くやっている会社をTwitterが買収すると一気にこの領域で勝てると思っているので、個人的にはTwitterはDescriptという会社を買収するべきだと思っている。
Descriptは音声や動画を簡単に編集できるツールだ。音声・動画ファイルをDescriptにアップロードすると自動的に書き起こされ、書き起こされたテキストを編集すると自動的に動画や音声ファイルも修正される。
英語だと音声で「umm」や「uh」(日本語だと「えっと」や「あー」など)を自動的に取り除いたりできるのと同時に、テキスト入力するだけで自分の声を自動生成して音声の中に入れることができる。実際にプロダクトのデモを見ると、Descriptのすごさがわかる。
TwitterがDescriptのようなサービスを買収すれば、Twitter上に存在するすべての音声データ(ポッドキャストやTwitter Spaces)の書き起こしができると同時に、自動編集で不要な言葉を取り除くことが可能になる。そして、テキストコンテンツ(ツイート、メルマガ、メディアの記事など)をすべて音声化することも可能になる。自分の声を使いたくない場合は、Descriptはすでにストック音声を用意している。
TwitterはこれでポッドキャストやTwitter Spacesを記事化してテキストコンテンツに作り返すことも可能なので、いろいろな可能性が感じられる。
自動音声編集ツールのPodz
コンテンツの書き起こしと音声化を行ったのは良いが、メルマガやロングフォームの記事を音声化するだけだと足りない。結局音声化しているだけだとポッドキャストのサプライを増やしているだけで、音声市場の最も高い課題を解決していない。ポッドキャスト(および音声)業界での1番の課題はディスカバリー、いわゆるコンテンツが見つけにくいことだ。
ポッドキャストの数は増えているのに、未だに解決されないのがディスカバリー、いわゆる良いポッドキャストを見つける方法だ。現在だとSpotifyとAppleのランキングやレコメンド、もしくは口コミでしか新しいポッドキャストと出会えない。実際にポッドキャストのダウンロード実績を見ると、トップ1%のポッドキャストは平均3万5000ダウンロードがあるが、トップ20%のポッドキャストでは各エピソードは平均1000ダウンロードしかない。中央値は124ダウンロードなので、これだと良いポッドキャストを作っても、結果として誰も聞いてくれない。
Anchorなどで簡単にポッドキャスト制作ができるようになり、ClubhouseやTwitter Spacesで音声コンテンツが増えるのに、なぜディスカバリー問題が解決されていないのか?1つはコンテンツ消費のコストの高さが原因だ。ポッドキャストや長い音声コンテンツのクオリティレベルを事前にわかる術がない。ダメなポッドキャストを聞くだけで40分も時間を無駄にすると考えると、よりリスクの低いコンテンツフォーマットを選ぶのは当然。NetflixよりTikTokの方が見やすい理由の1つは、ダメなTikTok動画を見てもたったの15秒しか損しないからだ。つまり、1回のセッションで何回も見ることができ、なおかつレコメンドコスト(消費コスト)が低い音声コンテンツを作らなければいけない。
そこで出てくるのがPodzという会社だ。Descriptと同様に、TwitterはPodzを買収することで、Twitterは非同期型の音声SNS領域へ入り込むことができる。
Podzは機械学習を活用してユーザーの好みに合わせて音声コンテンツの最も良い部分を切り取ってミニコンテンツ化するサービスだ。今はポッドキャストで英語しか対応していないが、かなり制度が高く音声コンテンツの最も伝えたいことを自動的に選出して別コンテンツとして切り出すことができている。
これを実現するためには、Podzは音声編集チームを作って、いろいろなフリーランスの記者を雇い5000以上のソースから10万時間分のポッドキャストコンテンツを切り取って、それを機械学習用のデータサンプルとして使った。しかもPodzのチームは過去SNS領域や検索エンジンを開発していた人たちなので、かなり特殊なアルゴリズムになっているはず。
TwitterがPodzを買収すると、長文テキストコンテンツをDescriptを音声化させるだけではなく、そのコンテンツの最もおもしろい部分をPodzの技術を活用して切り取って、動画や音声コンテンツとして投稿できるようになる。ポッドキャストやTwitter Spacesコンテンツであれば、それをショートフォームの音声コンテンツ、もしくはツイートスレッドにも変換が可能になる。
しかも、Twitter上でRevueとの提携によりメルマガをTwitterアプリ内で見ることができて、さらにその記事のテキストをハイライトするだけでツイートできるようになれば、おもしろい・共有されやすいデータをTwitterがPodzの機械学習のデータセットにインプットできる、非常に相性の良いループが生まれる。さらにTwitter Spacesでの絵文字のリアクションをベースに良いコンテンツを切り取るなど、Podzの精度を上げられるチャンスも出てくる。
これは非同期型のショートフォーム音声SNSとは若干違うかもしれないが、Twitterはロングフォームの音声・テキストコンテンツをショートフォームに変換させることができれば、今までのポッドキャストや音声業界で最も大きな課題だったディスカバリー問題を解決できるかもしれない。
Twitterが作ることができる世界:Before / After
今現在のTwitterはSubstack、Spotify、Clubhouseなどコンテンツプラットフォームのディストリビューションディスカバリーツールでしかない。そうなるとTwitterはプラットフォームとしては重要な立場であるものの、上手くマネタイズができない。さらに、クリエイターと直接繋がることも難しくなる。図にすると以下のようになる。
Twitterの最近のSpacesのプロダクト開発及びBreaker、Ueno、Squad、Revueなどの買収の動きを見ると、コンテンツプラットフォームの領域に入ろうとしている風に見える。コンテンツプラットフォームになると1つのコンテンツを自動的に他のコンテンツフォーマットへ変換したり、各コンテンツフォーマットに応じてマネタイズオプションが増える。そして、何よりもコンテンツクリエイターと直接繋がることができる。
コンテンツクリエイターと繋がるとクリエイターとファンのエンゲージメントプラットフォームを作ることができる。ここではコミュニティ、ビデオメッセージ、クリエイターへの投資など様々な可能性が生まれる。そしてすべてのデータをTwitterはソーシャルグラフ、興味グラフ、そしてトークグラフとして集計して、そのデータを元にクリエイターファンドを通して新・既存クリエイターへ金銭的支援をすることで全体像の循環が加速する。
これを絵にすると以下のようになる。
実際に上記絵のようにTwitterがエクセキューションできれば、どのプラットフォームよりもニュース・情報系コンテンツで強いプラットフォームとなり得る。それだけのポテンシャルをTwitterが持っている。
ただ、問題はTwitterが本当にこのようなビジョンをやり遂げられるか、だ。
Twitterの課題はTwitter自身
Twitterのポテンシャルに気づいているのはOff Topicだけではない。多くの人はTwitterはもったいないプラットフォームだと語っている。そしてTwitterも今までPeriscopeやVineなどかなりおもしろい買収を行っているが、それを上手く導入ができていない。そのため、15年前に開発したタイムラインからほとんど変わっていない。そもそも今のDM機能も本来はFacebook Messenger、WhatsApp、Snapchat、Signalと競合するべきものだったのが、ほぼ使われない機能となっている。Twitterは未だに興味グラフをTikTokみたいな使い方で行っていない(興味ベースでコンテンツのレコメンド)。
この課題はTwitter社内の政治、プライオリティ付け、そしてクリエイターとの関係性などが原因かもしれない。そもそも2014年から2018年の間でTwitterのHead of Productは6回変わった。プロダクトの方向性を決める人がそれだけ変わると、会社としてどう動くかがわからなくなる。そしてVineの買収で証明したのは、当時のTwitterはクリエイターのことをそこまで気にしていなかったこと。これはTikTokが人気になるまでは他のプラットフォームも同じだったので、今は変わっていると願うしかない。
これらを解決するにはTwitter社内がビジョンを統一して、長期目線を持って、クリエイターファーストで動く必要がある。Clubhouseも自社のマネタイズよりクリエイターのマネタイズにプライオリティをつけると同じように、Twitterもコンテンツプラットフォーム領域へ入る際にはクリエイターを軸としてすべてのアクションを取らなければいけない。とりあえずRevueの買収はその方向性に今向かっているように見える。元々Revueが6%の手数料をライターからとっていたのを、Twitter買収によりそれを5%に下げている。
TwitterはVineでできなかったクリエイターを今後の戦略の中心としておけば、もしかしたら今まで見えてこなかった成長と進化が待ち構えているかもしれない。今までの優位性であるディストリビューションの力を持ちながら、ニュース・情報系のクリエイターがマネタイズしてファンとエンゲージメントができるプラットフォームになり、Twitterは裏ではソーシャル、興味、トークグラフを描き合わせてクリエイターエコノミーへ投資しながら新しいプロダクト開発を行う、TikTok・FBと並ぶようなプラットフォームになる可能性を秘めている。
カテゴリー:ネットサービス
タグ:Twitter、コラム、音声ソーシャルネットワーク
(文:Tetsuro / @tmiyatake1、翻訳:Miki / @mikikusano)