【腕時計の基礎知識:時計百識010】
2021年1月、オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ」のアップデートが発表された。ムーンウォッチといえば、NASAのアポロ計画で月に帯同したほどの高い信頼性で知られる、機械式時計の定番中の定番。時計に興味のある人であれば、一度はその名を耳にしたり、ビジュアルを見たりしたことがあるはず。そのアップデートにおける最大のポイントが、「コーアクシャル マスター クロノメーター キャリバー3861」の搭載だ。
2021年最初のビッグニュースとなったのが、オメガを…いや、腕時計を代表するといっても過言ではないであろう「スピードマスター ムーンウォッチ」のアップデートだ。1957年に初代モデルが誕生し、その後、幾度もの進化を重ねてきたスピードマスター。そのレギュラーモデルが1997年以来、実に24年ぶりにモデルチェンジするというのだから、当然、時計ファンはざわつき始めた。
すでにスピードマスターを所有している人にとってもこの新モデルは魅力的だし、まだ持っていない人にとっては、いずれ生産が終了してしまうであろう従来モデルと新作のどちらを買うべきか、早急な判断が求められる状況になったからだ。
■「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル マスター クロノメーター」
新たにキャリバー3861を搭載し、1万5000ガウスもの超耐磁性を確保した「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル マスター クロノメーター」。ムーブメント以外にも、テーパード・ブレスレットの採用や、ミニッツスケールを従来の1/5から1/3刻みにするなど、細かな仕様変更がなされている。
写真は風防にヘサライトを採用したステンレススチール製モデルで、価格は67万円(税別)。サファイアクリスタル風防を採用し、ケースバックをトランスパレント仕様にしたモデル(77万円/税別)もラインナップ。
新しくなった「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル マスター クロノメーター」の特筆すべきポイントは、長年親しまれてきた手巻きキャリバー1861に代えて、コーアクシャル マスター クロノメーター キャリバー3861を搭載したこと。
もっとも、このキャリバー3861はすでにスピードマスターの一部限定モデルに採用されているので、その実力は知られるところだが、レギュラーモデルへの搭載を機に、改めて「マスター クロノメーター」とは何かを確認すると、新しいムーンウォッチがいかに魅力的なモデルであるかが分かるはずだ。
■厳格な検査をクリアした時計に付与される“マスター クロノメーター”
マスター クロノメーターとは、コーアクシャル・ムーブメントの性能を評価するため、スイス連邦計量・認定局(METAS)とオメガの共同開発によって2015年に制定されたテストのこと。このコーアクシャル・ムーブメントだが、イギリスの独立時計師ジョージ・ダニエルズ博士の発明による、コーアクシャル脱進機を採用したムーブメント。
1999年にオメガが開発に成功したもので、一般的な脱進機と比べるとパーツの磨耗が少なく壊れにくいことから、一躍話題となった。その後、オメガはこのムーブメントを進化させ、優れた耐磁性を持つマスター コーアクシャル・ムーブメントを発表。しかし当時は、その性能を正確に伝える手段がなかったため、これを客観的に評価するために制定されたのがマスター クロノメーターというわけだ。
このマスター クロノメーターでは、実に厳格な検定基準が設けられている。まず大前提として、スイス公式クロノメーター検定協会(C.O.S.C.)の厳しいテストをクリアしたムーブメントの搭載モデルに対して実施され、さらに、
①1万5000ガウスの磁場に置いた際のムーブメントの機能
②1万5000ガウスの磁場にさらされているときの時計の機能
③帯磁状態と消磁状態での精度誤差
④時計の平均日差
⑤パワーリザーブ
⑥6姿勢における精度誤差
⑦パワーリザーブ残量33%と100%の際の時計の精度誤差
⑧防水性能
という8項目の検定に合格した時計にのみ、“マスター クロノメーター”の称号が与えられる。つまり、日常生活はもちろんのこと、1万5000ガウスという強力な磁場でも高い精度と機能を維持し、かつ防水性能も備えていると認定された時計なのだ。
2014年にマスター クロノメーター制度が発表され、翌2015年にはこれに準拠した最初のモデル「コンステレーション グローブマスター」をリリース。
これを契機として以後、オメガは“マスター クロノメーター”に準拠したモデルを次々と発表し、いよいよブランドを代表するスピードマスター ムーンウォッチのレギュラーモデルをもアップデート。
月に行ったことで高い評価を獲得したマスターピースは、“マスター クロノメーター”を取得したことで、さらなる信頼性を持った時計へと進化を遂げたのである。
>> [連載]時計百識
<取材・文/竹石祐三>
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- Original:https://www.goodspress.jp/howto/353887/
- Source:&GP
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