りんごの搾りかすからエタノールを生み出し、アロマ製品を開発する。これまで捨てられていた食品廃棄物が、新たに価値ある商品へと生まれ変わる。そんな循環型社会の実現を目指して、岩手県奥州市に拠点を構えるスタートアップが大きく動き出した。
独自の発酵技術で未利用資源を活用し、循環型社会を構築する研究開発型スタートアップFERMENSTATION(ファーメンステーション)は3月15日、第三者割当増資により総額2億円の資金調達を実施したと発表した。引受先はSXキャピタル、新生企業投資、JR東日本スタートアップとなる。今回の調達で累計調達額は約2億4000万円となった。
ファーメンステーションは独自の発酵技術でオリジナル原料を作り出し、化粧品や雑貨原料として提供する販売事業などを行っている。
今回の調達では、事業・技術強化や人材採用の促進だけでなく、海外進出の足がかりとする。ファーメンステーションは海外進出について「サステナブルな動きで先行し、消費者の購買行動も変化している欧州などと一部取引の準備が進んでおり、候補になっている」と展望を語った。
また、ファーメンステーションは同日、エムスリーの事業責任者やヘルスケアスタートアップでの経営経験を持つ北畠勝太氏がCOOとして経営チームに参画したことを明らかにした。ファーメンステーションの酒井里奈代表が中心となってこれまで事業のベースを築き上げてきたが、北畠氏を経営チームに迎え入れることで、スタートアップとしての経営体制を強化する。
ファーメンステーションの事業概要
2009年7月7日に設立したファーメンステーションは「発酵で楽しい社会を(Fermenting a Renewable Society)!」をミッションに掲げる。岩手県奥州市に研究開発拠点兼自社工場(奥州ラボ)を構えている。
ファーメンステーションは奥州ラボを拠点に、独自の発酵・蒸留技術でエタノールやサステナブルな化粧品原料などを開発・製造しており、また奥州の休耕田を活用した原料米の生産も行っている。主力の米エタノールはこの休耕田を耕して育てた無農薬・無化学肥料の米から生まれる。エタノールは、化粧品やアロマ製品などの原材料として幅広く使われているものだ。
ファーメンステーションにおける事業の柱は4つ。原料事業では同社のサステナブル原料を、化粧品などの原料として化粧品メーカー・原料卸に販売している。また、自社ブランドによるオーガニック化粧品事業と、原料提案から製品開発まで担うODM / OEM事業も行う。
4つ目の柱として、食品・飲料工場の製造過程で出るパンくずといった副産物や食品残渣(ざんさ)などの未利用資源をさまざまなアイデアや手法を用いて、企業らと新たな高付加価値の商品を開発する共創事業にも取り組んでいる。
ファーメンステーションは米などのさまざまな糖質を含む農産物や食品から、高濃度のエタノールを発酵・蒸留・精製する独自技術を持つ。このエタノールは手肌への刺激や化学的なアルコール臭が強い通常のものと比べ、匂いを抑えて肌触りの良さなどを実現させているという。
また、事業展開で欠かせないエタノールの製造過程で生成される発酵粕は、化粧品原料だけでなく、地域の鶏や牛の飼料にも使われている。さらに鶏糞は水田や畑の肥料にするなど、ファーメンステーションはこれまで廃棄物ゼロの地域循環型モデルを構築してきた。
昨今、地域の未利用資源や食品残さなどを利用した循環型の取り組みは重要視されている。農林水産省によると、畜産業における飼料費は経営コストの約3~6割を占めているが、特に栄養価の高い濃厚飼料の大部分は輸入に依存しているという。そのためサステナブルな社会実現だけでなく、足元の飼料自給率向上の観点からも対応が急がれている。
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に向けて
これまでファーメンステーションは、アサヒグループとJR東日本と協業し、りんごの搾りカスから精製した「りんごエタノール」を使ったアロマ製品や除菌ウエットティッシュなどを製造している。いずれもアサヒグループとJR東日本グループが製造するりんご酒「シードル」の醸造工程から出る副産物を活用した商品となる。
また、ANAホールディングス傘下の全日空商事と協業し、天然由来成分99%となる「お米とバナナの除菌ウエットティッシュ」を開発した。同商品は、全日空商事グループがエクアドルから輸入・販売する「田辺農園バナナ」の規格外バナナと、ファーメンステーションが手がける休耕田のオーガニック米を原料に精製したエタノールを使ったものとなる。
これら2つのパートナーシップによる循環型の事業は、DXに次ぐ新たな概念となる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」に対する取り組みだ。SXについては、経済産業省が2020年10月28日「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」の中間的なとりまとめの中で初めて提言したものだ。
経産省は長期的な視野に立って「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化する経営などが重要だとし、この経営のあり方を「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶ。今後、SXの普及やSXを踏まえた具体的な経営のあり方などについて、検討を進めていく考えだ。
現在は多くの企業がDXを進めている中、ファーメンステーションはスタートアップにもいずれSXの流れが来るとみる。2009年の創業からサステナブルな事業を展開してきたファーメンステーションは、SXが当たり前になった社会でその推進に大きく貢献していくかもしれない。
資金調達の背景
昨今、SDGsやESG投資の推進、カーボンオフセット(二酸化炭素排出ゼロ)やサーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進など、環境問題への取り組みやサステナブルな事業創造が、多くの人から社会課題として認知されている。
認知は進むものの、技術革新やビジネスモデルなどのソリューションが確立されていないため、Cleantechやフードテックなど、テック系スタートアップにイノベーションの期待が集まる領域でもあるという。
海外に目を向けると、バイオ燃料などの「代替エネルギー」や植物由来の皮革製品などの「代替素材」、培養肉などの「代替食品」といった分野で多くのスタートアップが立ち上がり、時価総額10億ドル(約1000億円)以上のユニコーン企業も出てきた。
化粧品やライフスタイル製品の市場でも、オーガニック原料などを前提にした生活者ニーズの高まりや購買行動の変化が起きている。ファーメンステーションは「より本質的にサステナブルであることを前提とした製品・サービスの創出が課題になっている」と指摘する。
このような変化の中、実際にファーメンステーションでは自社ブランドの需要および化粧品・ライフスタイル製品などのOEMや原料提供の引き合いが急速に増えているという。
資金調達の目的
ファーメンステーションは今回の資金調達で、事業開発や技術力の強化を図り、事業成長に向けた人材採用を加速させていく。事業では1.原材料事業、2.自社ブランド事業、3.ODM / OEM事業、4.共創事業に注力していく。
同社は「研究開発型スタートアップとして、より幅広い未利用資源を元にしたエタノール開発や原料化にも研究開発投資を行う。また、サステナブルな製品開発・事業展開を目指す企業に向けた技術プラットフォームも構築していきたい」とコメントした。この他「独自性の高い技術とビジネスモデルを磨き、グローバル進出への準備も進めていく」と展望を語った。
原料料事業では、すでに展開するオーガニック認証のエタノールや米もろみ粕をはじめ、未利用資源を再生したオリジナル原料の開発と展開を促進する。直近の未利用資源の原料化事例では、岩手県産ヒエのヌカを世界で初めて化粧品原料化し、サステナブル原料「ヒエヌカオイル」「ヒエヌカエキス」を開発した。
自社ブランド事業では、天然由来100%でサステナブルであることを追求したオーガニック化粧品やライフスタイル製品を製造。自社オンラインサイトなどで販売していく。自社商品事例としては、オーガニック認証のある米エタノール原料を使った化粧品クオリティーのハンドスプレー や、オーガニック玄米を発酵させた原料を使用した洗顔石けん「奥州サボン」シリーズ などがある。
ODM / OEM事業においては、サステナブル・オーガニックにこだわったブランドの立ち上げなどを検討する企業に、自社原料やサステナブルな製品開発ノウハウを活かしたコラボレーション型のODM・OEMをより強化する。直近のコラボレーション型OEM事例では、AKOMEYA TOKYOとコラボレーションした米エタノールが原料のハンドリフレッシュスプレー がある。
そして共創事業では、独自の発酵技術など駆使して新たな事業を共創する未利用資源再生・循環パートナーシップ強化を進めていく。既存の未利用資源再生・循環パートナーシップの事例としては、アサヒグループ・JR東日本グループとシードル醸造副産物「りんごの搾り残さ」から「りんごエタノール」を精製し商品化した他、ANAグループと田辺農園の「規格外バナナ」から「バナナエタノール」を精製し商品化を行った。
これらの活動を通じ、社会課題の解決を行うソーシャルインパクトと、スタートアップとして事業・組織のスケールアップとを両立するカタチで企業成長を図っていく。
チームの強化(新経営チーム・採用)
ファーメンステーションは人材採用を強化していくため、コーポレート部門リーダー(コーポレート部門立ち上げ責任者)と事業開発(リーダー候補)などのポジションで募集を行っている。
コーポレート部門リーダーには、コーポレート部門専任1人目の責任者として、経理・財務・労務・総務・法務全般の仕組み化を中心に事業成長の基盤づくりを任せる。事業開発のポジションには、経営陣直下で、事業全般に関わる戦略立案から実行まで幅広く任せていくという。
カテゴリー:バイオテック
タグ:FERMENSTATION、資金調達、日本
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/03/15/fermenstation/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Yuichi Hirawata