企業ビルダーとは、インキュベーターやアクセラレーターとは違って、主に独自のアイデアとリソースに基づいてゼロからスタートアップを育てる組織のことをいうようだ。その過程で、テクノロジーを愛するデザイナーや開発者、マーケターなどが集められるが、彼らはスタートアップ育成の場で初めて顔を合わせることが多い。
Antler(アントラー)もそうした組織の1つだ。だがAntlerは混合型モデルを採用しており、アーリーステージのベンチャーキャピタル企業としても活動する。具体的には、創業者が補完的な共同創業チームを作るのを支援したり、ビジネスモデルの詳細な検証をサポートしたり、ビジネス拡大のためのグローバルプラットフォームを提供したりする。Antlerは現在までに、250社以上に投資して育ててきた。そのうち40%には、最低1人の女性の共同創業者がおり、創業者たちの国籍は70か国以上に及ぶ。
2017年に複数企業の経営者Magnus Grimeland(マグナス・グリムランド)氏と世界中の経験豊富な企業家、投資家、企業ビルダーが立ち上げたAntlerは、これまでに7500万ドル(約79億5500万円)以上を調達し、世界の9つの主要都市(アムステルダム、ベルリン、ロンドン、ナイロビ、ニューヨーク、オスロ、シンガポール、ストックホルム、シドニー)にある起業家ハブの起業家たちを支援してきた。
Antlerのアフリカ唯一の支店はナイロビにあり、女性によって運営されている。
エチオピアのペーパーリサイクリング企業であるPenda Paper Recycling(ペンダペーパーリサイクリング)の創業者Marie Nielsen(マリー・ニールセン)氏は、Antlerのパートナーだ。同氏はMckinsey & Company(マッキンゼーアンドカンパニー)のアソシエイトパートナーを務めた経験があり、同社のAddis Ababa(アジスアベバ)支社の設立を担当した。Melalite Ayenew(メラリテ・アイニュー)氏はAntlerのテックパートナーだ。同氏は、Oracle(オラクル)、Bain & Company(ベインアンドカンパニー)、Princeton Consultants(プリンストンコンサルタント)でキャリアを積んでいる。Selam Kebede(セーラム・ケベデ)氏は、Antlerのディレクター兼運営責任者だ。同氏は、Antlerに入社する前、いくつかのベンチャーキャピタルと起業家支援組織に勤務した経験を持つ。
プロフェッショナルたちを創業者に変える
世界中の他の場所でも同様だが、Antler East Africaでも年に2回コホートが開催される。Antlerでは「最初に人ありき」のアプローチにこだわっており、各業界で平均10年の経験を持つプロフェッショナルが集まる。創業者となるこれらのプロフェッショナルたちが、それぞれの業界での過去の経験を通して収集したインサイトや実際に直面した問題に基づいて、解決策を観念化し、反復し、作成する。その上で、6カ月のインキュベーション期間の後、支援を継続するチームに投資する。通常、プレシードステージでは、選択した各チームについてAntlerが10~20%の株式を取得する条件で10万ドル(約1061万円)の小切手を切る。しかし、Antler East Africaの場合、取得する株式はちょうど20%だ。
「私たちのプロセスは極めて実践的です。数カ月に渡って創業者たちといっしょに働くことで、ビジネスモデルを形成する機会が得られ、出資する前に広範なデューデリジェンスを実行できます」とニールセン氏はいう。
ニールセン氏のいうデューデリジェンスは、Antlerのグローバルプラットフォームによってサポートされているもので、さまざまなテクノロジーと業界にまたがる400人以上のエキスパートたちのネットワークが総動員される。プレシードフェーズの後、各チームがさらに多くの投資家から資金を調達しようと奔走する過程でも、Antler East Africaはチームのサポートを継続する。
アイニュー氏は次のように付け加える。「当社は本プログラム以外で育った既存のアーリーステージスタートアップに投資する機会も開拓しています。ただし、当社のポートフォリオに入ることで、金銭的な投資だけでなく価値を提供できるくらいに、まだ初期フェーズにあることが条件です」。
ナイロビがアフリカ唯一のAntler支社であることを考慮し、チームは、アフリカ全般の問題とその解決策に取り組んでいる創業者を探している。Antlerは15か国以上のアフリカ諸国の創業者を惹きつけており、彼らが同社のコホートの汎アフリカ的なイメージを維持するのに大きな役割を果たしている。
Antler East Africaは、これまでに、B2B、B2C、D2C(消費者直販)の各分野における広範なテック企業に投資している。その範囲は、新興セクターであるロボティクスやAIから、ヘルステック、フィンテック、不動産テックなどのセクターに至るまで幅広い。最近の2回のコホートで、同社は6つのスタートアップに投資した。
Cooked(クックド)は、サブスクリプションベースのキット食品プロバイダーだ。週額と月額のサブスクリプションで運営されており、事前に同意した曜日に顧客に食品を配達する。創業者は、ファイナンス、食品、レストラン業界で20年以上の経験をもつ。
UNCOVER(アンカバー)は、韓国でトップクラスのスキンケア研究所と提携して、アフリカで最も信頼性の高いスキンケアブランドとコンテンツプラットフォームを構築しているという。同社が実施したスキンケアのアンケートには1000人のケニア人女性から回答が寄せられた。同社によると、このデータが、急拡散する知識プラットフォームと効果的なカスタマイズ製品の開発に役立つという。
創業初期の頃をFMCG(日用品)の販売、特に小規模業者との取引に費やした経験から、ChapChapGoは、ローカルのコンテキストに合わせて調整されたシンプルで安価なツールが存在しないことが、ケニアの企業がeコマースを採用する際の大きな課題となっていることを突き止めた。ChapChapGoを使用すると、簡単な請求処理、自動照合、M-Pesa(Mペサ)による高速レジなどにより、数分でオンライン処理が可能となる。
Anyi Health(アンイイヘルス)は、プライマリーヘルスケアを求めている人たちが容易に金銭的サポートを得られるようにしたいと考えている。ナイジェリアおよびその他の多くのアフリカ諸国では、病院の治療費を払えない患者たちが病院に拘留されたり、処置を受けないまま放置されたりしている。そこでAnyi Healthは、モバイルベースの必要時点クレジット機能(患者が病院で直接クレジットを申し込むことができる)によってこの問題を解決しようと取り組んでいるのだ。同社はナイジェリアのLagos(ラゴス)にある3つの病院でMVPパイロットを開始したばかりで、パイロット概念実証に基づいてシードラウンドで30万ドル(約3184万円)の調達を目指している。
AIfluence(AIフルエンス)は、AI駆動形のインフルエンサーマーケティングプラットフォームだ。広告業界のベテラン社員によって創業されたこの会社は、アフリカのブランドがインフルエンサーマーケティングキャンペーンの立ち上げや管理、評価をする際に、より良い決断を下せるように支援する。AIフルエンスは、Sony(ソニー)やSafaricom(サファリコム)をはじめとする主要な国際企業およびアフリカ企業と、合計60万ドル(約6367万円)を超える契約に署名している。
Digiduka(デジデュカ)は、自社をケニアの現金経済のデジタルサービスソリューションと位置づけている。アフリカの決済ソリューションには2つの問題があり、それが数百万人の潜在的なユーザーを門前払いにしているというのが同社の主張だ。問題の1つは、1取引あたり9%という高額な手数料、もう1つは不便な決済モードだ。Digidukaは、アフリカの大手電話会社での15年以上の経験を持つCEOと、さまざまなスタートアップの技術主任としての経験を持つCTOが連携し、ケニアの消費者と小規模店舗向けに本格的な統一デジタルサービスソリューションを構築することを目指している。
Antler East Africaの次回のコホートは4月に開催される。ケベデ氏は次のように語った。「優秀で経験豊富な人たちが集まってアフリカで傑出したビジネスを作り上げることで、人々の考え方を変える組織、つまり持続可能で革新的なだけでなく、他の人たちに自身のビジネスの目的を認識してもらえるような組織を育む手助けができればと考えています」。
カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Antler、アフリカ
画像クレジット:Antler East Africa
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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)