米国時間3月19日の年次Digital Day(デジタル・デー)会議で欧州委員会(EC)は、EU Startup Nations Standard(SNS、EUスタートアップ国家標準)と名づけた「法律文書」を提示する。私の話が退屈で死にそうだと読者が思う前に言っておくと、SNSは「膨大な政治的取り組み」だ。その目的は、スタートアップを作る場所として、欧州連合(EU)を米国などのグローバルリーダーと比べて最も魅力的にすることだ。よって、その影響力を侮ることはできない。
目的は、EU加盟諸国がスタートアップ(その多くがすでにEU内に存在する)のために一連の「ベストプラクティス」政策を施行することであり、内容はスタートアップビザから企業法におけるストックオプションの扱いの改善など多岐にわたる。もし全EU加盟国がECの提案に署名すれば、スタートアップは今よりも有利な条件を得られるようになり、米国(今は英国も)に行くよりもEUに留まることが期待できる。またSNSは、加盟国間で周囲からの圧力が高まることによって、一連の条件が正しく適用されることも意味している。
欧州委員会に近い筋によると、この未公開のSNSは、広範囲に渡り、EU加盟国にいくつかのスタートアップ優遇政策の施行を呼びかけ、EU議長国をポルトガルが務めている期間中に定義される。ポルトガルは最近スタートアップが盛り上がっている国だ。この標準に署名した加盟国は、いくつかの分野で政策を実行することが求められる
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私はSNSがリークした草稿を見たが、そこには、最終案に残るとすれば間違いなく大きい提案になるものが複数あった。例えば署名国はストックオプションに関する国のルールを変更し、従業員の持ち株が現金化されるまでは資本利得税の対象にならないことを保証する必要がある。他にも、スタートアップが議決権のないストックオプションを発行できるようにする、手続きを迅速化して新会社を1日以内に100ユーロ(約1万3000円)で設立できるようにする、EU外のテック人材のためのビザ発給を早める、EUのテック人材を呼び戻すインセンティブを与えることなどが盛り込まれている。さらに7500億ユーロ(約97兆7000億円)の復興・回復ファシリティー(RRF)を利用したスタートアップ支援の奨励、官僚的手続きの減少、regulatory sandbox(対象者を限定した規制の一時緩和)もある。これらは多くのEU加盟国にとって、比較的実現が容易なはずだが、一部にとっては越えなくてはならない法の壁があるだろう。しかし、ほとんどの評論家がこれらの条項は機が熟しており必要なものだと述べている。
EU拠点の活動グループは全般的に、SNSを熱狂的に支持している。Allied For Startupsは「この提案の可能性に大きく期待しています」と私に語った。彼らによると、一連の対策は既存のベストプラクティスを集めたものであり、加盟国にさらなる努力と、やるかやらないかしかない「二者択一」(例えばスタートアップをオンラインで1日以内に立ち上げる)を迫るものだ。ただし彼らの望みがすべて叶うかどうかは不明だ。提案が骨抜きにならないか、どれだけの加盟国が署名するのか、彼らは息を殺して待っている。
他にも、大いに期待しているが懸念もあるというグループがある。Index Venturesが支援する政策イニシャティブのNot Optionalは今週、公開書簡を発行した。欧州の多くの有力投資家、スタートアップ団体、起業家が参加しStripe、Personio、Klarna、Wise、Trustpilot、UiPath、Alanなどのファウンダーが名を連ねた。
書簡はEUのStartup Nations Standardを歓迎し、中でも加盟国に対して「ストックオプションのルールを変更し、スタートアップが人材を惹きつけ、テックビザ発行を迅速化」することを推奨している点を高く評価した。
しかし同グループはEU加盟国に対して、勧告は実際の国家法へと変えることが重要であり、ECの法案のままにすることがないよう強く要求している。
Not Optionalは、EU諸国のストックオプション政策に関する独自のランキングを元に、EU加盟国間でこの件の扱いに驚くべき違いがあることを指摘した。例えばラトビア、エストニアおよびフランスが上位にランクされているのに対して、ドイツ、スペイン、ベルギーのファウンダーは社員の動機づけや人材獲得にストックオプションを使おうとすると未だに、障壁がある。
ブリュッセルのEU本部からは熱狂が伝わってくる一方で、私の情報源によると一部の国、たとえばドイツなどはSNSを何らかのかたちで骨抜きにすることを考えているという。具体的には、ドイツは「スタートアップを1日で」法案に怒りをぶつけている。身元確認に時間がかかる、というのが根拠だ。もっとも、つい最近までEU加盟国であった英国が、少なくとも10年間これを可能にしていることを踏まえると、ドイツの反論には無理があると思われる。
現地時間3月19日金曜日の発表に注目だ。
カテゴリー:その他
タグ:EU、欧州委員会
画像クレジット:Sean Gladwell / Getty Images
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(文:Mike Butcher、翻訳:Nob Takahashi / facebook )