Y Combinatorが教育関連企業への出資を徐々に増加させている。リモートで学習する人々からの新たな需要によって教育分野が拡大しているためだ。同アクセラレーターの最新バッチでは、EdTechのスタートアップ企業数が14社とこれまでで最も多く、教師の収益化アプリや宿題アプリ、ソフトウェアエンジニアを安く養成する方法など、あらゆる分野に取り組む企業が世界中から参加している。
Y Combinatorはアーリーステージのスタートアップの成功例をひも解くための情報源としては使えないが(実際にデモデイの後には敗退を祝うディナーが開催されている)、ある瞬間に起業家たちが特定の分野についてどう考えているかを示すのには十分な役割を果たしている。マネージングディレクターのMichael Seibel(マイケル・セイベル)氏によると、各セクターのスタートアップの数はY Combinatorが決めるわけではなく、各セクターの応募者の数に合わせたものだという。つまり、より多くのEdTech企業が応募したため、YCもより多くのEdTech企業を支援したということだ。
注目すべき点は、このバッチに含まれる14社のEdTechスタートアップのうち、女性の創業者によるものはUPchieveとDegrees of Freedom(の2社のみであるということだ。Y Combinatorによると、W21に参加している企業の19%が女性の創業者を擁しており、バッチ全体の創業者の10%が女性である。前回のバッチからわずかに上昇しているものの、大きな上昇とは言えない。
diversity of the @ycombinator w21 batch:
19% of the companies have a woman founder (16% S20)
7% have a Black founder (6% S20)
13% have a Latinx founder (10% S20)— natasha (@nmasc_) March 23, 2021
この記事では今回参加したEdTech企業を取り上げ、初期段階の創業者の目に映る教育の未来を紐解いていきたいと思う。
進む国際化
現在のYCバッチでは、スタートアップの50%が米国外に拠点を置いており、これは同アクセラレーターとしては初めてのことである。Y Combinatorの国際化がEdTech企業の増加の一因になっているのかもしれない。世界で最も価値のあるEdTech企業の1つである、インドのByju’sのような企業の成長が示しているとおり、教育企業への消費者支出は目覚ましいものであり、世界中の初期段階のEdTechスタートアップがこれに注目しているのは明らかである。
Y CombinatorのEdTech投資のうちわずか2社のみが米国の企業となっており、残りの企業は南米とインドに集中している。
- Manara:中東の人材を技術系の仕事に結びつけるためのマーケットプレイス。
- Prendea:スペイン語を話す子供たちにライブでオンラインの放課後クラスを提供するペルー発のスタートアップ。
- Avion School:フィリピンの学生を対象に、世界各地でリモートソフトウェアエンジニアとして活躍してもらうための教育を行うスタートアップ。
- Poliglota:ラテンアメリカ向けの語学学校。
B2Bよりも消費者を重視
現在のEdTechバッチでは、ほとんどのスタートアップが機関や企業ではなく、消費者を対象にサービスを提供している。形式的な手続きの多い公立学校よりも、子供の親を説得する方がはるかに簡単なため、機関ではなく個人の消費者をターゲットにするというのは昔から珍しいことではない。ベンチャーが要求する規模に到達するためには消費者を扱うほうが簡単であり、それが常にEdTechの真理でもある。
- Kidato:アフリカの中間層をターゲットにした、幼稚園児から高校生までを対象としたオンラインスクール。質の高さと手頃な価格に重点を置いている。
- Codingal:インドの子供たちがコーディングを学ぶためのアフタースクールプログラム。
しかし、パンデミックによって教育機関がEdTechサービスへの投資を強化し始めているにもかかわらず、あまり実験的なビジネスモデルが試されていないというのも事実である。
こういった企業が直面するハードルの1つはやはりコスト面である。サービスを利用するのに費用がかかる場合、特定の所得層の人々にしか教育を提供することができない。その結果誕生したのがISA(所得分配契約)である。今回のバッチでは特に存在感を放っていたISAだが、これは学生が就職するまで教育費の支払いを保留でき、就職後は借金の返済を完了するまで収入の一定割合を企業に提供するというものだ。このモデルには賛否両論あるものの、YCの卒業生であるLambda School(ラムダ・スクール)が普及させたこのシステムは、学費の前払いを普及させるための方法として確立されている。
- Pragmatic Leaders:より費用対効果の高いMBAを構築。学生が大学院卒業後に採用されるまでコースを無料で提供している。
- Awari:サンパウロを拠点とする同スタートアップは、ISAを利用してブラジルの学生が技術教育を受けられるよう支援している。コースはデータ分析から製品UX、グロースマーケティングまで多岐にわたる。
後述するAcadpalは、インドの学校を対象としている異例の企業である。次のセクションに移る前に、ビジネスモデルにおける最も野心的な賭けを体現している2つのスタートアップを紹介したい。
- UPchieve:低所得家庭の高校生が24時間365日無料で利用できるバーチャルチューターを提供する非営利団体。
- Degrees of Freedom:柔軟性があり、コミュニティを重視した低コストの高等教育を提供したいと考えているスタートアップ。受講料は約9000ドル(約100万円)。
Zoom大学の継続
「Zoom大学」の苦戦は続いているものの、それでもEdTech創業者らは教育の未来がオンラインコースにあると確信している。この事実こそが、この分野のすべての企業を結びつける1本の糸だったと言えるだろう。こういった企業に賭けるということは、リモート教育が一般化することに賭けるということなのだ。
前述のとおり、多くのスタートアップが特定の層向けにオンラインコーディングプラットフォームを提供している。著者の受信トレイには「XX向けのラムダスクール」と標題されたスタートアップからのメールが常に届くため、似たようなスタートアップが次々と現れても必ずしもエキサイティングとは思えない。しかし、今回のパンデミックによって、コミュニティやネットワークがいかに学校生活を豊かにするかということが明らかになったため、こういったオンラインスクールが、雇用者や卒業生との強力なパートナーシップを築くことができれば、そこには大きなチャンスがあるのかもしれない。
- Turing College:リトアニアを拠点とするオンラインデータサイエンススクールで、 ISAを利用して教育を手軽に提供できるよう試みている。
- Coderhouse:アルゼンチンを拠点とするスタートアップで、世界中のスペイン語圏の人々のためにライブのオンライン技術教育を構築することを目指している。
とはいえ、大きなチャンスがあるところには多くの競争相手が存在する。スタートアップはどうにかして差別化する方法を見つけなければならない。下記はその良い例だ。
- Unschool:高等教育と雇用結果を結びつけるため、インターンシップを保証することでインドでの修了率を高めるプラットフォームを構築している。
コースの作成から終了まで、オンラインコースがどのように行われるかというインフラに注目する企業もある。
- Pensil:インド国内のYouTube講師による講座の収益化を支援するプラットフォーム。
- Acadpal:インドの教師が宿題を作成、共有し、学生が課題をこなして議論するための学習アプリ。
- CreatorOS – Questbook(クリエーターOS – クエストブック):教師がオンラインコースでより簡単に教えられるようにするため、コースをすぐに開始できるようにするための簡単なツールの提供を目指す。
結論
現在YCバッチに参加しているEdTechスタートアップは、競争相手というよりもお互いに補完し合う関係にあるのではないだろうか。Acadpalのような宿題プラットフォームが成功するには、アフタースクールでの学習をオンライン化するCodingalのような企業が資金を得ることができれば都合が良い。また高等教育と雇用を結びつけるUnschoolにとって、Degrees of Freedomのような企業は、低所得者層の学生のための重要なパートナーとなり得る可能性がある。
EdTechは急速に成長しているため、さまざまな動きの細分化はある程度予想範囲内である。このバッチの本番はまだこれからだが、初期段階の起業家たちが今どこに将来性を見出しているのか、これを知るのは非常に興味深いことである。
カテゴリー:EdTech
タグ:Y Combinator、オンライン学習
画像クレジット:Getty Images
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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)