本稿の著者T. Alexander Puutio(T・アレクサンダー・プーティオ)氏はレナード・N・スターン・スクールの非常勤教授であり、トゥルク大学での研究をAI、技術、国際貿易、開発の相互作用に捧げている。本稿で表現された意見はすべて彼のものだ。
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Big Tech(ビッグテック、巨大テック企業)との蜜月時代は、表向きは終わったと言ってもよさそうだ。
疑わしいデータ処理手続き、恣意的なコンテンツ管理ポリシー、明白な反競争的慣行が長年にわたり続いてきたのだ。ここで少し立ち止まってビッグテック業界との関係を考え直すのは当然のことだろう。
残念なことに、ビッグテックの解体を求める声をはじめとする、大方の注目を集めている意見のほとんどは、健全な経済学的思考というより、報復的な妄想から生まれている。
我々は、扇動的で成功の見込みが限りなく低い計画やゼロサム的解決策を追いかけるのではなく、スタートアップや競合他社独自のデジタル市場にとって公平な競争の機会を設け、ビッグテックが規模の拡大と同時により優れた企業に成長していくよう取り組むべきだ。
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大方の注目を集めている意見のほとんどは、健全な経済学的思考というより、報復的な妄想から生まれている。
20世紀の議員たちが、産業の寵児から停滞をまねく破壊的勢力へと変貌した鉄道独占企業をどのように抑制したかを見れば、その取り組みのヒントが得られるだろう。
問題は変わらない
100年以上前、急速に工業化が進む米国は、テクノロジーディスラプション(創造的破壊)がもたらした想定外の事態に直面していた。どこかで聞いたことがあるような話だ。
本格的な蒸気機関車が初めて登場したのは1804年だが、より強力で貨物に適した米国式の蒸気機関車が導入されたのは1868年になってからだ。
効率性が高く貨物に適した機関車は、野火のように急速に広がり、やがて鋼と鉄が山を貫き、ほとばしる川を飛び越えて、全米各地を結び付けた。
すぐに鉄道の走行距離は3倍になり、全都市間交通の実に77%、旅客事業の98%で鉄道が利用されるようになった。これにより、コスト効率のよい大陸横断旅行の時代が到来し、国全体の景気に大きな変化が訪れた。
画期的な技術の黎明期にはよく見られることだが、成功の初期段階には大きな人的損失がともなうものだ。
鉄道業界では当初から虐待や搾取が横行し、例年、労働者の3%近くが負傷したり死亡したりしていた。
やがて鉄道信託の所有者は、世間から広く非難を浴びる実業家グループの大部分を占めるようになり、いわゆる「悪徳資本家」と呼ばれるようになった。そして、そのような企業は行く手にあるものすべてを搾取し、競合他社、特に新規参入者を困窮させた。
鉄道会社の経営者たちは、慎重に構築されたウォールドガーデン(顧客の大規模な囲い込み)を維持することで自らの利益を確保し、強要や排除といったあらゆる手段を使って競合他社を破産に追い込んでいった。
鉄道の所有者から見れば、こうした方法は大成功を収めたが、競争が阻害され、消費者重視の視点が完全に欠落した世間には停滞ムードがただよった。
歴史は繰り返す
人間は過去の経験から学ぶことが苦手なようだ。
実際、ハイテク産業に対して我々が抱く懸念のほとんどは、20世紀の米国人が鉄道信託に対して抱いていた反対感情と同じである。
当時の悪徳資本家と同じように、Alphabet(アルファベット)、Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)などは、競合他社やスタートアップが入る余地をほとんど残さず、取引の大動脈を支配するようになった。
ビッグテックは2桁のプラットフォーム料金を導入し、決済プロトコルに厳しい制限を設け、独自のデータやAPIを専有することで、人工的な参入障壁を築き、競合他社がビッグテックの成功を事実上まねできないようにした。
ここ数年、大手テクノロジー企業はAmazonBasics(Aamzonベーシック)のようなプライベートブランドを提供することで、サードパーティーソリューションのカニバリゼーション(共食い)に取り組んできた。その結果、ビッグテックの顧客は、プラットフォーム所有者に競争力を弱められ、完全に先手を打たれていることに気づくことになった。
以上を踏まえると、米国におけるテック系スタートアップの創業ペースが何年も前から低下しているのは当然の流れだ。
実際、Albert Wenger(アルバート・ウェンガー)氏のようなVC界のベテランたちは、ビッグテック周辺にある「キルゾーン」に注意するよう呼びかけており、もし我々が大規模なハイテク複合企業の競争的周辺部を再活性化する方向に向かっているなら、早急に何らかの手を打つが必要がある、と警告している。
ビッグテック解体論を止めるべき理由
20世紀に独占的な鉄道信託を管理するために策定された戦略から、ビッグテックに対処する上で役立つ教訓を読み取ることができる。
戦略の第1段階として、議会は1887年に州際通商委員会(ICC)を設立し、合理的かつ公正な価格で専用鉄道網を利用できるように管理する任務をICCに与えた。
しかし、ICCの活動は政党主導であったため、ICCにはほとんど権限が与えられなかった。1906年に輸送機能と貨物の所有権を分離するヘボン法が議会で可決され、本当の意味での進展がようやく見られるようになった。
議会は、独自のプラットフォームで私的金融取引や二重取りを行うことを禁止し、既存の競合他社と新規参入企業の両方が同じ条件でプラットフォームを利用できるようにした。つまり、複雑に絡み合って抜け出せなかった搾取的な慣行が排除され、現在の米国の繁栄を支える根幹が形成されたのだ。
これは、鉄道信託を細かく解体するだけでは決して実現できなかったことだ。
実際のところ、プラットフォームやネットワークは大きい方が関係者全員にとって有利だ。大きい方がより高いネットワーク効果を得られるし、小規模なプラットフォームを凌駕するその他の要因もいくつかある。
最も重要なことは、アクセスと相互運用性のルールを適切に設定すれば、より大規模なプラットフォームでより幅広いスタートアップやサードパーティを支えられるようになるため、経済のパイの縮小ではなく拡大が可能になるということだ。
デジタル市場をスタートアップの味方につける
パンデミック後の経済活動では、テックプラットフォームを縮小するのではなく、規模の拡大に合わせて優れたプラットフォームに成長させることに注目すべきだ。
第1段階で必要なことは、スタートアップと競合他社が公正な条件と適正価格でこれらのプラットフォームにアクセスできるようにすることだ。
現在、政策立案者が実施できる具体的な措置は他にも多数ある。例えば、データ可搬性に関するルールの書き換え、プラットフォーム間のより広範な標準化と相互運用性の推進、ネットの中立性の再導入は、今日の業界の問題に対処するのに大いに役立つだろう。
Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領が最近、連邦取引委員会(FTC)の次期委員として、「アマゾンを反トラストだと主張する急先鋒」 Lina Khan(リナ・カーン)氏を指名したことで、こうした変化が実現する可能性は突如として高まった。
最終的には我々全員が、巨人の肩の上に立ち(先人たちの知恵を借りながら)、巨人が作ったプラットフォームの上で力強く成長するさまざまなスタートアップや競合他社から恩恵を享受できるようになるだろう。
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画像クレジット:Martin Poole / Getty Images
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(文:T. Alexander Puutio、翻訳:Dragonfly)