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初めて体験!意外と楽しい腕時計の電池交換はクセになりそう

<&GP自作部>

先日、久しぶりに新幹線を使って撮影旅行に行きました。車窓から富士山の絶景を眺め、あっという間に大阪へ。在来線に乗り換えようと腕の時計を確認すると、針は8時前を指しています。8時の新幹線に乗ったのにどういうことだと思えば、単に電池が切れていただけでした。

この腕時計を買ったのは、5年ほど前のこと。帰宅後にネットをチェックすればクォーツ腕時計の電池寿命は3〜5年となっていました。十分頑張ってくれたようで、改めてよく見れば、ベルトもすでにボロボロ。

調べると腕時計の電池交換とベルト交換の料金は、

国産腕時計電池交換・・・1000円〜2000円
ベルト交換・・・ベルトを購入すれば交換は無料(ベルト代金は1500〜5000円)

が一般的。もちろん海外高級ブランドの腕時計の場合は、工賃がより高額になりますし、ベルトもブランド物や皮革製の場合はグッとアップします。

さてこの時計はセイコーのクロノグラフで、購入価格は某大手通販サイトで8000円弱。お気に入りはお気に入りなのですが、正直なところ8000円の時計のメンテナンスに、電池とベルトを合わせて3000〜4000円を出すのは躊躇してしまいます。「モノを大切に使いなさい」と躾けられて育ちましたが、どうにも踏ん切りがつきません。なんとも情けない気持ちで時計の裏側を見てみると、何やら引っ掛ける溝が多数ついているではないですか!

「これ、もしかして自分で蓋を開けて交換できるんじゃない?」

いつもやってる木工やガレージ周りのDIYならすぐに思いつくはずのことが、腕時計の「精密機械」というイメージで惑わされていました。さっそく調べてみると、電池もベルトも自分で交換している猛者(に見えた)が大勢いました。

しかもそこに登場する工具が、いかにも「精密」な見た目で男心をくすぐります。例によってDIYは「形」と「道具」から入る私。すっかりお得意様となっている通販サイトで初心者向けの工具セットを吟味し、その日のうちにポチッたのでした。

■道具を揃えて初めての時計の電池交換

数日後に手元に届いた箱を開けると、色々と物珍しい工具が出てきました。

その中から、今回主に使うのがこちら。

時計のケースを挟み込んで固定する、ケース固定台。

先端に突起が付いたこちらが、裏蓋を開けるオープナー。

道具も揃ったところで、交換DIYを始めたいと思います。

■作業で邪魔になるベルトを外す

まず最初にベルトを外します。これは電池交換をした後でもいいのですが、初心者の作業では邪魔なものがないに越したことはありません。

腕時計のベルトは「バネ棒」というパーツでケースとつながっているのが一般的。手持ちの腕時計も、このバネ棒を取り外すことでベルトの交換ができます。

バネ棒の外し方は「ベルトがくっついてるケースの側面」に穴があるかないかで変わります。

穴がある方が簡単らしいのですが、残念ながら私の腕時計にはありません。そこで、専用工具のY字型バネ棒外しの出番です。細いY字型の先端をベルトとケースの隙間に差し込み、バネ棒の引っ掛かりを下に押し下げると簡単に外れます。

たまに固着してることがあるらしいので、無理せず傷に気をつけてやってみましょう。

■本体を専用のケース固定台に固定する

ベルトを外したら、時計本体を専用のケース固定台に固定。

改めて裏蓋を確認すると円周上に溝がたくさんついています。このタイプの裏蓋を「スクリューバック式」といいます。

この他に裏蓋を小さなネジで固定している「ネジ式」や、本体へ裏蓋を押し込み圧着させた「はめ込み式」があります。

スクリューバック式とネジ式は初心者でも扱いやすいですが、圧着式は作業中に傷を付ける可能性が高いようなので、覚悟をして作業に取り掛かった方が良さそうです。

それでは、いよいよ裏蓋を開けます。

■3点式オープナーで裏蓋を慎重に開ける

スクリューバック式で使用する専用工具が3点式オープナー。この器具本体についている3つの突起はネジで間隔を調整可能で、さまざまな大きさの腕時計裏蓋に対応可能。

突起を慎重に裏蓋の溝に合わせ、ガタつかないところまでネジを回してフィットさせました。次にゆっくりと力を込め、左側に回します。防水時計なのでミチっとした手ごたえが心地よかったです。

ついに腕時計の中身とご対面! この腕時計のムーブメントはSEIKO製7T92、精密な工作がされた機械が中に詰まっており、さすがに素人では手に負えそうもありません。ただ1カ所だけよく見慣れたものが。そう「ボタン型電池」です。

私の世代だと任天堂のゲームウォッチの電池交換が懐かしいですね。最近ですと体温計の電池交換もボタン型電池でした。ここだけは初心者でもなんとかなります。

それでも慎重な作業は必要です。特に電池を抑えるステーは繊細な構造なので、ピンセットを使い丁寧に電池を外しましょう。入っていたボタン型電池の型番は「SR-927SW」。これはメジャーなタイプらしく近所のホームセンターで購入できました。

■ピンセットで挟み電池を交換

普段は無造作に触っているボタン型電池ですが、本来は上下に挟む形でつかむのはショートの危険があるためNGだそうです。

そこでピンセットで外周をつかみ、慎重に元あった場所に差し込みます。

最後に少し固いところがあるのですが、汗がつく恐れがあるため指の使用はやめました。綿棒を使ってぐっと押し込み、電池交換に成功です!

■シリコングリスを塗布したパッキンをはめる

あとは裏蓋を戻すだけですが、防水時計はここで一手間必要。裏蓋には黒い円形パッキンが付いているのですが、長年の使用でこれがへたっていることが多いそうです。そこで一度取り外して全体にシリコングリスを塗布し、パッキンを復活させるのです。

ただし細いパッキンに適量のシリコングリスを塗るのは難しい。考えることはプロの技術者さんも同じようで、この作業専用の器具が販売されておりました。その名も「シリコングリス塗布器」って、そのままですね!

塗布器の本体は上下に分割でき、両方にシリコングリスが染み込んだスポンジが付いています。この中にパッキンを入れ、上下から挟むとグリスアップされる仕掛けで、あっという間にパッキンを傷つけることなく作業でき、とても便利でした。塗布後はパッキンを裏蓋に戻し、開けた時と逆手順でオープナーを使って蓋を閉め込めば、電池交換は終了です。

潜水作業時に命がかかる本物のダイバーズウォッチですと、このあとに防水試験機を使用した防水性のテストが必要になるのですが、ダイバーズではないですし、せいぜい雨天下での撮影やDIYをする程度の私ですので、そこまで必要ではありません。

新調した革バンドに元のバネ棒を差し込み、バネ棒外しでケースに装着して、すべての工程が完成しました。秒針はチッチッチとリズミカルに動いています。裏蓋に少しスリ傷がつきましたが、これもDIYした証。なんだか今まで以上に、この腕時計に愛着がわき、満足感は非常に高いです。

■電池交換を終えたのに動かない!

それでは時刻を修正して、作業を終わろうかと改めて文字盤を見て、ギョッとしました。この時計はクロノグラフで、いわゆるストップウォッチに使う針が数本ついているのですが、その針が「0」ではなく「50」のあたりを指しています。ストップウォッチのボタンを押せば、通常通りに針が回り計測ができますが、停止してリセットボタンを押せば、また「50」の位置に戻ってきました。

何かケース内の作業で不都合があったのでしょうか?

大急ぎで調べると、多くのデジタル時計とクロノグラフが付属するアナログ時計の電池交換では「オールクリアー」を行う必要があるとわかりました。

手順は難しいことはなく、ムーブメントにある指定の接点と電池を金属製ピンセットでつなぎ、通電させるだけのようです。この手順が必要な腕時計は、裏蓋に記載があるとのことですが、私のものにはありませんでした。もう一度、裏蓋を開きムーブメントを仔細に眺めますが、「オールクリアー=AC」と書かれた接点もありません。

ちなみにこちらは、我が家にあったもう1個の電池切れ時計の中身と裏蓋です。

ムーブメントにはACのマークがある接点が、裏蓋には注意書きが確かにありました。

これは困ったと、もう一度この腕時計に使われているムーブメントの名前とともに検索をかけると、解決法がありました。

何のことはないですが、この腕時計では、クロノグラフの針位置を0に戻すのは、時計のボタン操作で可能だったのです。書かれた説明通りにボタン操作をすると、無事にすべての針が「0」を指す位置に戻ってきました。

いくつかのトラブルもありましたが、これで無事に電池とベルトの交換が完了です。腕時計の種類にもよるでしょうが、次からはもっとスムーズに作業ができると思います。もちろん数十万円の腕時計の裏蓋を開ける勇気はありませんが…。

今の腕時計を使い続けるために始めたDIYでしたが、逆にこの作業をしたために新しい腕時計も欲しくなってきました。今までは「せっかく購入しても4〜5年で電池が切れたら使えなくなるもの…」という理由から、積極的に腕時計の購入を検討してこなかったのですが、自分でいつでもできるとなると、俄然興味が湧いてきました。これもDIYの利点の一つかもしれませんね。

ということで、皆さんもぜひ自分の腕時計をメンテナンスに挑戦してみてはいかがでしょうか。ただし、壊す可能性はもちろんありますので、気をつけて挑戦してくださいね!

工具セット 3800円
電池    550円
ベルト   660円
シリコングリス塗布器 1230円

写真・文/阪口 克

阪口克|旅と自然の中の暮らしをテーマに国内外を取材するフリーカメラマン。秩父郡長瀞町の自宅は6年かけて家族でセルフビルド。家を経験ゼロからDIYで建てる。家族でセルフビルドした日々を描いた『家をセルフでビルドしたい』が文藝春秋から発売中。ほか近著に『笑って!小屋作り』(山と渓谷社)、『世界中からいただきます』(偕成社)など。

 

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