これまでEV(電気自動車)に対して静観していた感のあるレクサスが反撃の狼煙を上げた!? レクサス初の量産型EVとなる「UX300e」がついに登場だ。
しかしその加速フィールは、EVらしくない滑らかなもの。それは、ハイブリッドカー開発において培われたノウハウの賜物だった。
■日本の自動車メーカーは遅れているのか?
イギリスでは、ボリス・ジョンソン首相が2035年までのエンジン車廃止を宣言し、ドイツでは、連邦議会が2030年までにエンジン車を廃止することを採択、さらにスウェーデンでも、環境大臣が2030年までにエンジン車を廃止すべきと発言した。ここ日本では、政府が2030年前半にガソリン車販売を禁止する方向で調整に入り、首都・東京の小池百合子都知事は、2030年までに脱ガソリン車を打ち出している。一方、自動車ブランドも、ジャガー&ランドローバーやボルボなどが、2030年までにすべてのモデルをEV化すると表明した。
これらが、最近の自動車を取り巻く世界の動きだ。日本政府や東京都が指す“ガソリン車”とは純粋な内燃機関車のことで、モーターを組み合わせたハイブリッドカーは販売禁止の対象ではない。しかし欧州の一部には、内燃機関を積むクルマの販売を全面的に禁止し、EVなど次世代エネルギー車へ100%転換しようという国もある。この先、それぞれの目標へ向けて、EVのラインナップが増えていくことは間違いないが、現在のインフラや電力事情など鑑みれば、わずか10年で新車セールスのすべてがEVに置き換わるというのは無理な話だろう。
そうした中、巷では、一部の人が「EVを発売しない日本の自動車メーカーは世界に対して遅れている」とか、「日本メーカーはEVの技術を持っていない」などと主張し始めた。果たして彼らの考えは真実なのだろうか? レクサスUX300eをドライブしながら考えた。
■カタログ記載の最大航続距離は東京〜名古屋間に相当
2020年10月に登場したUX300eは、レクサスで最もコンパクトなSUVである「UX」をベースとするEVだ。フロア下に54.4kWhのリチウムイオン電池を搭載し、フロントに積んだ最高出力203馬力、最大トルク30.5kgf-mのモーターで駆動する。
最高出力と最大トルクの発生回転域がガソリン車とは異なるため直接の比較はできないが、UX300eのスペックを自然吸気ガソリンエンジンに当てはめれば、2.5リッター級のパワーと3リッター級のトルクに相当する。また、カタログに記載される最大航続距離は367km。これは東京〜名古屋間の距離に相当するから、日常的な使い方であれば不安なく使えるだろう。ロングドライブも、途中で急速充電を1回挟めば、日本のドライバーの常識的な移動範囲をカバーできるはずだ。
ちなみに急速充電では、50kWタイプで電欠警告灯が点いた状態から約50分間で75%まで充電可能。そこから約30分間(合計80分間ほど)で100%まで満たされる。一方、普通充電の場合、3kWの充電器を使って約14時間でフル充電が可能。搭載されるバッテリーの容量が大きい分、充電に要する時間は長めだが、毎回、バッテリーが空の状態で充電を始めるわけではないだろうから、長めの充電時間もさほど心配する必要はないだろう。150km走ってもバッテリーは半分ほどしか減らないため、そこから普通充電を行っても、計算上では7時間ほどでバッテリーはフルに満たされる。
またUX300eは、ベースとなる「UX」に対して見た目の違いが少ないのも特徴だ。エクステリアで目につくのは、専用デザインの17インチアルミホイールと各部のエンブレム程度。
またインテリアにおける識別点も、出力/回生などのモーターの作動状況を大きく表示する全面液晶メーターや電気式シフトレバーなどが目立つくらいだ。
もちろん、メーターパネルで走行可能距離をひと目で確認できたり、中央のディスプレイで専用アプリを操作して最寄りの充電スポットを探し出せたり、スマホアプリを通じてUX300eのエアコンをリモート操作して乗車前に車内を快適な温度に調整できたりと、EV仕様ならではの便利機能を装備している。
一方、居住性に関しては、バッテリーを搭載する関係上、フロアが少し高くなり、リアシートの“ヒール段差(フロアとシート座面の高低差)”が小さくなっているのが気になるかもしれない。
これは、エンジン車とボディを共用するEVの多くで見られるネガだが、UX300eは実際に後席へ座ってみても、居心地の悪さは感じなかった。これならロングドライブでも苦痛に感じることはないはずだ。
■EV化の副次的効果でハンドリングも心地いい
そんなUX300eで走り出してみて「おや?」と驚いた。乗り味がEVらしくなかったからだ。
EVらしい走りとしてまず思いつくのは、刺激的な加速だ。これまで世に出たEVは、アクセルペダルを踏み込むと同時に素早く加速し、急激な加速Gが立ち上がる、というのが一般的。コレは、エンジン回転数が高まるほどにパワーが盛り上がるエンジン車にはマネのできない加速フィールで、回り始めた瞬間から厚いトルクを発生するモーターの特性を強調し、“EVのスゴさ”をアピールしていた。
しかしUX300eの走りには、そうしたEVらしさがあまり感じられない。過剰なまでの加速でガソリン車との違いを強調するのではなく、ドライバーのアクセル操作に対するリニアな反応を重視しているのだ。実はこのフィーリング、以前、レポートしたマツダ「MX-30 EVモデル」とベクトルが似ている。マツダのエンジニアは「ドライバーの感覚に対して素直な加速フィールを心掛けた。滑らかな加速の実現こそが、実はEV制御における腕の見せどころなのです」と語っていたが、UX300eの走りからも同様の、制御へのこだわりが感じられた。
ただ勘違いして欲しくないのは、「UX300eの加速が物足りない」わけではないということ。確かに高速領域では加速の伸びが鈍くなるが、スタートダッシュはなかなかのもので、交通の流れを簡単にリードできる実力の持ち主だ。「EVだから」ではなく、「ガソリン車のような自然な感覚」に徹しているのである。また、走行モードを「スポーツ」に入れても、ググッと鋭く加速するのではなく、あくまで滑らかさを保ちながらスピードを乗せていく。同乗者を不快にさせない加速感、といい換えてもいいだろう。取材中、後席に同乗していたスタッフが「エンジンが稼働していない時の“THS II”(トヨタのハイブリッドシステム)みたいに滑らか」と評価していたが、まさにいい得て妙だと思う。
そんなUX300eの走りで特筆すべきは、ブレーキの良好なフィーリングだ。時々、ブレーキフィールに違和感のあるEVやハイブリッドカーが見受けられるが、UX300eにはそうした違和感が一切ない。この辺りは、トヨタがハイブリッドカー開発において培った、回生ブレーキと物理ブレーキとの協調制御に関するノウハウの賜物。ペダルタッチに対する制動力の立ち上がりがとても自然で、ドライバーを裏切ることなく予測した通りに減速してくれるのはさすがだ。
加えてUX300eは、ドライバーの思い通りに曲がってくれるハンドリングの心地良さも見逃せない。コレは、駆動用バッテリーの搭載で車体の中央下部に重心位置がきたことや、バッテリーを保護すべく、メンバーやブレース類の追加で車体構造が強化されたこと、さらに、ステアリングギヤボックスの支持剛性が強化されたことなどによる副次的効果といえるだろう。
とはいえ、大きな凹凸のある路面では、車体が大きく上下に揺さぶられる感覚が否めない。コレは、大容量バッテリーの搭載で増加した車重に起因するものと考えられる(UX300eはハイブリッド仕様よりも200kg強重い)。実はこうした動きも、他の多くのEVに共通するものだが、EVづくりのノウハウが蓄積させていくにつれ、改善されていきそうだ。
■マーケットの状況次第でいつでも出せる!?
さて、「EVを発売しない日本の自動車メーカーは世界に遅れている」という一部の人たちの主張は、本当なのだろうか?
中国や欧州では、政府の意図や補助金政策があり、さらに欧州では、メーカーごとの平均燃費を規定値に収めなければ罰金が生じるというレギュレーションもあって、「とにかくEVを売らなきゃ」という雰囲気が漂っているのも事実。そのため欧州の自動車ブランドは、2020年以降、続々とEVを市場投入している。だからといって、日本の自動車メーカーが世界に対して遅れをとっているわけではない。例えば中国市場において、日産は「リーフ」に加えて、「シルフィEV」というミドルセダンのEVをいち早く市販しているし、トヨタもコンパクトSUVの「C-HR EV」などを展開中。EVのラインナップにおいて、決して世界に遅れをとっているわけではない。
では、日本のメーカーはEVの技術で遅れをとっているのだろうか? コレも答えは「ノー」だ。例えばトヨタはハイブリッドカーを多数ラインナップしているが、実はEVよりもハイブリッド車の方が、エンジンとモーターを協調制御する必要があるため、構造や仕組みが複雑。つまるところ、ハイブリッドカーをベースに、より強力なモーターとバッテリーを積めばシステム的にはEVが出来上がるわけだから、すでにハイブリッドカーに関するノウハウを多数蓄積する日本のメーカーにとって、EVは決して不得意分野ではない。「出そうと思えばいつでも出せる、残すはマーケット次第」というのが、日本メーカーのEVに対するスタンスだと思う。
政治的な側面もあり、この先、EV市場がどうなっていくのか先行きは不透明だ。ただ間違いなくいえるのは、日本のメーカーが「EVの分野で世界に遅れをとっている」という指摘は大きな間違いだということ。レクサス初のEVであると同時に、トヨタ初の量産EVであるUX300eをドライブし、そのことを改めて実感した。
<SPECIFICATIONS>
☆バージョンL
ボディサイズ:L4495×W1840×H1540mm
車重:1800kg
駆動方式:FWD
最高出力:150馬力
最大トルク:30.5kgf-m
価格:635万円
文/工藤貴宏
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/373660/
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