コロナ禍で働き方が見直されている中、テレワークの浸透は大きな課題となっている。内閣府が2020年12月に行った調査によると、全国のテレワーク実施率は21.5%だった。
この中でテレワーク経験者が答えた「テレワークのデメリット」は「社内での気軽な相談・報告が困難」が38.4%で最多となった。「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」は3番目に多く、28.2%に上る。
テレワークでは目的ありきのウェブ会議などが軸となり、ちょっとした雑談を生む機会もなく、働き手の孤独感が増してしまっている。その穴を埋めるのが、クラウドオフィスという新たなワークプレイスだ。
クラウドオフィス「RISA」は、ビジネスシーンで利用可能な3Ⅾのアバター・仮想空間による新たなバーチャルオフィスとなる。大阪に拠点を置くOPSIONが2020年10月からRISAの提供を開始し、現在はコニカミノルタなどの大手企業をはじめ約40社が導入している。この他にも800社ほどからサービス導入へ声がかかっているという。
RISAはインストールする必要はなく、PCからブラウザで起動できる。ブラウザはGoogle Chromeを推奨しているが、Microsoft Edgeにも対応している。また、2022年までにはスマホやタブレットなどのマルチデバイス対応をしていく予定だという。
「3Dならではの臨場感や没入感がRISAの特徴です。社員同士が気軽に集まれる居場所を提供し、テレワークで失われた偶発的なコミュニケーションや、簡単に相談ができる環境を作り上げています」とOPSIONの深野崇代表は語る。今回は実際にRISAでアバターを動かしながら、深野氏に話を聞いた。
RISAでアバターを走らせ、相手に話しかける
RISAでは自身が立つ四角いタイル内にいるメンバー同士と音声通話で話せるようになっている。遠くにいる誰かに話しかけたいときは、その人が実際にいる部屋などにアバターを走らせ、話しかける。アバターは床をクリックすればその位置に移動できる。キーボードのA、W、S、Dキーや矢印キーでも移動可能だ。
RISAのアバターは髪型や顔、服装など、さまざまなパーツをカスタマイズできる。手足が一部だけしか表現されないアバターは一見すると奇妙だが、実際に動かしてみると違和感はない。深野氏は「細部の動きなど、人は見えていない部分を想像で補うので、想像の範疇でどのような動きをしているのかを最低限わかるところまで削りました。動作を軽くするといった狙いもあります」と説明する。
テレワークをしていると、相手がいまどのような状況かわからないことも多い。RISAではアバターの頭上に「声かけ可能」「取り込み中」「離籍中」を示すステータスを表示できる。エモート機能もあり、手を振ったり、拍手をしたり、ダンスしたりすることも可能だ。
「ただ、これだけではわかりづらいこともあります。そこでいまやっていることなどを『ひと言メッセージ』として、頭上に表示できます。私の場合、今日は『テッククランチさん取材』にしました。相手の状況が分かりづらいリモートワークの欠点を、記号だけでなく文字情報でも補完できるようにしています」と深野氏は語った。
また、ウェブ会議で話し手が一方的に話し続けるといった問題も解決していく。RISAではスタンプ機能を追加し、アバターにクエスチョンマークやハートマークを連続して表示できるようにした。
目くばせやうなずきなど、人が何気なく行っていたちょっとしたジェスチャーに寄せた表現ツールだ。「一方通行になりがちなウェブ会議でも、インタラクティブなコミュニケーションができるように工夫しました」と深野氏はいう。
マップ機能も追加して誰がどこにいるかわかるように
料金体系は1つのRISAの仮想空間上で、1~50人利用で月額税込3万3000円となっている。RISAでは100人ほどが常時接続できるようになっているが、50人以降は10ID毎に月額税込5500円で追加できる。導入企業をみると、部署単位で最大80人が働いている企業もあれば、4人で利用している企業もあるという。
製品版リリースから約6カ月のタイミングとなる2021年4月には、大型アップデートを行った。RISAの部屋配置などを刷新し、これまでよりも音声通話ができる空間を増やしている。
「リアルのオフィスでは、会議前にロビーで少し作戦会議したり、会議終わりに『わからないところがあった』など雑談が生まれたりします。この会議前後の時間はとても大事だと考えています。RISAでも会議を起点にした偶発的なコミュニケーションがより生まれるよう、簡単に空いている部屋へ移動できるレイアウトにしました」と深野氏は語る。
また、2Dのマップ機能も追加した。これにより、誰がどこにいるのかカーソルを部屋に合わせればわかるようになった上、誰もいない空間を簡単に探せるようになった。
2Dではなく3D。情報量の多さを重視
クラウドオフィスには2Dのアイコン・空間を用いてサービス展開している企業もいる。OPSIONではなぜ3Dを選んだのか。深野氏はこう語る。
「臨場感や没入感、『ここで働いているんだ』という帰属意識をRISAは重要視しています。2Dのアイコンがあるだけよりも、3Dのアバターは人の形をしているため、直感的に実際に集まって働いているという感覚を高めることができます。また、3Dは情報量が多い分、相手が何をしているといった状況も分かりやすく、声をかけやすいです」。
OPSIONは3Dにこだわり、人に近しい感覚で働ける環境づくりを追及しているのだ。しかしデメリットもある。
「3DではPCの動作が重くなるといったことがあります。ただ、PCそのものの性能が上がっていたり、5Gといった新たなテクノロジーも発展していくはずです。2Dとの差である『動作の重さ』といった不都合は時間とともに無くなるはずです」と深野氏は述べた。
ポイント制度導入で帰属意識をより高める
OPSIONの業務もRISA上で行われているが、現在は試験的に「ポイントショップ」「ポイントランキング」といったポイント制度を取り入れている。
深野氏は「RISAにおけるユーザーの活用状況に応じて、ポイントを付与する仕組みを実装しようとしています。ポイントを貯めれば、アバターの見た目を変えたり、部屋の椅子などをカスタマイズできるようにします」と構想を語った。
具体的には誰が誰に話したのかといった発話者を特定して、そのコミュニケーション量などに応じてポイントを付与できるようにするという。ポイント制度は早ければ2021年の夏ごろには実装する予定だ。
「ゲーム性を含んだポイント制度には意味があります。楽しんで仕事ができることはもちろん、『最近アバター変わったね』など会話のきっかけ作りにもなります。また、オフィス空間を自分たちで作り上げていけば、より帰属意識も高まっていくはずです」と深野氏は意気込む。
深野氏は新型コロナウイルスの影響が収束しても、リアオフィスとテレワークの両方を取り入れたハイブリット的な働き方が主流になるとみる。RISAでもマルチデバイス対応などを行うことで、双方をよりシームレスに行き来できる居場所として、発展させていく考えだ。
「5、10年というスパンでは、リアルオフィスだけでなく、RISAのようなクラウドオフィスを企業が持つことが当たり前になると思っています。我々は家にいても、リアルオフィス以上にコミュニケーションが取れるような世界観を目指していきます」と深野氏は想いを語った。
なお、取材中はCPUがIntel Celeron N4100、メモリが8GB、OSはWindows 10 Home(64bit)のノートPCを使っていたが、アバターは問題なく動き、音声通話も終始クリアに聞こえた。他のタブなどは閉じた状態で、GPUはほぼ100%の使用率となり、CPUは30%前後だった。
実際にRISAを使ってみて、キーボードで動かすPCゲームなどの経験は筆者にはなかったので、アバター移動は多少手間取ってしまった。その点を除けば、取材を1時間ほどしている中で、RISAでアバターを動かしながら話を聞くことに不便さはなかった。回線落ちなど何かしらの不具合はあると思っていたが、杞憂だった。
アバターではあるが、取材中は相手の正面に立とうとするなど、気づけばアバターは「自分化」していた。アバターは多種多様なパーツがあったため、その日の気分によって服装や髪型を変更でき、使い込んでいけばお気に入りの見た目なども出てくるかもしれない。
テレワーク環境で失くした「人と1つの場を共有して働いている」という感覚は、バーチャル空間で実現すると真新しくもあった。RISAが導入されれば、深野氏がいう「偶発的なコミュニケーション」による職場の温かさのようなものが取り戻せるかもしれない。リアルオフィス以上を目指すというOPSIONの動きに、引き続き注目したい。
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カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:OPSION、RISA、テレワーク、仮想オフィス、アバター、仮想空間、日本
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/05/20/risa/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Yuichi Hirawata