新型コロナウイルスパンデミックが引き続き世界中の暮らしと航空網を一変させている中、海外の学校に入学した数十万もの中国人学生が行き詰まっている。中国の自宅で学習しながら、彼らはみな、ある1つの問題に直面している。学校のウェブサイトや他の教育リソースのローディングが耐え難いほどゆっくりなのだ。これは、すべてのウェブトラフィックが通称「グレート・ファイアウォール」という中国の検閲システムを通過しなければならないためだ。
そこに好機を見いだしたAlibaba(アリババ)のクラウド部門は、米国のサイバーセキュリティソリューションプロバイダーFortinetとのバーチャルプライベートネットワーク(VPN)手配を通じて、中国の学生を海外の大学のポータルへと結びつけたとロイターは2020年7月に報じたが、Tencent(テンセント)も似たようなプロダクトを展開しているとも指摘していた。
Tencentのサービスの詳細が明らかになった。「Chang’e Education Acceleration」というアプリはAppleのApp Storeに2021年3月に登場した。選ばれた海外の教育サービスのローディング時間をスピードアップするというものだ。Tencentはアプリについて「在宅でそして海外で学ぶ学生や研究者にインターネットアクセラレーションと教育リソースの検索サービスを提供することを目的とした、Tencentからのオンライン学習無料アクセラレーター」と簡潔に説明している。
教育使用のためのAlibabaのVPNと異なり、Chang’eはVPNではない、とTencentはTechCrunchに語った。VPNをどのように定義づけているか、あるいはChang’eがテクニカル的にどのように機能しているかTencentは説明しなかった。同社は2020年10月にアプリのオフィシャルウェブサイトでChang’eの提供が始まったと述べた。
「VPN」という言葉は中国では隠れた意味を持つ。往々にして「グレート・ファイアウォール」を不法にバイパスすることを意味する。人々は婉曲表現「アクセラレーター」あるいは「サイエンティフィックインターネットサーフィングツール」と言及する。TechCrunchが行ったテストでは、Chang’eがスイッチオンになると、iPhoneのVPNステータスは「オン」と表示される。
ウェルカム画面では、Chang’eはユーザーに「アクセラレーション」のための国を米国やカナダ、英国を含む8カ国から選ぶよう尋ねる。また、各地域のレーテンシータイムとどれくらいスピードアップするかの予想も表示する。
国を選ぶと、Chang’eはユーザーがアプリのビルトインブラウザーで訪ねることができる教育リソースのリストを表示する。そこにはトップの大学79校(大半が米国と英国)のウェブサイト、Microsoft Teams、Trello、Slackのようなチームコラボツール、UDemy、Coursera、Lynda、Khan Academyといったリモート学習プラットフォーム、SSRNやJSTORなどの研究ネットワーク、Stack Overflow、Codeacademy、IEEEなどのプログラミングとエンジニアリングのコミュニティ、世界銀行とOECDが出している経済データベース、PubMed、Lancetといった医学生のためのリソースが含まれる。
これらのサービスの多くは中国でブロックされていないが「グレート・ファイアウォール」下にある中国本土でのローディングはゆっくりとしたものだ。ユーザーはリストに含まれていないサイトをリクエストすることもできる。
Chang’eはユーザーのスマートフォンの全トラフィックではなく、選んだサイトだけを自由にアクセスできるようにしているようだ。中国で禁止されているGoogle、Facebook、YouTube、その他のサイトはChang’eを通じても利用不可だ。AndroidとiOSの両方で無料で利用できるChang’eは現在のところユーザーに登録は求めていない。オンラインでの行動が厳しく規制されている中国では珍しい方針であり、ほとんどのウェブサイトはユーザーに実名での登録を求めている。
AlibabaとTencentによるサービスは、違法あるいは中国の国益を損なうと思われる情報をブロックするための中国政府の検閲システムによって引き起こされた迂闊な結果だ。大学、研究機関、多国籍企業、輸出業者は往々にして、当局が無害だと考えるもののために検閲回避アプリを探すことを余儀なくされる。
VPNプロバイダーは中国で合法的に運営するために政府の承認を得る必要があり、ライセンスを取得したVPNサービスは中国の国家セキュリティを危険にさらすウェブサイトのブラウジングが禁止されている。2017年にAppleは中国政府の命令を受けて何百もの無認可VPNアプリを中国のApp Storeから削除した。
2020年10月にTechCrunchは、VPNアプリとブラウザーのTuberは中国のユーザーがFacebook、YouTube、Googleといった世界のインターネットエコシステムを垣間見れるようにしていると報じたが、記事の掲載からほどなくしてアプリは削除された。
関連記事:グレート・ファイアウォールを乗り越える中国製ブラウザTuber
カテゴリー:ネットサービス
タグ:Tencent、中国、オンライン学習、留学、グレート・ファイアウォール、VPN
画像クレジット:GREG BAKER/AFP / Getty Images
[原文へ]
(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi)