公正取引委員会は6月10日、携帯電話市場における競争の促進と、利用者が乗り換えをしやすくするための方策について調査・検討した報告書を公表しました。端末代金と通信料金の完全分離、新料金プランなどの動向を踏まえた検証のほか、大手キャリアによる代理店評価方法の是正などを求めています。
2018年の報告書のフォローアップ+新たな課題の検討
公正取引委員会が公表した「携帯電話市場における競争政策上の課題について(令和3年度調査)」は、2016年8月と2018年2月に報告書を公開した後、電気通信事業法の改正、楽天モバイルが第4のキャリアとして参入などの競争環境の変化を踏まえたフォローアップ調査と、新たな競争政策上の課題、MNO(キャリア)と販売代理店の関係などの課題に関する調査・検討内容をまとめたものです。
フォローアップ調査
フォローアップ調査の対象となっているのは、以下の7項目です。
- 通信と端末のセット販売
- 期間拘束・自動更新付契約(2年縛り)
- 将来的な端末の下取りや同じプログラムへの加入等を前提としたプログラム
- SIMロック
- 中古端末の流通
- 携帯電話端末の修理
- MVNOの競争環境を確保するための制度上の対応等
1. 通信と端末のセット販売
改正電気通信事業法により、通信契約と端末購入がセットの場合、端末代金の割引上限を2万円とする規制が設けられました。
KDDIとソフトバンクの端末購入サポートプログラムは、通信契約が条件となっていないため、2万円の上限が適用されません。
しかし、消費者アンケートでも87.1%が知らないと回答するなど、通信契約なしで同プログラムを利用できることが分かりにくいのが実情です。また、非回線契約者は同プログラムにオンラインで申し込みできません(KDDIは2021年夏まで、ソフトバンクは2021年度末までにオンラインで購入可能にする予定と表明)。
公取委は、これらのプログラムが事実上の回線契約者への上限を超える値引きとして機能しているほか、他の事業者の事業活動を困難にしている場合は独占禁止法上の問題となるおそれがある、と指摘しています。
2. 期間拘束・自動更新付契約(2年縛り)
改正電気通信事業法により、改正法後の契約者は契約期間中に解約した場合の違約金が1,000円に引き下げられました。
しかし、改正法施行前に締結され、引き下げられた違約金が適用されない契約が全体の6割程度残っています。また、消費者アンケートでは、違約金が引き下げられたことを知らない回答者が過半数を占めています。
公取委は、スイッチングコストの低下により、利用者が乗り換えしやすい環境が整備されつつあると評価しながら、MNO3社が利用者に、新料金プランへの移行を働きかけることを求めています。
3. 将来的な端末の下取りや同じプログラムへの加入等を前提としたプログラム
改正電気通信事業法の施行により、端末買い替え時に指定料金プランに再加入することを求める、いわゆる4年縛りは禁止されました。
しかし、消費者アンケートの結果、MNO3社が提供する端末購入サポートプログラム利用者の75.8%は、通信契約を結ばなくても同プログラムを利用できることを知りませんでした。
公取委は、現在の状況で端末購入サポートプログラムの残債免除の条件として、端末の再購入を課すのはスイッチングコストとして機能していると指摘し、残債免除のために端末の再購入が必要という条件を削除することを求めています。
4. SIMロック
総務省が2019年11月に改訂版を公開したSIMロックガイドラインにより、MNO3社が端末購入時にSIMロックを無料で解除するなどの対応が進みました。
しかし、消費者アンケートではSIMロックを解除しない理由として「手続きが面倒」と回答したMNO利用者が24.2%いるなど、SIMロックが乗り換えの障壁となっている、と公取委は指摘しています。
そのため、公取委はMNO3社に対し、端末購入時以外に店頭でも無料でSIMロック解除に応じるよう求めています。
5. 中古端末の流通
MNOや中古端末の仲介事業者が中古端末の流通を制限している事実は確認されませんでした。
消費者アンケートの結果、MNO3社のユーザーは8割が中古端末を利用しくないと回答しており、理由として「バッテリーの持ちが悪そう」「衛生的でないイメージ」が上位に挙がりました。
公取委は、MNOが中古端末の売却先に対して、販売価格の指定や端末を販売しないなどの不当な制限を貸した場合、独占禁止法上の問題になるおそれがある、と指摘しています。
6. 携帯電話端末の修理
報告書では、Appleが2021年3月から日本を含む世界各国で独立修理プロバイダーに純正部品を提供するIRPプログラムを開始したことを、競争政策上望ましいと評価しています。
今後、Appleから独立修理プロバイダーに純正部品が供給されているかなど、注視していく方針です。
7. MVNOの競争環境を確保するための制度上の対応等
総務省は、アクション・プランとして、5G電波の周波数割り当てに、MNOがMVNOに求める接続料の低廉化への取り組み状況を反映する方針を示しました。
MNOの接続料は引き下げが進み、令和3年度の予測値は令和元年度の届出値と比べてほぼ半分になっています。
公取委は、接続料の予測値と実績値の差が小さくなるよう努めることをMNO3社に求めています。加えて、総務省に対してはMNOがMVNOと積極的に取引するような環境を整備することを求めています。
新たな競争上の課題
携帯電話市場の環境変化による、新たな課題として以下の5点が挙げられています。
- 消費者が最適な料金プランを選びやすい環境の整備
- 携帯電話端末に係る課題等
- MVNOの競争環境の確保に向けて
- 販売代理店
- MNOへの新規参入による競争の促進
1. 消費者が最適な料金プランを選びやすい環境の整備
複数の条件を満たす必要がある料金が広告で強調されている場合に消費者の誤解を誘発していると指摘し、消費者が理解しやすい表示を行うことを求めています。
MNOからMVNOへの移行が進まない理由について、消費者アンケート結果を分析して4つの因子を比較したところ「MNOへの信頼性・満足度・愛着度」が最も大きな影響を持っていることが分かりました。
2. 携帯電話端末に係る課題等
Apple Watchのようなウェアラブル端末のセルラー通信が、MNO3社でしか利用できない理由は聞き取り調査の結果、技術上の理由であることがわかったものの、MNO3社以外でも利用可能にすることが望ましい、と公取委は求めています。
3. MVNOの競争環境の確保に向けて
スマートフォン向けのeSIMを早期に導入すること、MVNOへの音声卸料金の引き下げ、5Gの本格普及に向けてMVNOへの機能解放を行うことなどをMNOに求めています。
4. 販売代理店
高額な大容量プランの契約獲得数が販売代理店の経営を左右する評価基準として重視されていることで、代理店が高額プランに誘導するため、消費者が最適なプランを選べなくなるおそれがある、として評価制度の見直しを求めています。
新料金プランに関心を持って来店した消費者を高額なプランに誘導する「アハモフック」「povoフック」と呼ばれる販売手法が取られるのは、新料金プランを販売しても代理店の評価はプラスにならず、収益に繋がらないためと見られています。
このほか、MNOが販売代理店の端末販売価格を事実上拘束していることは、独善禁止法上の問題となるおそれがあり、見直しを求めています。
5. MNOへの新規参入による競争の促進
楽天モバイルがMNOとして参入したことで、競争環境に変化が生じており、海外の事例を見てもMNOが3社よりも4社の方が望ましい、としています。
Source:公正取引委員会
(hato)
- Original:https://iphone-mania.jp/news-374641/
- Source:iPhone Mania
- Author:iPhone Mania