政府から無料でお金がもらえるというと、まるで宝くじに当たったような気分になるが、実際には技術系のスタートアップ企業はもちろん、地元の小売店やレストランであっても、米国の研究開発に関する税額控除の対象となる可能性がある。ただこの税額控除は、ハイテク企業の税率をゼロに近づけてはくれるが、中小企業にとっては、膨大な書類の提出や税務調査の費用の可能性のために、受けることが困難になっている。
そこで、この問題を解決するために多くのスタートアップ企業が立ち上げられたが、ここにきて大企業も参入し始めた。
中小企業向けの給与計算サービスから始め、その後従業員の入社手続きや保険、福利厚生などの人事サービスにも事業を拡大してきたGusto(ガスト)は米国時間6月17日、研究開発費の税額控除に特化した税務コンプライアンス自動化スタートアップのArdiusを買収すると発表した。
ロサンゼルスを拠点とする同社は、それまで会計事務所EYで10年以上勤務していたJoshua Lee(ジョシュア・リー)氏が2018年に創業した。買収条件は公表されていない。Ardiusは独立した事業として運営され、チーム全体がGustoに移る。
ここでの戦略はシンプルだ。ほとんどの研究開発税額控除では給与明細書が必要になるが、そのデータはすでにGustoの記録システムに保存されている。現在のArdiusは、多くの給与データプロバイダーからデータを抽出し、それを検証可能な税務書類に変換できる。今回の提携により、両社はGustoの膨大な数の顧客のために自動でそれを実行することができる。
Gustoの共同創業者でCEOのJoshua Reeves(ジョシュア・リーブス)氏は、今回の買収は顧客とシンプルさを重視する同社の長期的な方針に沿ったものだと話す。「我々は、テクノロジーと優れたサービスを融合し、政府をよりシンプルにしたいと考えています」と同氏はいう。「ある意味では、給与計算をよりシンプルに、医療費をよりシンプルに、PPPローン(米政府の融資制度の1つ)や税額控除をよりシンプルにするなど、当社が行っている多くのことは、これらが意図された通りに機能するようにすることなのです」。Gustoはおそらくそうした機能を自社で開発することもできたが、Ardiusを最初の買収対象にしたのは「Time to Market(市場投入までの時間)」が重要なポイントだったと同氏は指摘する。
共同創業者で最高製品責任者のTomer London(トマー・ロンドン)氏は「私たちが長い間この分野に注目していたのは、独善的な製品を作るという当社の当初の製品理念の1つにつながるからです」と話す。人事のような複雑な分野で「私たちは単なるツールではなく、アドバイザーでありたいと考えています。これは、私たちがすでに持っている給与データを数回クリックするだけで、数日後にはそのビジネスにとって本当に重要なキャッシュフローにアクセスできるというすばらしい例です」。また、税額控除については「長い間、私たちのロードマップにあったものです」と述べた。
Gustoは、100以上のサードパーティーサービスと連携しており、プラットフォーム上で統合することができる。リーブズ氏は、ArdiusがGustoの一部となっても、すべての企業(Ardiusの製品と直接競合する可能性のある企業も含む)は、引き続きGustoのプラットフォームのデータに平等にアクセスできることを強調した。同社はプレスリリースで、Boast.ai、Clarus、Neo.Tax、TaxTakerなどを現在Gustoと統合している税務製品の例として挙げた。
もちろん、Ardiusは、研究開発や経済開発の税額控除の分野で登場した数多くの競合企業の1つにすぎない。筆者が以前、2020年のシードラウンドで紹介したMainStreetは、3月にSignalFireがリードした資金調達で6000万ドル(約66億円)を調達したばかりだ。一方、こちらも筆者が2020年紹介したNeo.taxは、総額550万ドル(約6億500万円)を調達している。
リーブズ氏は、この分野が注目されていることと、Ardiusにとっての競争の可能性について、前向きに考えている。研究開発費の税額控除については「アクセス性を高めるものであれば、私たちは賛成です」と語る。「率直に言って、まだ十分に活用されていないため、認知度が高まっているのはすばらしいことです」。また、Gustoのデータやソフトウェアを活用すれば、他の競合他社よりも垂直統合型のソリューションを提供できると強調した。
パンデミックの影響を特に受けたのは中小企業で、中小企業は大企業のような資金力を持たないため危機を乗り切れないことが多いが、Gustoは新しい企業の誕生とともに事業を拡大してきた。リーブズ氏によると、4月に終了した前事業年度は同社の顧客ベースが50%増加したという。「パンデミックや経済危機の中では、給与の支払いや医療へのアクセスなどが非常に重要であることがわかりました」とリーブス氏はいう。Gustoは、中小企業が政府の景気刺激策であるPPPローンを獲得するためのプログラムを開始した。
Gustoの主な拠点は、サンフランシスコ、デンバー、ニューヨークで、Ardiusの拠点はLAのままだが、Ardiusのスタッフを含めリモートワーカーの数は増えている。リーブズ氏は今後の買収については言及していないが、Gustoは従業員と企業の両方を対象とした包括的なファイナンシャル・ウェルネス・プラットフォームへの拡大に注力していることから、将来的にはさらなる買収が行われる可能性がある。
関連記事
・人事ソフトのRipplingとGustoが広告看板をめぐり「どちらもどっち」な言葉のバトル
・最もリクエストが多かった消費税計算、会計ツールを決済大手Stripeは約30カ国で提供開始
・米国で固定資産税の節税を自動化するTaxProperが2億円超を調達
カテゴリー:HRテック
タグ:Gusto、税金、買収
画像クレジット:Grace Cary / Getty Images
[原文へ]
(文:Danny Crichton、翻訳:Nariko Mizoguchi)