サイトアイコン IT NEWS

【前編】JP Gamesがリリースしたバーチャル空間構築のための技術製品「Pegasus World Kit」とは

世界初のパラリンピック公式ゲーム「THE PEGASUS DREAM TOUR」を制作するJP Games。同社はこのゲームの基盤を使い、手軽にバーチャル空間を構築できる企業向け技術製品「Pegasus World Kit」(以下、PWK)をリリースしました。

PWKは、ANA NEOが2022年にローンチする予定のバーチャルトラベルプラットフォーム「ANA SKY WHALE」構築にも活用されており、注目が集まっています。

今回は、JP Games CEO 田畑端氏に、この製品で一体どんなことができるのか、取材しました。

PEGASUS WORLD KITとは?

ーーPWKとはどういうものなのでしょうか?

田畑:PWKは、JP GAMESが先月24日に配信を開始したパラリンピック公式ゲーム「THE PEGASUS DREAM TOUR」の技術基盤と、Epic GamesのゲームエンジンUnreal Engineを活用し、JCBのID(アイデンティティ・認証)、ソラミツのブロックチェーン技術を加えて構成した、企業向け技術製品です。

ーー具体的に何ができるのでしょうか。

田畑:『THE PEGASUS DREAM TOUR』というゲームには、アバターや街並み、キャラクターなどのグラフィックがあります。また、それらを必要な場所に配置したり、役割を与えてAIで動かしたりして、ユーザーが使えるものにするためのプログラムをまとめたモジュールが用意されています。

本来のゲーム開発であれば、こうしたものは全て最初から作らなければいけません。しかし、PWKには、すでに出来上がったグラフィック、モジュールなど、ゲーム作りに必要なパーツが全て入っていて、それらを組み合わせるだけでバーチャル空間を作ることができるんです。

ゲームを作るためのツールではない

ーーPWKはゲームを作るためのツール、ということでしょうか?

田畑:もともとはオンラインRPGを開発するためのツールを、さらに用途を広げるための拡張を行い、使いやすくして、「ゲーム要素のある空間も作れるツール」にしたものと考えてもらうと良いと思います。

例えば、PWK内の『THE PEGASUS DREAM TOUR』の技術基盤には、RPGを作るための仕組みが入っています。

RPGゲームでは、(1)主人公が村に出て(2)特定の村人と話すと(3)自分が選ばれし勇者であることがわかり(4)そこで剣を手に入れて(5)冒険の旅に出る、というような筋書きと、筋書き上の通過ポイントを管理する仕組みが必要です。

本技術基盤にはこの仕組みが含まれているので、ある程度形の決まったRPGを作ることができます。ですが、オリジナリティを出したゲーム作りには物足りないかもしれません。

また、鬼ごっこのような簡単なミニゲームのモジュールも入っています。なので、バーチャル空間のどこかに、ちょっと遊べるコーナーを作ることができます。そのため、「ゲームを作るためのツール」というより、「ゲーム要素のある空間も作れるツール」と考えてもらったほうが、用途をイメージしやすいと思います。

ーーでは、Epic GamesのゲームエンジンであるUnreal EngineはなぜPWKに含まれているのでしょうか?

田畑:『THE PEGASUS DREAM TOUR』は、Unreal Engine上で動くオンラインのRPGとして作られています。そこで開発された技術基盤の範囲の中で出来ることはいろいろとあり、今回提供するPWKのベースになっていますが、その範囲を超えて出来ることも当然あります。

PWKを導入した企業に、ゲーム開発の技術やノウハウがある場合には、PWKで出来ることの範囲を超えて、拘りたい、工夫したいところが出てくると思います。そういったゲーム開発に強い企業は、そもそもUnreal Engineを直接触ってどんどん拡張し、納得のいくサービスを空間内に構築していただけます。

例えば大自然を車で冒険できる仮想世界を作りたいとか、本格的な銃撃戦をサービスの取り入れたい、といった場合は、オンラインRPGとはまったく別のゲーム要素が必要になりますので、Unreal Engineで機能を拡張していくことになります。

Unreal Engineは各種スマートフォン、各種PC、各種VRデバイスに対応したゲームエンジンです。つまり、Unreal Engineで一度空間を使ってしまえば、ユーザー側の多様なデバイスにどう対応するのか、考える必要がありません。そういった点でも使い勝手がいいものになっています。

JCBのID、ソラミツのブロックチェーン技術の意味

ーーPWKには、JCBのID(アイデンティティ・認証)機能も含まれています。これにはどういう意味があるのでしょうか?

田畑:ひとつの仮想世界の中だけで、ユーザーID管理と決済システムを提供するだけであれば、様々な企業がやられているように特別な技術は必要ありません。

PWKで重要だと考えたのは、ユーザーが複数の仮想空間をまたげることです。そのため、A社の世界からB社の世界に移っても、さらにその後にC社の世界に移っても、ユーザーのID、アバター情報や持ち物、セーブデータや決済情報などがきちんと保持され、引き継がれる仕組みが必要となり、JCBと協力していくことになりました。

その際に利用できる決済手段もQRコードやクレジットなど様々な方法を用意しようと考えています。

ーーソラミツのブロックチェーン技術も含まれています。これによって何ができるのでしょうか?

田畑:ユーザーの利用記録、ゲームでいうセーブデータ的なものですが、このデータを複数の世界にまたがって管理する部分にはブロックチェーンの技術を使います。また複数の世界にまたがって利用できる独自の通貨を持つことで、ユーザーにとってお得な経済システムを構築することもできます。

ソラミツはそういったブロックチェーンの技術開発で世界的な評価を受けている企業です。

ーーここまで、PWKの内容と、それによって何ができるのかをお聞きしました。ですが、企業や、構築する空間の趣旨によっては、使わない機能も出てくるのではないでしょうか?

田畑:もちろんです。なので、必要なところだけ、必要に応じて使っていただければと思います。バーチャル空間に「こうあるべき姿」はないので、各社「うちの会社のバーチャル空間にはこれが必要だ」という考えに従って、楽しい空間を作ってもらえればと思います。

(文・佐藤友理)

※【後編】は、7月15日(木)朝8時に公開いたします。

モバイルバージョンを終了