BMWの「Mハイパフォーマンスシリーズ」は、BMW傘下のBMW M社がプロデュース。そんな腕利きチームが「4シリーズ クーペ」をベースに手がけたスポーツクーペ「M4クーペ」の新型が、先頃日本に上陸した。
4シリーズ クーペよりも迫力満点の大胆なフロントマスクが目を惹く新型M4。その走りは、サーキットやワインディングをハイペースで走って良し、街中をゆっくり流しても良しの万能仕立て。それを具現したのは、Mハイパフォーマンスシリーズならではの高い官能性能にあった。
■ニーズに合わせて好みの仕様を選べる新型M4
4シリーズ クーペのハイパフォーマンスバージョン「M4」が、ついに日本に上陸した。フツーの4シリーズ クーペを見慣れたからか違和感はないけれど、やはり大胆な顔つきだ。…なんて書き出すと「顔の話はもういいよ」といわれそうだが、そのインパクトは相当なものだ。
BMWのフロントマスクといえば“キドニー(腎臓)グリル”と呼ばれるふたつの穴が特徴。最新のBMWはその穴が巨大化し、ついにフロントバンパー下部まで広がっている。新しいM4も、薄暗いところでヘッドライトだけが点灯すると、口を開いた怪物にギロッとにらまれたかのようで、思わず後ずさりしそうになるほどだ。
M4などを展開するBMWのMハイパフォーマンスシリーズは、メルセデス・ベンツのメルセデスAMGやアウディRSシリーズと並ぶ特別な存在で、本拠地はサーキット。一般公道も走行可能で日常的にも不満なく走れる快適性を備えているが、あくまで過酷なサーキットをメインステージとして作られている。
新型M4は、「M4クーペ」、「M4クーペ コンペティション」、そして「M4クーペ コンペティション トラックパッケージ」と3つのバリエーションを用意するが、基本的な構成はどれも同じだ。全長4.8mの2ドアクーペボディをまとい、3リッター直列6気筒ターボエンジンを搭載。サーキット走行を重視した味つけのサスペンションを組み合わせ、480〜510馬力というハイパワーをリアタイヤで路面にたたきつける。
最もベーシックなM4クーペは、最高出力こそ480馬力と“低め”だが、シリーズで唯一、6速MTを選択できる(というかMTしか設定がない)のが特徴。MT好きのための仕様と判断していいだろう。
M4クーペ コンペティションはシリーズの中心となるモデルで、トランスミッションは8速ATのみ。サーキット走行を重視するモデルであっても、いまやMTは速さを求めるのではなく、運転の楽しさを提供するために存在することがこの組み合わせからもうかがえる。ちなみにM4クーペ コンペティションのエンジン最高出力は510馬力まで高められ、停止状態から100km/hまで3.9秒で加速する。
もうひとつのM4クーペ コンペティション トラックパッケージは、トラック=競技場のネーミングからもうかがえる通り、サーキットでの走行性能を際立たせた仕様だ。エンジンはM4クーペ コンペティションと同じだが、衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全装備やアダプティブクルーズコントロールといった先進運転サポート機能は非装着。加えて、ヘッドライトも機能を絞ったシンプルなタイプとし、オーディオも質素な地上デジタルチューナーレスとなるなど、快適性を左右する機能もシンプル化している。その一方、サーキット走行時の超高温に耐えるカーボンセラミック製のブレーキやカーボン製のバケットシートを標準装備とするなど、より戦闘力を高めている仕様である。
かつてはひとつの仕様しか存在しなかったM4(と前身の「M3クーペ」)だが、エンジン出力を高めつつ、快適性も追求したコンペティションを中心とし、MTのみの設定でドリフトを楽しむ人にも最適なベーシック仕様や、よりサーキットに特化したトラックパックも用意するなど、ニーズに合わせて好みの仕様を選べるのがイマドキのM4なのだ。
■自然とテンションが上がる内外装の仕立て
今回試乗したのは、シリーズの中心的な存在となるM4クーペ コンペティションだ。
そのエクステリアはひと目でM4と分かる仕立てだ。大きなキドニーグリルは4シリーズと同じテイストだが、フロントバンパーはひときわアグレッシブなデザインとなる専用品。ボンネットもグリルの存在感を強調する大胆なデザインとなり、ルーフはカーボン製である。
ボディサイドでは、フェンダーの張り出しが大きくなっているのが目を惹く。フロントフェンダー後方に付く“M4”のエンブレムがアクセントとなり、ふんだんに使われたカーボン製パーツとともにフツーじゃない“オーラ”を醸し出す。
対するインテリアは、グリップが太いMハイパフォーマンスシリーズ共通のハンドルに加え、トランスミッションの変速制御を調整するスイッチが備わったシフトノブ、そして、どこか未来的な雰囲気が漂うホールド性に優れるシートと、カラダが触れる部分はいずれもM4専用の仕立て。これらを目にしたドライバーに「テンションを上げるな」というのは無理な話だろう。
それにしても、今回の試乗車はカラーリングが派手だった。もちろんオーナーの好みで選べるのだが、試乗車はサンパウロイエローというボディカラーに、薄いブルーのレザーをふんだんに配したインテリアという組み合わせ。オシャレな人じゃないと似合わないのでは? と思いつつ、もしかすると、Tシャツとジーンズというラフなスタイルでサラリと乗りこなすのも似合う組み合わせかもしれない。
改めて説明する必要はないかもしれないが、新型M4の走りは「素晴らしい」のひと言に尽きる。車重は1730kgとかなりへビュー級で、しかもフロントに直列6気筒ターボエンジンを積むため決して“曲がりやすいクルマ”ではないのだが、峠道のタイトなコーナーでもハンドルを切れば“スッ”と鋭く向きを変え、スムーズにコーナリングしていく姿は鳥肌モノである。
またエンジンも、アクセルペダルを踏み込むとロケットのような速さを発揮するのはもちろん、高回転域での盛り上がり方やパンチ力、全域に渡る繊細な回転フィール、そして、刺激的な音と文句のつけようがない出来栄え。
ドライブ中はアドレナリンが出っ放しだ。あえて不満点を挙げるとすれば「速すぎてアクセル全開の状態を長く楽しめない」ことくらいだ。
■ゆっくり走っても“色気”を感じられる
そんな新型M4で「本当にスゴいな」と感じたのは、サーキットやワインディング、高速道路などでハイスピード走行を楽しんでいない状態、例えば、街中のバイパスをダラッと流しているだけでも、ドライビングが楽しいと感じられた点だ。
サーキット走行を重視したモデルなど、世の中にあるスポーツカーの中には、ゆっくり走っていると運転が楽しくないと感じるクルマも存在する。でもM4クーペ コンペティションはそうじゃない。その違いをひと言で現すなら官能性能だろう。
例えばエンジンは、ジワリとアクセルベダルを踏むだけでも反応の繊細さを楽しめて味わい深いし、サスペンションはしなやかで、ゆっくり交差点を曲がるだけでもクルマとの対話が楽しくなる。そうしたドライバーの操作ひとつひとつに対するクルマの反応に深みがあるのだ。
速くて刺激的なだけと思いきや、決してそうじゃない。むしろ、ゆっくり走っている時に感じられる“色気”こそが、数あるスポーツカーの中から新型M4を積極的に選ぶ理由だと思う。
<SPECIFICATIONS>
☆コンペティション
ボディサイズ:L4805×W1885×1395mm
車重:1730kg
駆動方式:RWD
エンジン:2992cc 直列6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:510馬力/6250回転
最大トルク:66.3kgf-m/2750~5500回転
価格:1348万円
文/工藤貴宏
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/387956/
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