国立大学法人東京大学とIBMは、2019年12月に「Japan–IBM Quantum Partnership」を発表。2021年3月には、日本初のゲート型商用量子コンピューティング・システム「IBM Quantum System One」の国内設置拠点を、産学交流によるインキュベーション施設である「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)」に決定しました。
そしてこのたび、KBICにて同システムの稼働を開始。今後は企業や公的団体、大学などの研究機関における量子コンピューターの利活用に関する研究や量子ネイティブの育成に活用される見込みです。なお、東京大学とIBMの契約に基づき同システムの占有権は東京大学が有します。
「安全稼働」「普及」「人材育成」
IBMによると、量子コンピューターは従来のコンピュータではできなかった複雑な計算を可能にするもので、ビジネスに与えるインパクトはAIに匹敵するほど強烈だといいます。現在、世界中で検討されている活用領域は、ロジスティクスの最適化、金融のリスク管理、量子化学など幅広く、解くべき問題をモデル化・定式化できれば、超並列計算でビッグデータなしでも、解答の可能性を探索することができるため「可能性のコンピューティング」とも呼んでいるようです。
今回同システムがKBICにて稼働を開始したのは、川崎市の全面的な支援により、電気、冷却水、ガスなどのインフラの安定供給や耐振動環境といった量子コンピューターの常時安定稼働に必要となる最適な環境を実現していたからだといいます。
今後は、2021年6月に「量子コンピューティング技術の普及と発展に関する基本協定書」を締結した東京大学・川崎市・日本IBMの3者が「量子コンピューターの安定稼働」「量子コンピューター利活用の拡大・普及」「量子コンピューターを活用した人材育成」に取り組むようです。
東京大学とIBMの取り組み
同システムの稼働の他、東京大学とIBMは、量子コンピューターの普及と発展に向けた活動を強化する取り組みを実施しています。
例えば、将来の量子コンピューター技術の研究・開発を行うハードウェア・テストセンター「The University of Tokyo – IBM Quantum Hardware Test Center」を2021年6月に東京大学 浅野キャンパス内に開設し、そこに量子コンピューターのコンポーネントの試験用に構築した、より大規模な量子コンピューターの動作環境を再現するプラットフォームである「量子システム・テストベッド」を設置したことが挙げられるでしょう。
同センターでは、日本の産学の技術を集結し、量子システム・テストベッドを用いてさまざまなハードウェアや部品の組み合わせによる実験を行うことで、世界を牽引する将来の量子コンピューターの技術開発を進めていくようです。なお、同センターの開設は、冒頭で記したパートナーシップの3つの主要部分のひとつだといいます。
また、東京大学が設立した「量子イノベーションイニシアティブ協議会」の会員企業の交流・情報共有の場となる「コラボレーションセンター(仮称)」を東京大学 本郷キャンパス(理学部1号館10階)に2021年8月中旬に設置する予定のようです。
(文・Higuchi)
- Original:https://techable.jp/archives/158731
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:樋口