デジタルサイネージを利用した屋外広告全般を指す「DOOH(Digital out of Home)」。それが位置情報の活用によって進化しているという。最新のDOOHの動向はどうなっているのか?今後どう変わっていくのか?unerryでBeaconBank事業部ビジネスプロデューサーを努める一枝悟史氏、エムシードゥコーのマーケティング部マーケティングディレクターである渡仲容子氏、博報堂DYアウトドアデジタルプロデュース部兼屋外&エリアプロモーション部プラナーの秦雄治氏、データインサイトとヘキメンでデータサイエンティストを努める神谷啓太氏がパネルディスカッション行った。モデレーターは技研商事インターナショナル執行役員マーケティング部部長市川史祥氏。
本記事は位置情報DXカンファレンス 2021July中のセッションを編集・再構成したものとなる。
DOOHと位置情報、現状はどうなっている?
モデレーターの市川氏はまず「位置情報はどう活用されているのでしょうか?」と渡仲氏に質問した。
渡仲氏は「当社の場合、これまでは自社調査や公共データを活用することが中心でしたが、今では位置情報、地図情報を他のデータと組み合わせて使うようにしています」と話す。
例えば、デジタルパネルのプロファイリング。広告主が宇田川町のバス停に広告を出そうか、二子玉川の高島屋前のバス停に広告を出そうか迷っているとする。イメージだけで言えば、前者には20〜30代の若い層が多そうだ。また、後者には30〜40代の年収の高い層が多そうだ。位置情報を使えば、イメージだけに頼るのではなく、実際にどこで誰が広告を見ているのかというデータを含めて顧客に広告を出す場所を提案できる。
渡仲氏は「実際、デジタルパネル広告の分布を見てみると、交通量が多かったり、購買力の強い層がいたり、高所得世帯が多かったり、ショッピング客の多いプレミアムな地域ではデジタルパネルが多く設置されています。こうしたエリアのプロファイルは高頻度で変わるものではないので、国税調査や商業データをベースにしたGISを活用することが適していると言えます」と話す。
データを組み合わせれば多様な知見を得ることができる。ショッピングモールに対しては、位置情報を使って来場者の属性データを供給することができ、レジャー施設に対しては、居住地情報を使って来場者がどこから来たのかというデータを渡すことができる。トラフィックデータを活用すれば、広告の周辺の交通量を広告主に知らせたり、広告料金の根拠を示すのに役立つ。
渡仲氏は「いろいろなデータがあるからこそ、データを難しくしないで、お客様にわかりやすいように情報を伝えることが大切です」と強調した。
広告主に説明できなければ、価値を発揮できていない
秦氏は、ある商業施設で行ったPoC(概念検証)の中で発見した位置情報活用の課題を語った。
このPoCでは、広告媒体の接触状況と、広告主店舗への送客効果を調査した。広告媒体付近と送客先の店舗にセンサーを設置し、広告接触者の接触状況や属性などを4週間かけて計測、分析した。
このPoCの結果、この施設の客層などの特徴を数値で裏付けることができたという。また、送客効果も出ており、狙っていたターゲットの来店率が最も高いことも確認できたという。
しかし課題も3つ見つかった。1つ目は精度。取得したデータを見てみると、広告の前に5時間ほど滞在した人がいたのだ。おそらくこれは店員だが、こうした異常値を弾くロジックの必要性が見えてきた。2つ目は計測期間。このPoCでは4週間計測を行ったが、そこから得られた結果がこの4週間に限った特徴なのか、季節的な特徴なのか、通年の特徴なのかを断定することができなかった。定常的なセンシング機器の設置が望ましいということがわかった。3つ目がデータの解釈。PoCを通して気づきを得てインサイトを抽出できても、なぜそういった事象が起きているのかを広告主に説明できなければ、広告代理店の価値を発揮しきれていないことになる。
秦氏は「逆に言えば、これが説明できれば、広告代理店の価値をわかってもらえるということです。これは重要なポイントになりますね」と語った。
これからのOOHはリーチ時間も大切に
神谷氏は、建物の3Dデータを活用し、特定の建物の特定の壁面はどれくらいの人に見られているのかを分析しようとしている。
「壁面の大きさと角度のデータをメッシュ人口データなどの位置情報と組み合わせれば、どのくらいの範囲でその壁面が見られているのか、そしてその範囲に1日平均何人がいるのかなどを知ることができます」と神谷氏。
現状、こうした分析を屋外広告の分野で活用しようとしているが、太陽光パネルの設置の可能性や有効性を検討したり、SDGsで注目される壁面緑化の可能性と効果を検討することもできるという。
こうした分析で神谷氏が有用だと考えているのがPlateauだ。Plateauは国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクトだ。
実際、神谷氏が所属するヘキメンはPlateauを用いて羽田未来開発と鹿島建設とともにPoCを行い、Haneda Innovation cityのどこに壁面広告を設置すると効果的なのかを分析した。
神谷氏は「こうした分析を行えば、時間帯別にどれだけの人が広告を見るのか、広告を見た人のセグメントはどうなっているのか、見た人たちはどこから来たのか、などを知ることができます」と話す。
こうしたデータは広告の価値、つまり広告の収益性や市場価値に直結している。
「非常に単純化した説明にはなりますが、広告の価値の軸には、何人が見ているのかという『リーチ人数』と、どれだけ長く見ているのかという『リーチ時間』の2つがあります。これまでのOOHはどちらかというと掲載場所や滞在人数や見通しなど、リーチ人数重視でした。しかし、デジタルマーケティングやテレビCM、YouTube広告では、『ちゃんと最後まで広告を見たのか』というリーチ時間がむしろ重要視されます。まだ方法はわからないのですが、広告を見る人の移動速度などを含めたリーチ時間を、今後はOOHの世界でも考慮しなければいけないでしょう」と神谷氏は語った。
広告主とメディアのギャップは恐れずに埋める
一枝氏は「当社unerryはデータ分析プラットフォームを提供しており、メディアと広告主両方の支援をしています。現在、両者がデータ活用をどう発展させるのかを活発に議論しています」と現状を語る。
同氏によると、これまでメディアは広告主に媒体接触人数を提示して広告枠を売り切るモデルでビジネスを行っていた。しかし、今ではプロファイリングや効果分析ができるようになり、メディア自身がメディアの理解を深められるようになってきたという。一方で、広告主もOOHや交通広告の戦略が変わってきたという。
同氏は参考としてunerryがジェイアール東日本企画(以下、jeki)と進めた企画を紹介した。これは、電車の中の窓上のサイネージや、改札のステッカーに接触したユーザーにFacebookやInstagram、LINEで広告を配信するというものだ。
「この企画の狙いは、jekiが持つ窓上のサイネージや、改札のステッカーに接触し人にさらに広告をに接触してもらうという訴求です。デジタルを使ってOOHを拡張するような考え方です」と一枝氏。
これは広告のフリークエンシーを高めるという単純なアプローチではあるが、データ活用が進むまでには取れなかったアプローチでもある。
一枝氏は「この方法なら、SNSで接触した人たちの効果、行動、CPA、CPIも見えます。OOHからDOOHへの変革の参考になると思います」という。
しかし、同氏は広告のデジタル化に関し、問題も提起する。
「データの活用が進み、さまざまな広告の効果をトラックできるようになりましたが、広告運用自体はまだ大きく変わっていません。そこでどこまでデジタルに踏み込んでいくのか、悩む企業もあるでしょう。さらに、広告主が求めることと、メディアが提供することにギャップも出てきているかもしれません。そのギャップを恐れずに、埋めていこうとすることが今後の広告で重要になっていくでしょう」と同氏は語った。
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カテゴリー: その他
タグ:DOOH(Digital out of Home)、デジタルサイネージ、位置情報、広告
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/08/10/dooh/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Yuri Sato