ブランドがソーシャルメディアやその他のサードパーティを通じて製品を販売する場合、それらのプラットフォーム上で広告を出すために数百万ドル(数億円)を費やすことがよくあるが、実際の顧客が誰であるかについてはほとんど、あるいはまったく知ることはない。ソーシャルコマースのスタートアップであるSocial Chat(ソーシャル・チャット)は、この状況を変えようとしている。
Social Chatは、Wish(ウィッシュ)のグロース部門の責任者であったFrost Li(フロスト・リー)氏が機械学習と人工知能を活用して、パーソナライゼーション、レコメンデーション、ライブ・カスタマー・サービスを実現するソフトウェアを開発するために5月に設立した会社だ。これにより、ソフトウェアで、ブランドが大規模なエンジニアリングチームに頼ることなく、失われたソーシャルエンゲージメントを収益や顧客獲得につなげることを可能にする。
「Wishでは、適切なショッピング体験を提供するためには、絶対的なパーソナライゼーションが必要であることを学びました。それを機械学習のエンジニアが行っていたのですが、Wishを辞めてブランドにアドバイスをしていると、Wishで行っていたことが珍しいことだとわかりました。人が手作業でやっていたので、結果的にパーソナライゼーションがあまりできなかったのです」とリー氏はTechCrunchに語っている。
彼女は、店頭でお気に入りの販売員と接するときのような顧客体験を、デジタルの世界でも再現し、ソーシャルイベントの中で消費者が購入や取引を行えるようにすることを目指している。
リー氏は、ソーシャルコマースはすべての店舗の標準となるべきだと考えており、それは近い将来実現するかもしれない。2021年初め、Grand View Research(グランド・ビュー・リサーチ)は、世界のソーシャルコマース市場は、現在から28%以上の成長を遂げ、2028年には3.4兆ドル(約387兆円)に達すると予測している。
「現在、オンラインショッピングは非常に取引という色の強いものですが、私たちは、お客様とのソーシャルな交流を通じて、長期的な関係を構築するお手伝いをしています」と彼女は付け加えた。
Social Chatは、eコマースのカスタマーエンゲージメントおよび収益ソフトウェアの提供を開始するにあたり、Race Capital(レース・キャピタル)とGradient Ventures(グラディエント・ベンチャーズ)が共同で600万ドル(約6億8300万円)のシードラウンドを実施したことを発表した。このシードラウンドには、Twitch(トゥイッチ)の共同創業者であるKevin Lin(ケビン・リン)氏、Agora.io(アゴラ)の創業者であるTony Zhao(トニー・チャオ)氏、Lyft(リフト)の元チーフプロダクトオフィサーであるRan Makavy(ラン・マカヴィ)氏、AfterPay(アフターペイ)のエンゲージメント担当グローバルヘッドであるAlanna Gregory(アラーナ・グレゴリー)氏、Wishのエンジニアリング担当バイスプレジデントであるJack Xie(ジャック・シー)氏が参加した。
Race CapitalのパートナーであるEdith Yeung(エディス・イェン)氏は、未来のショッピングはソーシャル化すると述べている。子どもたちはテレビを見る機会が減り、TikTok(ティックトック)を見る機会が増えているため、ブランドは視聴者を他のプラットフォームに奪われないように、データを管理する必要がある。
「フロスト氏がやっていることは、ブランドに力を与えて、顧客を自社のウェブサイトに戻し、売上につなげることです。Facebook(フェイスブック)は人々に再び信頼してもらおうとしていますが、企業は何百万ドル(数億円)ものお金を払い続けながら、自分たちの顧客が誰なのかを知らないまま、翻弄されているのです」と同氏は付け加えた。
一方、Social Chatは以前、200万ドル(約2億2700万円)を調達し、合計800万ドル(約9億1000万円)を調達しており、この資金を使って人工知能や機械学習のエンジニアを増員し、製品の提供を拡大する予定だ。
まだかなり新しい会社であり、具体的な成長指標を見るには時期尚早だが、Social ChatはすでにHTCをはじめとする10のブランドの顧客と協力しており、初期の牽引力を発揮している。
ソーシャルコマース市場が数百億ドル(数兆円)規模の市場に成長し、トラッキングの技術的な部分がなくなっていくのを見ているリー氏は、会社の規模を拡大し、ユーザーの問題を解決する機会を提供していくことになるだろう。
「私たちは、ユーザーが価値を見出すことができ、かつユーザーを維持するためにFacebookにお金を払い続ける必要がないように、人工知能を活用した差別化を図っています。Google(グーグル)がクッキーを廃止したら、とんでもないことになります。ユーザーとコミュニケーションをとるためには、ファーストパーティデータを自分たちで所有しなければならず、そうでなければ可視性を失うことになるでしょう」。と彼女はいう。
画像クレジット:Busakorn Pongparnit / Getty Images
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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)