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「日本のスタートアップも積極検討」暗号資産取引所クラーケンCVCが狙う投資領域

編集部注:この原稿は千野剛司氏による寄稿である。千野氏は、暗号資産交換業者(取引所)Kraken(クラーケン)の日本法人クラーケン・ジャパン(関東財務局長第00022号)の代表を務めている。Krakenは、米国において2011年に設立された老舗にあたり、Bitcoin(ビットコイン)を対象とした信用取引(レバレッジ取引)を提供した最初の取引所のひとつとしても知られる。

9月22日、ソフトバンクのビジョン・ファンド2が主導する資金調達ラウンドで、ブロックチェーンのインフラ企業ブロックデーモン(Blockdaemon)が1億5500万ドル(約170億円)の資金調達を行いました。ブロックデーモンは、暗号資産の新たな運用方法であるステーキングなどに必要なインフラを機関投資家向けに整備する企業です。出資者は、ソフトバンクの他、ゴールドマンサックスやボールドスタート・ベンチャーズなどの大手金融やハイテク企業が名を連ねており、暗号資産業界からは取引所のクラーケンが入っています。

本稿では、なぜ暗号資産取引所のクラーケンが、クラーケン・ベンチャーズというCVCを擁しているのか?どんな分野を投資先として注目しているのか?クラーケン・ベンチャーズ代表であるブランドン・ガスのコメントとともに解説します。

クラーケン・ベンチャーズ

クラーケン・ベンチャーズは、暗号資産とフィンテック領域におけるスタートアップ企業やプロトコルを対象にした独立した投資ファンドです。投資先には、フィンテックや暗号資産企業・プロトコル、分散型金融(DeFi)、AIや機械学習・ディープラーニング、レグテック(RegTech。Regulation+Technology)、サイバーセキュリティーが含まれます。

テキサス州のオースティンやベルリン、香港、ロンドン、ニューヨーク、サンフランシスコに拠点を構え、暗号資産業界における次のイノベーションを支えるために開発者などに対して必要なリソースや専門知識の提供を行います。

投資額は、25万ドル~300万ドル(約2750万円~約3億3000万円)の範囲です。加えて、暗号資産とフィンテック業界での数十年にわたる経験を持つクラーケンのチームによってコンサルティングとリソース提供を行なっています。この中には、企業がプロジェクトに代わり宣伝広告を行ったり顧客や投資家を紹介したりすることも含まれます。また、クラーケンの既存サービスとコラボすることもあります。例えば、後述するロケット・ダラーの顧客は、クラーケンの口座を使って暗号資産を購入し、ロケット・ダラーの年金口座で資産形成が行えます。

ブランドン・ガスは、今後の投資テーマとして、「フィンテックと暗号資産の領域が融合し始めている」という見解を示し、以下のように述べました。

「人々は暗号資産業界におけるエンジニアリングとプロダクトイノベーションの凄さを過小評価しています。そして、それがすべての金融サービス分野に波及することを十分理解していません」

これまでの投資先

クラーケン・ベンチャーズのこれまでの投資先は、ブロックチェーン分析企業のメサーリ、退職後の資金積み立てプラットフォームを手がけるロケット・ダラー、そしてブロックデーモンです。

メサーリ(Messari)

8月5日、メサーリは、ポイント72ベンチャーズが率いたシリーズAの資金調達ラウンドで2100万ドル(約23億円)を調達したと発表しました。ポイント72ベンチャーズは、著名投資家スティーブ・コーエン氏率いるヘッジファンド運営会社ポイント72アセット・マネジメントのベンチャーキャピタル部門です。メサーリは、調達した資金をプロダクトのグローバル展開や人員拡大に充てる予定です。

メサーリは、暗号資産市場に関するデータ分析やコラム執筆で有名な企業です。また創業者のライアン・セルキス氏は、ブロックチェーン関連投資で有名なデジタル・カレンシー・グループの創業メンバーであり、米国仮想通貨メディア「コインデスク」が手がけるカンファレンス「コンセンサス」を立ち上げた人物です。最近では米国の規制強化方針に反発し、2024年の米議会上院の選挙に出馬して政治家として暗号資産業界の規制方針に対抗する構えをみせるなど、精力的に動いています。

メサーリは、暗号資産の分野に特化した企業です。このため、クラーケンの他、コインベースやFTX、ジェミナイなど、クラーケン・ベンチャーズ同様の暗号資産取引所系CVCの名前が目立ちます。ブランドン・ガスは、出資を決めた理由として「メサーリのチームを長年知っていたこと」に加えて、DeFi(分散型金融)関連のデータ分析ツールやリサーチに「感心した」ことを挙げています。

ロケット・ダラー(Rocket Dollar)

9月9日、ロケット・ダラーは、パーク・ウエスト・アセット・マネジメントが率いる資金調達ラウンドで800万ドル(約8億8000万円)を調達したと発表しました。ロケット・ダラーは、メサーリと異なり金融系の新興企業です。個人退職勘定(IRA)や個人向けの確定拠出年金(ソロ401K)といった年金制度において、暗号資産など、株や債券など伝統的な資産以外のオールターナティブ・インベストメントを支援するサービスを手がけています。

ブランドン・ガスは、ロケット・ダラーについて以下のようにコメントしています。

「伝統的な年金、とりわけ雇用主が設定する年金口座は、投資オプションが限定的で掛金が低いのが一般的です。しかしミレニアル世代やZ世代は、暗号資産や不動産、未上場企業など幅広い資産への投資に高い関心を持っています。さまざま資産クラスに投資してベストなリターンを獲得する機会を提供するロケットダラーは、個人の自由と選ぶ権利に貢献しているという点で魅力的です」

ブロックデーモン(Blockdaemon)

9月22日、ブロックデーモンは、ソフトバンクグループのビジョン・ファンド2が主導したシリーズBの資金調達ラウンドで1億5500万ドル(約170億円)を集め、企業価値が10億ドルを超えるユニコーン企業と評価されました。

ブロックデーモンは先述の通り、仮想通貨のインフラ企業です。次世代イーサリアム(イーサリアム2.0)やビットコイン、ソラナ、テラ、カルダノ、ポルカドット、ライトニング・ネットワークを含む40余りのブロックチェーン(分散型デジタル台帳)ネットワークをサポートしています。

日本のスタートアップも出資対象

クラーケン・ベンチャーズは、北米、アジア、ヨーロッパのスタートアップ企業を投資対象にしており、日本のスタートアップにも大きな期待を寄せています。ブランドン・ガスは「日本から素晴らしい企業がたくさん出てきているのを知っている」とし、「日本企業への出資も積極的に検討する」と述べました。

ブランドン・ガスによると、投資先の選定基準として「プロダクトに関する知識と経験」「技術的な優位性」「そしてスケール可能性が高いビジネスモデル」を挙げています。本質的に重要なのは、結局のところ「3つのP(People、Product、Potential)」であるという見方です。

クラーケン・ベンチャーズによる出資に興味がある企業やプロジェクトは、以下の連絡先からお問い合わせください。

https://www.krakenventures.com/contact-us


画像クレジット: Markus Winkler on Unsplash

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