トヨタ九州宮田工場は、レクサス製造拠点として各工程に熟練工を配し、世界トップレベルの品質を守り続けているという。ただ、出荷前の検査項目である異音検査は、検査員の聴覚で「音」を聞き分ける官能検査であるため、個人の聴力に影響を受けやすい工程となっていた。また将来予想される検査員の高齢化による聴力の衰えや個人差に対応するため、2018年1月からAI化の検討を開始したという。
スカイディスクが開発した音に特化したAI分析ソリューションは、検査走行中の車内の音データを人の聴覚特性に基づいて分類し、抽出された約1万個以上の特徴量から異音を判定するAIモデルを作成するというもの。今回の取り組みでは、スカイディスクとトヨタ九州が、AI分析ソリューションをレクサス製造ラインに合わせてカスタマイズし、AI異音検査システムを共同開発した。
システム概要と導入ステップ
スカイディスクのAI分析ソリューションでは、対象の音に合わせたマイク選定が重要という。そこで今回は、新たに車内異音用に集音マイクを選定し、異音検査における音データをデータベース化した。データに基づいた安定した検査品質の実現のため、熟練検査員の経験や判断をAIに学習させて、検査精度を高めたそうだ。
2018年4月から、実際の工程でAI異音検査システムの検証を開始。実運用に向けて繰り返し精度向上に取り組むとともに、システム構築を含めた最終調整を実施した。検査精度が安定的に確保できたことから、2021年8月に本稼働を開始した。
両社は、このAI異音検査システムの開発・導入により、検査員の聴覚に依存していた検査工程の属人化解消・品質安定化を実現したとしている。また、検査作業者の耳の負担や凹凸のある検査路面を運転する際の身体的負担も低減できたそうだ。高い検査品質が求められる最終検査工程かつ、特に人の身体能力に依存し標準化が困難だった異音検査で導入できた実績を基に、今後は他の検査工程への展開も検討するそうだ。
一般に、官能検査による検査工程は、熟練検査員の経験により不良原因まで推測されるなど、品質管理の向上に寄与してきた歴史があり、検査員が音を聞いて良品・不良品を判断する異音検査もその1つとなっている。しかし異音検査では、人の聴覚で聞き分けるために定量的な判定基準を設けることが難しく、また検査対象の「音データ」が蓄積されていないため、検査員同士での共有・継承が困難だ。
スカイディスクによると、これら課題をAI分析ソリューションで解決するには、まずは適切なデータ収集(集音)から着手する必要があるという。ものづくり現場の様々な制約条件を考慮した上で、AI開発に最適なデータ収集、ハードウェア・設備を含めたワークフロー設計・開発まで取り組むことで、AI実装による課題解決が実現したとしている。
- Original:https://jp.techcrunch.com/2021/11/05/skydisc-toyota-kyushu/
- Source:TechCrunch Japan
- Author:Takashi Higa