米ニューヨーク市を拠点とする暗号資産コンプライアンスSaaSスタートアップのNotabene(ノタベネ)は、F-Prime CapitalとJump Capitalが共同でリードしたシリーズAラウンドで1020万ドル(約11億円)を調達した。今回の資金調達により、Notabeneの評価額は4500万ドル(約51億円)となった。
新たな投資家には、資金調達前にNotabeneの顧客であった暗号資産取引所のLunoとBitsoの他、BlockfiとGemini Frontier Fundのベンチャーキャピタル部門が含まれる。また、シリーズAではIlluminate Financial、CMT Digital、Fenbushi Capital、ComplyAdvantageのCEOであるCharlie Delingpole(チャーリー・デリングポール)氏も新規投資家として、Castle Island VenturesやGreen Visor Capitalなど既存投資家の輪に加わった。Notabeneは、会社設立から半年後の2020年10月に176万ドル(約2億円)のシードラウンドを実施した。
Notabeneのソフトウェアは、その多くが暗号資産取引所である50社以上の顧客が、2019年に課せられた金融活動作業部会(FATF)の「トラベルルール」を遵守するのをサポートしている。トラベルルールは、FATF加盟国の暗号資産取引所に対し、本人確認(KYC)やマネーロンダリング防止(AML)の規制を確実に守るよう、1000ドル(約11万円)以上の送金について顧客を特定する情報を交換することを求めている。FATFは10月にトラベルルールに関する新たなガイダンスを発表し、取引所がルールを遵守するために必要な事項を明確にした。
Notabeneは、ユーザーのプライバシーを保護しつつ、取引当事者間での情報伝達を可能にする技術を求める取引所のニーズに応えている。識別検証プロセスでは、ブロックチェーン上の匿名のウォレットアドレスを実際の顧客とリンクさせる必要がある。NotabeneのCEOであるPelle Brændgaard(ペレ・ブランドガード)氏はTechCrunchに、取引の当事者とNotabeneだけがこの情報を見えるようにすることが重要だと話した。
また、Notabeneが提供する本人確認サービスは、コンプライアンスを確保するだけでなく、適切な相手との取引を確実に行い、詐欺のリスクを回避したいと考えている消費者の間で暗号資産取引の信頼を築くのにも役立つ、と同氏は付け加えた。
Notabeneは今回の資金調達で得た資金を新規顧客の増加に対応するための技術開発に充てる予定だ。
Notabeneの取締役会に加わるJump Capitalのパートナー、Peter Johnson(ピーター・ジョンソン)氏がTechCrunchに語ったところによると、投資家であるJump Capitalが実施した調査に回答した25の暗号資産取引所のうち、90%がトラベルルール遵守のためにNotabeneを利用する予定だ。ジョンソン氏は、Notabeneの製品が暗号資産業界の重要な問題を解決しているという「市場からの圧倒的なフィードバック」が、Jumpの投資の部分的な動機だったと述べた。
Notabeneの最大の競合相手は、コンプライアンスのための一元化されたプロトコルを導入している業界のワーキンググループだ。Fidelity InvestmentsやStandard Charteredなどの銀行がメンバーに名を連ねるTravel Rule Protocol(TRP)ワーキンググループは、その代表的なものの1つだ。このような一元化されたプロトコルにより、メンバーである機関や取引所はデータを共有し、ユーザーはコンプライアンスに則った取引を簡単に行うことができる。
これらのグループのメンバーは米国拠点の取引所に集中していることから、排除を助長する可能性がある、とブランドガード氏は話す。
「例えば、当社はナイジェリアを拠点とする会社をいくつか顧客に抱えていますが、ナイジェリアには暗号資産に関する規制の枠組みがありません。ですので、この分野のゲートキーパーがいて、『完全に規制に則った企業のみを対象とする』と言えば、顧客企業は自動的に排除されてしまいます」とブランドガード氏はTRPのようなグループについて述べた。
同氏によると、Notabeneの創業チームと初期従業員の多くは、分散型アイデンティティのスタートアップ企業UPortの出身だという。UPortでの経験を生かしたNotabeneの分散型フレームワークによって、会員数を制限することなく、取引所全体の信頼性を高めることを期待している、と同氏は述べた。
画像クレジット:Notabene Team
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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Nariko Mizoguchi)