新興国の零細企業は、いくつかの理由でデジタル決済の利用にいまだに苦労している。1つには、そうした企業の多くはその規模ゆえに、世界のさまざまな決済システムから除外されていることがある。また、プロバイダーからハードウェアを調達するには費用がかかることも挙げられる。
英国を拠点とするフィンテックNomodは、追加のハードウェアなしに携帯電話でカード決済を受け付けるプラットフォームを提供することで、これらの零細事業者がカード端末を回避できるようにしている。同社は5000万ドル(約57億円)の評価額で340万ドル(約3億8000万円)のシード資金を調達した。
創業者でCEOのOmar Kassim(オマール・カシム)氏がTechCrunchに語ったところによると、加盟事業者ベースを獲得し、金融オペレーティングシステムを構築するのに、決済は同社のフライホイールとして機能する。
加盟事業者に対して、口座、カード、地域の決済ネットワーク、融資へのアクセスを提供するというのが同社の計画だ。この一連のサービスは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バングラデシュなど、Nomodが大きな加盟事業者基盤の構築を目指している主要市場では不可欠だ。
例えば、サウジアラビアでは、法人100万社超のうち銀行融資を受けられるのはわずか3%だ。アラブ首長国連邦では、ビジネス用の銀行口座を開設するのに半年近くかかる。また、バングラデシュでは、中小企業にとってカードPOSのハードウェアは非常に高価だ。
Nomodを使えば、加盟事業者は携帯電話にNomodをダウンロードして、対面での支払いや顧客からの支払いリンクを処理することができ、決済問題に対処できる。
顧客はVisa、Mastercard、American Express、Union Payなどのさまざまなカードを利用できる他、NFCやQRコードによる非接触型の決済も可能だ。また、加盟事業者は135種類以上の通貨で課金することができる。
「加盟事業者はいま、Nomodをインストールして3、4分でサインアップし、決済リンクを使った対面およびオンラインでの決済の処理を始めることができます」と、カシム氏はTechCrunchに語った。
Nomodは、MENA(中東・北アフリカ地域)およびGCC(湾岸協力会議)地域の加盟事業者の獲得にフォーカスしてきたが、カシム氏によると、このプラットフォームはグローバル展開しており、欧州、米国、オーストラリア、アジアの40カ国以上からサインアップできるようになっている。
同社はナイジェリアと南アフリカの加盟事業者とテストを行っていて、近い将来、両市場でのサービス開始を見込んでいる、とカシム氏は話す。
「カードの受け入れはかなり均質な行為である、というのが当社の考えです。オーストラリア、インド、あるいはどこでやろうが、場所はあまり関係がありません。我々は、多くの市場で並行して行うことができると考えており、現在44カ国の加盟事業者が当社のプラットフォームを利用できるようになっています」。
今のところ、米国、英国、アラブ首長国連邦の加盟事業者はそれぞれの国の通貨(ドル、ポンド、ディルハム)で決済することができる。
しかし、南アフリカのように通貨の変動がある市場では、Nomodは多少のFXコストを適用している。カシム氏によると、このような市場で大幅に受け入れられれば、Nomodは加盟事業者のためにプラットフォームを最適化し、現地通貨での決済を開始するという。
YCの経歴によると、Nomodは自らを「Square(スクエア)からハードウェアを除いたもの」と表現しているが、2010年にStripe(ストライプ)がサービスを開始して以来、決済がどのように進化してきたかを考えると、この名前は示唆に富んでいるとカシム氏は確信している。
同氏によると、950億ドル(約10兆円)規模の企業が新たに立ち上げるとしたら、ハードウェアは必要ない。しかし、同氏の考えは、ほとんどの企業がウォレットやトークンを使ってフィンテック取引を行っているアラブ首長国連邦のような新興市場での決済の仕組みに基づいている。Nomodは、対面での決済を受け付けるStripeのリストにあるパートナーの1社だ。
「一部のプラットフォームでは、オンライン取引の約60~70%がApple Payによるものとなっています。最近では、消費者が積極的にデバイスにトークンを付けて決済していることも明らかになっています」。
Nomodの前に、カシム氏はeコマースのマーケットプレイスプラットフォームJadoPadoを運営し、中東・北アフリカ地域でAmazon(アマゾン)と競合するNoon(ヌーン)に売却した。
その後、いくつかのコンサルティング業務に携わり、フィンテックとネオバンクの波が英国を襲ったことに注目して、2018年にサイドプロジェクトとしてNomodを立ち上げた。それは、Stripeのアカウントを持っている人なら誰でも、対面での支払いができるシンプルなアプリだった。
このアプリを運営することで、カシム氏は将来の決済のあり方について2つの大まかなアイデアを得た。1つ目は、消費者向けのフィンテックでは、プラスチックカードがデジタルトークンやネイティブウォレットに取って代わられること。また、加盟事業者を対象としたフィンテックでは、従来のハードウェアからソフトウェア主導のソリューションへと移行するということだ。
「世界を見渡しても、決済のための有力なモバイルソフトウェアソリューションは現在ありません。だからこそ、支払いの受付のためのWhatsAppやTelegramのようなもの、あるいは決済リンクやサブスクリプションのようなものでの対面ソリューションを構築することにチャンスがあると感じています」。
2021年3月に正式にサービスを開始して以来、Nomodは約4500の加盟事業者を獲得した。同社によると、その総処理額は11.5倍に増え、ランレートは年700万ドル(約8億円)になっている。
Y Combinatorの夏季クラスを卒業したばかりのNomodは、Global Founders Capitalがリードした投資を獲得した。このラウンドにはKingsway Capital、Goodwater CapitalなどのVCや、DST Globalのパートナーを含むシリコンバレーや世界のエンジェル投資家たちが参加した。
画像クレジット:Nomod
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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Nariko Mizoguchi)