建築や建設は、常に技術や素材のトレンドの最先端を静かに進んできた。チューリッヒ工科大学のような著名な工科大学で、AIやロボットを使った新しいアプローチのプロジェクトに取り組んでいても何ら不思議ではない。そこで行われている設計と建設を自動化する実験は、10年後に住宅やオフィスがどのように作られるかを示している。
このプロジェクトで作られているのは、古代都市バビロンの伝説的な建造物にヒントを得た「空中庭園」、つまり巨大なプランターの彫刻物だ(ちなみに、バビロン遺跡の有名な「イシュタル門」を発掘・盗掘したロバート・コールドウェイは私の祖先である)。
2019年に始まった「Semiramis(セミラミス)」(伝説的なバビロンの女王にちなんで名づけられた)は、人間とAIのデザイナーによるコラボレーションだ。もちろん全体的なアイデアは、プロジェクトの生みの親である建築学教授のFabio Gramazio(ファビオ・グラマジオ)氏とMatthias Kohler(マティアス・コーラー)氏のクリエイティブな頭脳から生まれたものだ。しかし、そのデザインは、大きさ、水やりの必要性、建造の様式などの基本的な要件を、コンピューターモデルと機械学習アルゴリズムに入力することで生み出された。
例えば、デザインの過程で、チームはこの20メートルを超える建造物を構成する大きな「ポッド」の位置を微調整したり、表面を構成するパネルのレイアウトを変更したりすることがある。そうすると、彼らが作成したソフトウェアは、その変更に合わせて全体の位置関係や他のパネルの形状を即座に調整し、自重に安全に耐えられることを確認する。
もちろん、建築業界ではすでに多くの自動化されたプロセスが取り入れられているが、このプロジェクトでは、最終的なコントロールをAIに任せるという点でにおいて、これまでの限界を押し広げる試みだ。何といっても重要なのは、全体が崩壊しないように建築的なスペルチェックをAIにやらせるのではなく、人間とAIによる真のコラボレーションを実現するということである。
「コンピューターモデルを使うことで、従来の設計プロセスを逆に辿ることができ、プロジェクトの設計範囲をすべて探求することが可能になります。その結果、今までに見たこともない、しばしば驚くような形状が生まれるのです」と、コーラー氏はチューリッヒ工科大学ニュースの記事で述べている。
最終的な設計に到達すると、建設はもう1つの人間と自動化の混成チームによって行われる。4本のロボットアームが一心不乱に作動して、複数の重い部品(1つのポッドには数十個の部品がある)を固定し、人間がそれらを結合するための樹脂を塗布する。この手法は、数年前に同じチームが使用した、ロボットを自動化されたアシスタントとして使用するやり方よりも一歩進んだものだ。
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セミラミスはこのワークショップで製作された後、最終的にはTech Cluster Zug(テッククラスター・ツーク)に向けて1個ずつ輸送される。2022年の春には完全に組み立てられ、土や種を受け入れる準備ができるはずなので、近くに行かれる際には是非、立ち寄ってみてはいかがだろうか。
画像クレジット:ETH Zurich
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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)