来たる2021年12月10日、2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー(以下、COTY)が決定します。
今年度のノミネート車は、2020年11月1日から2021年10月31日までに発表されたモデルの中で“継続的に生産・販売され、一般ユーザーが特別な手段を用いなくても購入できること”、また、“2021年12月下旬までに一般消費者が日本国内で購入できること”といった条件を満たした乗用車29モデル。そのうち、選考委員の投票で選ばれた上位10台の“10ベストカー”が最終選考へと進みました。
目前に迫った最終選考会を前に、今年度の10ベストカーの実力を、選考委員を務めるモータージャーナリスト・岡崎五朗さんがおさらい。それぞれの魅力や気になる点を3回に分けて解説します(※掲載順は2021-2022 COTYのノミネート番号順)。
■スバル&トヨタから個性的な3モデルが選出
トヨタ「GR86」/スバル「BRZ」
初代の登場から約9年半。フルモデルチェンジしたGR86とBRZは、基本プラットフォームやデザインテイストこそ先代からキャリーオーバーしているものの、まさに「生まれ変わった」という表現がピタリと当てはまるクルマに仕上がっている。基本レイアウトやデザインテイストを変えず、しかし着実に進化・成長してきたポルシェ「911」を思わせるモデルチェンジである。
まず、初代で不満だった内外装の質感が大きく進化。質感だけでなくデザインそのもののクオリティも向上し、スポーツカーを所有する歓びをしっかり提供してくれるのがうれしい。走行性能面ではエンジンの2.4リッター化と、“フルインナーフレーム構造”の採用によるボディ剛性アップが素晴らしい回答を導き出している。切れ味のいい6速ATでもかなりスポーティに走れるが、パワーアップした水平対向4気筒自然吸気エンジンの美味しさを骨の髄まで味わえるのはやはり6速MTだと思う。2リッター→2.4リッター化は低中速域のトルクアップにも貢献しているが、高回転域まで回した時のサウンド作りやトップエンドのパンチ力といった感性面まできっちり作り込まれているため、街中からサーキットに至るまで、あらゆるシーンで気持ちよく走れる。
ハンドリングは基本的に、スポーツカーらしい軽快感を前面に押し出しているが、BRZは正確性を重視した味つけ、一方のGR86はキビキビ感を重視した味つけと、ブランドが目指す方向性ごとにきっちり作り分けてきている辺りは興味深い。
いずれにしても、年々生き残りが難しくなってきているスポーツカー、それも300万円前後で手に入るモデルがこうしてフルモデルチェンジしてきたことは、非常によろこばしきことである。
<Goro’s EYES>
〇 正常進化を果たした貴重な国産スポーツカー
× 2台を乗り比べるにはそれぞれのディーラーに足を運ぶ必要がある
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トヨタ「ミライ」
2014年に誕生した初代に続き登場した燃料電池車。ガソリンの代わりに70メガパスカル=およそ700気圧という超高圧の水素ガスを頑丈なタンクに充填し、その水素を大気中の酸素と反応させて得た電力でモーターを駆動して走行する。
最近、トヨタが耐久レースで走らせている水素エンジンが水素を燃焼させて動力を得ているのに対し、燃料電池は電気化学的反応を利用している。特徴は効率の高さで、同じ水素の量でも水素エンジンより水素燃料電池の方がより長い航続距離を得られる。電力でのみ走るという点ではバッテリーEV(電気自動車)と同じ仕組みだが、水素充填にかかる時間はおよそ5分と、バッテリーEVより圧倒的に短く、また新型ミライは5.6kgの水素で850kmという航続距離をたたき出す。
水素ステーションの数がまだまだ少ないのは弱点だが、航続距離の長さと水素充填時間の短さを考えれば、例えば高速道路上の200〜300kmおきに水素ステーションが置かれる状況になれば、日本中どこへでも行ける状況が出来上がる。燃料電池車はバッテリーEVでは難しい大型トラックへの展開や、バッテリーEVの充電が難しい集合住宅住まいの人への普及が期待されているが、インフラ整備のハードルは多くの人が考えているより高くなさそうだ。課題はクリーンな水素を今後いかに安く大量に作り、流通させられるかにかかっている。
新型ミライの魅力は、燃料電池車という大きな可能性を秘めたパワートレーンを搭載していることに加え、1台のクルマとして圧倒的な完成度を備えていることにある。先代の前輪駆動車ベースから、レクサスのフラッグシップモデルである「LS」と共通の後輪駆動プラットフォームへと変更することで、流れるようなプロポーションと、走る、曲がる、止まるという基本性能の大幅なグレードアップを実現。そこに、エンジン=震動・騒音の発生源がない電動駆動車の持ち味が加わることで、素晴らしく洗練された走りを楽しませてくれる。乗り心地、静粛性、ハンドリングのバランスポイントは、レクサスを含むトヨタ車の中で文句なしのナンバーワン。昨今のガソリン価格上昇を考えると、15km/L程度走るレギュラーガソリン車と同等の走行コストになるのも魅力だ。
<Goro’s EYES>
〇 素晴らしいドライブフィール
× 発展途上の水素ステーション
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トヨタ「ランドクルーザー」
最もタフなクルマとして、世界中の人々から厚い信頼を得ているランドクルーザーのフラッグシップモデル。
環境性能を高めるべく、従来の4.6リッター自然吸気V8エンジンから3.5リッターV6ターボへと排気量をダウンサイジングしたものの、ハイブリッド化は「ランドクルーザーに求められる屈強さと悪路走破性を実現できない」として見送った。電動パワーステアリング全盛の中、信頼性の高い油圧式パワーステアリングを残してきたのも同じ理由からだ。もちろんボディも、強靱なラダーフレーム構造を維持している。ランドクルーザーがなぜ高く評価されているか、また、顧客がランドクルーザーに何を求めているかをしっかりと自覚し、妥協のない商品として作り上げてきたことに、まずは称賛を送りたい。
一方、時代が求める先進デバイスも多数採り入れられている。オンロードでのハンドリングと乗り心地向上に加え、電子制御を駆使した駆動力、ブレーキ、サスペンションの統合制御によって岩場や泥濘地での走破性を大きく引き上げた。車両で隠れる部分をカメラで確認できるマルチテレインモニターも、オフロード走行での要となる正確なライン取りの大きな助けとなる。車線維持をアシストするレーンキーピングアシスト用として、油圧式パワーステアリングとは別に電動アシスト機構を組み込んでいる辺りもコダワリの結果だ。
ランドクルーザーの強みである圧倒的なタフネスさ、悪路走破性を維持しつつ、最新モデルらしい先進性を採り入れてきた新型ランドクルーザー。先代同様、世界最高のオフローダーと呼ぶべき存在だ。
<Goro’s EYES>
〇 ランクルらしい妥協のないクルマ作り
× 日本で乗るには大きなボディサイズ
文/岡崎五朗
岡崎五朗|多くの雑誌やWebサイトで活躍中のモータージャーナリスト。YouTubeチャンネル「未来ネット」で元内閣官房参与の加藤康子氏、自動車経済評論家の池田直渡氏と鼎談した内容を書籍化した『EV推進の罠』(ワニブックス)が発売中。EV推進の問題だけでなく脱炭素、SDGs、ESG投資、雇用、政治などイマドキの話題を掘り下げた注目作だ。
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/417627/
- Source:&GP
- Author:&GP