最近よく、「上司ガチャ」という言葉を耳にしますよね。上司ガチャとは、どんな上司の下に配属されるのかは運次第、という意味で使われています。
職場での人間関係は、離職理由のトップにもなる大きな悩みのひとつ。いくら優秀でも、上司や同僚と反りが合わずに能力を発揮できない人も少なくありません。
その現状を変えるべく今年8月にローンチしたのが、上司が選べる転職サイト「DEFASTA(デファスタ)」。同サービスを運営するRight Brothers株式会社 代表取締役 高野匠氏にお話を伺ってきました。
“どこで働くか”よりも“誰と働くか”を重視する転職プラットフォーム
「DEFASTA」は、求職者が配属予定部署や上司を選び、転職活動をすることができる人材業界初の転職プラットフォームです。“どこで働くか”よりも“誰と働くか”という視点で転職先を選択できるよう、各企業の求人ページには社長や人事担当者による会社紹介動画や、マネジメント層による部署紹介動画などが掲載されており、従来の求人ページでは伝わりづらかった企業情報を事前に確認した上で選考に臨めるのが特徴です。
ーーまずは、「DEFASTA」を立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。
高野:理由はとってもシンプルです。
私は元々、日本M&Aセンターという会社に所属していました。今では社員1,000人くらいの規模になっていますが、入社当時はまだ150人ほどで、約10の部署がありました。私が配属されたのは社内で「花形」と言われた部署で、そこでとても良い経験を5年間もさせていただきました。 中には、私個人の力を超えていると思えるような出来事もありました。
それについて、何がいちばんの理由だったのかを考えてみたところ、入社してあの「花形」といわれていた部署に、たまたま配属されたことだと思ったんです。
海外では、部長クラスの人が部下にしたい人材をヘッドハンティングするのが主流なので、求職者自身も誰の下につくかを選べるし、“誰とどんな風に働くのか”がわかった上で入社することができるのです。
そのため、海外の離職理由で最も多いのは「もっとスキルアップしたい」「新しい知識を身につけたい」「給料を上げたい」というものなのですが、日本はというと「人間関係」がトップ。
私はこれを「配属の時点である程度防げるのではないか」と考えました。そして、上司や配属先が選べるという世界観をつくりたくてDEFASTAを立ち上げたんです。
ーー「DEFASTA」は従来の文面での募集ではなく、動画がメインですよね。エージェントを利用するよりも企業側は手間がかかると思うのですが、従来のやり方ではミスマッチが多かったということでしょうか。
高野:従来の求人広告は、専門のライターが企業を良く見せるためにある意味情報をコントロールしている部分もあるんです。
でも、動画であれば文字や写真だけの情報よりも上司になる人の人間性も見えるし、顔色もわかります。掲載企業の質問事項は統一し編集をしていないので、求職者は信憑性の高い情報を得られます。
企業側だけでなく求職者側も動画をアップロードできるので、採用担当者は履歴書や経歴書などの書類だけで判断するのではなく、求職者の雰囲気や顔つきなどで判断でき、ミスマッチが起きづらくなっています。
転職業界の仕組みを変えれば“幸福な人”が増える
ーー現在の転職業界について教えてください。
例えば、エージェントに支払う手数料は企業によって様々ですが、そのパーセンテージは求職者には明かされません。エージェントにとってはこの手数料が利益になるわけですし、もしかしたら達成しなければならない売上ノルマもあるかもしれないですよね。そうなるとどうしても、手数料が高い企業を求職者に勧める、ということもあるんです。
企業は利益を出さないと経営していけないので、それらを否定するつもりはもちろんありません。けれど、転職で「人生を変えたい」と思っている求職者も少なくないことを思うと……。
私達は、そういった利害関係のある部分を変えていくことで、求職者に本当に適した転職ができるようになり、ひいては幸福な人が増えるんじゃないかと考えています。
ーーなるほど。「幸福な人が増える」というのは具体的にどういう意味でしょうか。
高野:「幸福じゃない人」をどう定義するかはとても難しいのですが、「会社に行きたくない朝を迎える」ということが、私は幸福じゃないと思っています。
幸福じゃないと感じる原因については、人間関係だけでなく色々なものがあると思いますが、離職理由のトップが「人間関係」というデータがあるのも事実です。ではその人間関係を「どこから直せるのか? 」と考えたときに、入社前にどうにかするしかないと思ったんです。
入社してから「配属先は○○部で」と知らされるのと、求職者自らが配属先の上司を知った上で入社するのとでは、後者の方が人間関係に悩む確率が低くなるはずです。だから、私達はできるだけ企業の情報をオープンにしていこうと考えています。
「全社採用」で人事が人材育成に注力できるように
ーーサービスの立ち上げにあたり、どんなところに苦戦しましたか。
高野:そうですね……「採用」においては人事部の仕事を奪ってしまうことになりかねないので、人事担当者を「どのように巻き込むか」については少し苦労しましたね。
人事部の方々は「採用」という業務において肩身の狭い思いをしているように感じています。例えば優秀な人材が欲しいとき、配属先の仕事内容や実際の現場を具体的に理解していないと、面接に来た求職者が適しているかどうか判断できません。だから優秀な人を採用するときは、必ず配属部署の人を巻き込まないといけないんです。けれど、配属先の部署からは「それは人事部の仕事でしょ? 」と言われてしまう。
そこで近年広まっている「全社採用」という言葉を使うことにしました。全社採用とは、人事部だけでなく社員全員が採用に関わる活動のことです。まだまだ言葉だけがひとり歩きしている状態なので、それをDEFASTAは「システムで解決します」と伝えることにしました。
ーーなるほど。「システムで解決する」という部分を詳しく教えていただけますか。
高野:端的に言うと、採用において人事の権限を限りなく減らしました。
例えば既存のスカウト媒体では、人事部がスカウトメールを送ったり面接日程を組んだりします。しかし、DEFASTAでは人事部がスカウトメールを送ることができないようになっています。できるのは採用部署の部長陣だけ。人事部の業務は、面接日程の調整程度に留めています。
本当は人事部からオファーができるようにしたほうがサイト内も活性化するので、私たちとしてもラクなのですが、人事部の方々には「採用」に時間を取られてしまうより、「人材育成」に力を入れていただきたいという思いもあります。
「こんなはずじゃなかった……」を少しでも減らしたい
ーー部署や上司で選ぶ転職サービスが今まで出てこなかったのには、どんな理由があるのでしょうか。
高野:恐らく、多くの人は配属に満足していなかったとしても、それが変えられるとは思っていなかったのかもしれません。
例えば、新卒の就職活動では、会社説明会に参加して、何十社もエントリーして面接を受け、晴れて内定が決まったものの希望とは全然違う部署に配属されてしまったということもよくあります。社会人1年目だと、「そんなもんだろう」と思って我慢してしまいますが、その気持ちが積み重なると「こんなはずじゃなかった……」ということになってしまう。
ーー高野さんも「こんなはずじゃなかった」という経験をされたことはありましたか。
高野:私は前職も前々職も恵まれていたので、会社に入ってから「こんなはずじゃなかった」ということはないです。けれど周りの人の話を聞いていて、私のようなパターンは珍しいのかもしれないと気づき始めました。
周りには優秀な人もたくさんいましたが、スキルがマッチしない部署に配属されたり、上司とうまくいかなかったり、人間関係で能力に蓋をされてしまう人材を多く見てきました。
ーーそうだったんですね。高野さんは仕事を通してどういう人生の使い方をしてもらいたいと考えていますか。
高野:そうですね。まず、「好きなことを見つけようとするのはやめておいたほうがいい」と思います。というのも、「好きなことを仕事にしよう」というのは、仕事が好きになった人が言っていることなので、再現性がないと考えているからです。初めから好きなことがハッキリしていたり才能があったりする人しか、この選択肢はないと思うんですよね。
好きなことがなくても、目の前のことに一生懸命取り組んでいたら、好きになっていたということはありませんか?人間には、物事を深堀りしたり突き詰めたりしていくと、それが好きになっていくという傾向があるように思います。
だからその場所をなるべく間違えないで見つけるために、DEFASTAを活用してもらいたいですね。
仕事は「知らない世界を知る時間」。好奇心を大切に
ーーなるほど。最後に、仕事を通して人生を豊かにしていくためには、どのようなことを大切にしたらいいとお考えですか。
高野:好奇心ですね。仕事を「知らない世界を知る時間」と捉える気持ちが大切だと考えています。
私の場合、DEFASTAというサービスを開発するにあたり、エンジニアを雇用して自分たちのプロダクトをつくることは未知の世界でした。
前職のM&Aの時も同じで、仕事を通して普段なら絶対出会えなかった人と出会える機会にも恵まれました。
成功する人は成功し続けると言われています。これは、成功したところから見える景色を知っているからなんですよね。小さい部署でも、そこで一番になった人にしか見えない景色がある。
過去に訪れた場所に、もう一度行きたくなることってありませんか?
それと同じで、成功した人は成功したところから見える景色をもう一度味わいたいから努力ができるんです。感動がこみ上げたり武者震いしたりする感覚、そして、なんともいえないあの達成感を、もう一度味わいたいと思ってしまったら、努力するしかないんです。
「成功」というと大きなことのように聞こえるかもしれませんが、どんなに小さくても自分の中での成功や達成したいこと、それらに対する好奇心を忘れないでもらいたいです。
私も日々色々な方にお会いして、自分の見ていない景色を見ている人がいると「見たい! 」という衝動にかられます。
前職のM&Aを通して、多くの人に喜んでもらえる仕事を経験してきました。たくさんの人に喜んでもらえるものをつくることは、私の好奇心の中でも大きな部分で、今もそこを目指しています。
(インタビュー・安室和代)
- Original:https://techable.jp/archives/167927
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:amuro