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【コラム】4Kでもナイトモード可能に。OPPOが発表した半導体「MariSilicon X」とは?他社との違い・共通点を解説

真っ暗な場所でも4Kで動画撮影できることを表した写真

世界シェア4位の中国メーカーOPPOは、12月14日、15日に自社技術を披露する「OPPO INNO DAY」を開催。ここで、画像処理用の半導体「MariSilicon X」を発表しました。

MariSilicon Xは、OPPO自身が設計した半導体。製造は、スマホ用のチップセットなどを手掛ける台湾のTSMCが担当しています。このMariSlicon Xは、OPPOの次期フラッグシップモデルに搭載される予定です。

OPPOが披露したNPUのMariSilicon X

OPPOがお披露目した半導体「MariSlicon X」とは

スマホに搭載される半導体は、CPU、GPUなどに加え、画像を処理するISP(Image Signal Processor)やDSP(Digital Signal Processor)などを一体化したSoC(System on Chip)として提供されています。代表例は、幅広いスマホに搭載されているクアルコムのSnapdragonです。

これに対し、OPPOのMariSlicon Xは、AIの処理を行うNPU(Neural Processing Unite)に特化した半導体です。NPUは、写真や動画をリアルタイムで処理するために開発されたもの。上記のように、SnapdragonにもISPやDSPは搭載されていますが、OPPO自身が実現したいカメラ機能を実現するためにはやや力不足。

Snapdragonなどの半導体は幅広いメーカーに販売されているため、これだけだと機能が横並びになってしまいます。自社でMariSilicon Xを開発したのは、他社との差別化を図る狙いもあると言っていいでしょう。

画像処理の性能が非常に高く、省電力性能にも優れる

OPPOによると、MariSilicon Xでさまざまなカメラ機能が実現するといいます。わかりやすいところでは、「4Kナイトビデオ」がその1つです。これまでのスマホでは、静止画でナイトモードを利用できるのが一般的でしたが、動画、しかも4Kで同じことをしようとすると、処理能力が足りませんでした。MariSilicon Xを搭載した端末では、それが可能になります。

真っ暗な場所でも、被写体を浮かび上がらせながら4Kで動画を撮影できる

20ビットのRAWデータで撮影できるようになるのも、このNPUを搭載する恩恵と言えるでしょう。チップの処理能力を生かし、AIによるさまざまな処理を加えることで、単にレンズから入ってきた光をセンサーで捉える以上の画質を実現しています。

この仕組みのことを「コンピュテーショナルフォトグラフィー」と呼びますが、MariSilicon Xはその能力を大幅に高める半導体。カメラ機能にこだわってきたOPPOならではの戦術と言えるかもしれません。

スマホの差別化は半導体レベルに

半導体によって、スマホ自体を差別化する動きはここ最近のトレンドと言えます。代表例はアップル。同社はiPhone用にAシリーズのチップを自社設計しており、その処理能力をカメラ性能の向上や、文字認識、予測変換、翻訳といった機能に生かしています。AIを活用したアプリを導入しやすいのも、自社で半導体の設計からアプリストアまでを手掛けているからこそと言えるでしょう。

逆に、Androidスマホを開発するメーカーはクアルコムやメディアテックの開発した汎用品のSoCを採用するのが一般的でしたが、一部のメーカーは徐々に自社開発の半導体に重きを置き始めています。グーグルがPixel用に開発した「Tensor」が代表例です。Tensorは、AIの処理能力を高めるためにグーグルが自ら設計したSoCで、その性能を生かし、音声入力を端末上で素早く行えるようになりました。

グーグルは、SoCを自社で設計。AI性能を大幅に強化したTensorを、自社の端末に搭載した

好評を博している日本語の文字起こし機能や、リアルタイムで翻訳をかけ、字幕として表示する機能も、すべてTensorを搭載した「Pixel 6」「Pixel 6 Pro」から搭載されています。AIというと、コンピュテーショナルフォトグラフィーへの応用例が先行していましたが、徐々にその他の機能にも広がりを見せています。OPPOのMariSilicon Xは、SoCではなく、SoCと連携するNPUですが、半導体による深い差別化をしている点は、他社との共通点と言えます。

AIをカメラだけでなく、音声入力の性能向上などに活用。端末上だけの処理で音声入力や翻訳を行えるようになった

米国の制裁で新規のスマホ開発が難航し、新モデルの発表ができなくなってしまいましたが、中国メーカーのファーウェイも、半導体を自社で設計していたメーカーの1社。同社の端末に採用されていたKirinも、AIの処理をつかさどるNPUの性能に定評があります。連写撮影した写真を合成し、夜間のノイズを大幅に低減する夜景モードや、写真の背景の写り込みを消す機能など、AIの能力を生かした機能の数々は同社躍進の原動力になっていました。

汎用部品のSoCや基板、ディスプレイといった部品を組み合わせることで開発できるスマホは、かつてに比べると参入障壁が低くなっています。日本でも、高級家電を手掛けるバルミューダが、京セラに製造を委託した「BALMUDA Phone」を発売し、大きな話題を集めました。中国のODM、OEMを活用した楽天モバイルの「Rakuten」シリーズも、そのような端末の一種と言えるでしょう。

一方で、OPPOがMariSilicon X、グーグルがTensorを開発したことからも分かるように、特にハイエンドモデルでは、差別化の軸が半導体レベルでの作り込みに移ってきています。ただ、こうした戦略を取れるのは、研究開発に莫大なコストをかけられるメーカーに限られてくるでしょう。そのため、価格の高いハイエンドモデルの機能については、メーカー同士の差がますます開いていく可能性も高くなりそうです。

(文・石野純也)

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