日産自動車の人気コンパクトカー「ノート オーラ」(以下、オーラ)に追加されたスポーティ仕様「オーラNISMO(ニスモ)」を公道でドライブした。
オーラは「ノート」をベースとするものの、ベーシックなノートに対して内外装をより上質な仕立てとし、ボディをワイド化した人気のプレミアムコンパクトカー。ノートよりも幅が広がっている分、フットワークが向上している。
そんなオーラをベースとしたオーラNISMOは、新しい時代の電動スポーティカー像を提案した意欲作だった。
■新世代NISMOロードカーのトップバッター
ニッサン・モータースポーツ・インターナショナルの略称であるNISMOは、日産自動車のモータースポーツ部門として誕生し、現在に至っている。
伝統と人気を誇る日本のモータースポーツのトップカテゴリー=SuperGTでは、上位のGT500クラス向けマシンの開発と、製造を担当している。2021年シーズンは4台の「GT-R NISMO GT500」が参戦し、年間8戦のうち2勝を挙げた。ちなみに、2008年から14シーズン戦ったGT-Rベースのマシンは2021年シーズンでお役御免となり、2022年からは新型「フェアレディZ」をベースとするマシンにスイッチし、戦いに挑む。
そんなNISMOがモータースポーツ参戦で培った技術をフィードバックしたのが、日産自動車の「NISMOロードカー」であり、その最新モデルが、ここに紹介するオーラNISMOである。
このモデルが注目に値する理由は、単に新しいからではない。“新世代NISMOロードカー”のトップバッターとしての役割を担っているからだ。これまでNISMOロードカーは、「GT-R NISMO」に代表されるように、ガソリン臭の強い、熱さのようなものを前面に打ち出していたが、新世代NISMOロードカーは電動化時代を見据え、スマートさを意識している。
実際、オーラNISMOのルックスは、クリーンで情緒が入り込みすぎておらず、「ムダは削ぐ」というデザインの考え方が貫かれている。この“モータースポーツからインスパイアされたカタチ”にとどまらず、“意味のあるカタチ”に仕上げている辺りは、歴代のNISMOロードカーと共通する特徴であり、オーラNISMOもそうした伝統を受け継いでいることが分かる。
それでいて、新世代NISMOロードカーならではの個性として、オーラNISMOは空力パーツをすべてブラックで統一し、そこに赤のアクセントをプラス。フロントバンパー下部の空力デバイスであるスプリッターも、フロントバンパーコーナー部に付く三角形の翼状パーツであるカナードも、バンパーサイドに備わるダクトも、単に「レーシーに見える」からそうしているのではなく、実際に空力性能を高めるためのカタチになっている。
これは、GT500クラスの空力エンジニアと情報のやりとりを行いながらまとめあげられた賜物であり、「だから本物なんです」と担当デザイナーは胸を張る。
加えて、オーラNISMOはオーラに対し、フロントのオーバーハングを30mm、リアのオーバーハングを50mm伸ばしているが、これもダウンフォースを増やすためだという。しかも、「ドラッグ=空気抵抗を増やさず、ダウンフォースだけを増やす」というタスクをデザイナー自らが課し、それを見事に達成させた。その効果は「80km/h程度から体感できる」というから、オーラNISMOの空力パッケージは正真正銘の“本物”だ。
■攻めていることが分かるこだわりのディテール
リアバンパーの中央にある縦長のリアフォグランプは、日産自動車が2018年から参戦しているレース専用電気自動車によるレースカテゴリー・フォーミュラEのマシンからインスパイアされたものだ。
このリアフォグランプと、ベースのオーラに対して照度を1.4倍に高めた超薄型・超広角配光の5灯LEDフォグランプは、新世代NISMOロードカーの戦略アイテムであり、今後、採用車種を増やしていく計画だという。
また、以前のNISMOロードカーは鮮烈な“赤”が目を引いたが、新世代NISMOロードカーは赤のアクセントを意図的に抑えている。ステアリングホイールのセンターマークや、プッシュパワースターターの“赤”こそ残ったが、視覚的なノイズになりやすい場所からは排除している。
例えば、コンソールは単に赤いパネルをあしらうのではなく、カーボン調パネルの中に赤い糸を織り込んだパターンを採用し、洗練された大人っぽさを演出。一方、大胆に“赤”をあしらっている部分としては、シートベルトが挙げられる。カラータイプのシートベルトは日産車としては初採用。こだわりのディテールを見ても、オーラNISMOは攻めたモデルであることが分かる。
■優れたパーツを上手に使いこなしている
現行のノートシリーズはハイブリッド専用モデルであることから、新世代NISMOロードカーであるオーラNISMOも日産独自のメカニズム“e-POWER”を搭載するハイブリッド専用モデルとなった。
赤いプッシュパワースターターを押してシステムを起動させ、Dレンジに入れてそっと動かした瞬間、思わず頬が緩んでしまった。いかにも引き締まった脚であることを感じさせる動きである。前後ともサスペンションのばね定数を上げているが、独特の乗り味は、オーラのツインチューブタイプから置き換えられた、リアのモノチューブ式ダンパーの効果が大きいようだ。
ダンパーの外形こそ同じでも、ツインチューブ(複筒)からモノチューブ(単筒)にすることでチューブ内部のオイルの受圧面積が大きくなり、路面からの入力に対してレスポンス良く減衰力を発生させる。そのため、路面からの強い入力に対しても余裕をもって衝撃を減衰させ、とがったショックを乗員に伝えてこないのだ。
タイヤは、いわずと知れたスポーツタイヤであるミシュランの「パイロットスポーツ4」を履く。オーラNISMOはそうした優れたパーツを装備しているだけでなく、それを上手に使いこなしているところにも感心させられる。走り味はスポーティだが、不快な硬さは微塵もない。モータースポーツ直系のクルマに乗っていることを終始感じながら、普段使いできる柔軟性を兼ね備えている点がこのモデル最大の魅力だろう。
快適であると同時に刺激的。引き締まった脚と、路面との対話をより濃密に味わえるようになった電動パワーステアリングの感触とがあいまって、意のままにキビキビと動く楽しさを味わえる。
■駿足の電動シティレーサー
フロントに搭載され、前輪を駆動するモーターの最高出力は136馬力とベースのオーラと同じだが、ドライブモードセレクターの操作で「NISMO」モードを選ぶと強い刺激を得られる。
「NISMO」モードはオーラの「SPORT」モードを単に置き換えた設定ではなく、オーラNISMOの起動時に選択されるデフォルトの「ECO」モードが、オーラの「SPORT」モードに相当する。そのためオーラNISMOの「NORMAL」や「NISMO」モードは、オーラの「SPORT」モードを凌駕する加速力を発生させる。
そのためオーラNISMOは、「本当にオーラと同じ最高出力なのか?」と思わず疑いたくなるほど、パワフルに加速する。またドライブモードを問わず、発電に徹するエンジンが勇ましい排気サウンドも奏でるのもいい。ベースとなったオーラのエンジンは、音を極力、乗員の耳に届かせないよう、ノートより低いエンジン回転数を多用する制御にしているが、オーラNISMOは正反対に、エンジンの排気サウンドを聞かせて楽しませる趣向である。
新世代NISMOロードカーの先陣を切って登場したオーラNISMOには、「駿足の電動シティレーサー」なるキャッチフレーズが与えられている。実際に公道でドライブしてみて、これほどぴったりな形容はないと思った。
<SPECIFICATIONS>
☆NISMO
ボディサイズ:L4125×W1735×H1505mm
車重:1270kg
駆動方式:FWD
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:82馬力/6000回転
エンジン最大トルク:10.5kgf-m/4800回転
モーター最高出力:136馬力/3183〜8500回転
モーター最大トルク:30.6kgf-m/0〜3183回転
価格:286万9900円
文/世良耕太
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/422537/
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