Frequency Therapeutics(フリークエンシー・セラピューティクス)は設立から間もないが、浮き沈みを経験している。研究開発イベント期間中の米国時間11月9日、同社は、主力の難聴治療薬の開発状況を補足する多くの発表を行い、いくつかの方向性を示した。
2015年に設立されたフリークエンシー・セラピューティクス(以下、フリークエンシー)は、難聴のための再生医療アプローチに取り組んできた。このアプローチでは前駆細胞の再生を軸としている。前駆細胞は、最終的に蝸牛の中で音を伝導する重要な有毛細胞となる。これらの有毛細胞が不可逆的に消失したり損傷したりすると、最も一般的な難聴である感音性難聴になる。
同社は2021年11月、難聴の治療薬候補であるFX-322に関する発表をいくつか行った。フリークエンシーは、初期の試験で蓄積されたデータを示し、FX-322が臨床的利点をもたらすこと、第Ⅱ相試験の結果が思わしくなかったのは、試験設計に不備があったことを説明した。そして、新しい難聴治療薬と多発性硬化症治療薬のプログラムを発表した。
FX-322試験設計の刷新
感音性難聴のほとんどの症例は、人工内耳または補聴器のいずれかを使用して治療される。突発性難聴を発症した場合は、ステロイド治療を施すことがあるが、感音性難聴の治療や改善を目的として承認された治療薬はない。
FX-322はすばらしいスタートを切った。1件の第Ⅰb相試験では、15人にFX-322を投与し、8人にプラセボを投与したが、有害な副作用は認められなかった。FX-322を投与した4人は、特定の言葉を聞く能力において、臨床的に意義のある改善が見られた。
ちなみに、フリークエンシーは単に音を聞く能力ではなく「言語知覚」に基づいて治療薬の効果を評価している。人工内耳に関する他の治験でもこの指標が使用されており、チーフサイエンティフィックオフィサーのChris Loose(クリス・ルース)氏によると、この方法で聴覚治療薬を評価することの有用性について、同社とFDAの意見は「一致」しているという。
フリークエンシーの最高開発責任者であるCarl LeBel(カール・ルベル)氏によると、治療薬の効果は長期的に持続している。5人の被験者を1~2年追跡調査して得た未発表の耐久性データから、3人の被験者に統計的に有意な改善が今なお続いていることがわかった、とカール・ルベル氏はTechCrunchに語っている。
「このことは、一部の被験者は効果を維持できることを示しています。その効果は1年持続するかもしれません。あるいは2年かもしれません。こうした改善が見られる患者をさらにモニターする必要はありますが、この薬は実際に疾患修飾効果があることを示しています」とルベル氏は述べた。
しかしFX-322に関する良いニュースは長くは続かなかった。第Ⅱa相試験では、プラセボと比べて難聴の改善が見られなかった。
この試験は95人の被験者を対象に実施された。半数にFX-322が4回投与され、残りの半数にプラセボが投与された。両群とも改善は限定的なものであり、同社はその試験でFX-322の「明確な効果はなかった」と報告した。
このニュースが発表された日、フリークエンシーの株価は36ドル(約4100円)から7ドル(約800円)に下落し、それ以来、過去の高値を大きく下回っている。これを受けて、一部の株主は、2021年3月23日以前の収支報告、プレスリリース、SEC提出書類、プレゼンテーションで、経営陣がFX-322について事実を曲げて伝えたとして、集団訴訟を起こした。
この時点で、経営陣は、この試験は公平ではない判断によるの悪影響を受けたと主張している。ルベル氏によると、患者は臨床試験を受けるために、自身の聴力を過小評価した可能性があるからだ(そして試験は、その可能性を考えて適切に調整されなかった)。
TechCrunchの取材に対し、ルベル氏は「患者が試験に参加する際、過去の言語知覚スコアと試験のベースライン訪問時のスコアが一致しなかった」と述べている。
フリークエンシーのコーポレートアフェアーズ上級副社長であるJason Glashow(ジェイソン・グラショウ)氏は、同社はこれを試験の「設計上の問題」だと考えていることを明らかにした。
「この試験は公平ではない判断の影響を受けましたが、それは参加した被験者の責任ではありません」と同氏は続けた。
研究開発イベント時に、フリークエンシーは3つの第Ⅰ相試験で蓄積したデータについて報告し、FX-322が反応パターンを示していたこと、第Ⅱ相試験の結果は異常値だったことを主張した。
このニュースが、進行中の訴訟にどのような影響を与えるのかは不明だ。しかしこの経験が、FX-322の今後の試験の構造を特徴づけたと言える。
フリークエンシーは、FX-322に対する新しい第Ⅱb相試験の開始をすでに発表している。124名の被験者が参加するこの試験では、ベースラインの聴力を測定する前に、被験者の聴力をモニターする1カ月の「リードイン」が設けられた。最初の患者は、2021年10月にFX-322が投与された。
また、どのようなタイプの難聴を対象とするかについても同社は焦点を絞り込む。対象となるのは、騒音性難聴または突発性感音難聴と診断された被験者になるだろう。微妙な違いではあるが、治療の対象となる難聴のタイプのパラメータがわずかに変わってくる(CDCの推定によると、騒音性難聴は年間1000万〜4000万の人々に影響を及ぼしている)。
新しい治療薬候補と多発性硬化症プログラム
フリークエンシーはその地歩を固めるために、初めて、FX-322以外の製品にも取り組もうとしている。同社は、FX-345という新しい製品の試験も計画している。FX-345は、FX-322に含まれる小分子の効能を改良したものだ。ルース氏によると、この効能により、FX-345は蝸牛の深部にまで浸透することができる。
同社は、2022年第2四半期に、新薬治験開始申請(IND)を進める予定だ。
フリークエンシーは、FREQ-162という多発性硬化症の治療薬も開発中である。これは同社が以前から明確に述べていた目標の1つ「再生医療へのより幅広い取り組み」に向けた新たな一歩だ。
TechCrunchが確認した説明によると、同社は、治療薬がオリゴデンドロサイトの発生を促進できることを示す、マウス試験から得た予備データを持っている。多発性硬化症の患者は脂肪鞘が劣化しているが、オリゴデンドロサイトはその脂肪鞘を産生する。
しかし、同社は今後の試験のスケジュールを明らかにしていない。
今のところ、FX-322と新たに設計された試験への重点的な取り組みは変わらない。新たな試験では、未解決の問題の解決策が見つかる可能性がある。
画像クレジット:Science Photo Library – VICTOR HABBICK VISIONS / Getty Images
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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)