7年ぶりにフルモデルチェンジを果たしたスズキ「アルト」。2019年にデビュー40周年を迎えたこのロングセラーは、代々、低価格かつ必要にして十分の装備を持つベーシックな軽自動車として一定の評価を獲得してきた。
今回誕生した9代目は、広いキャビンと抜群の低燃費、そして驚異的なコストパフォーマンスを実現。まさに軽自動車らしさを突き詰めた注目の1台だ。
■値づけを間違えたのでは? とさえ感じる低価格
新型アルトの資料を見ていて、ある部分を思わず二度見してしまった。その部分とは価格である。
ホイールキャップすらつかず、いかにもビジネスユース向け廉価グレードといった印象が強い「A」(94万3800円〜)ならまだ分かるが、その上の「L」グレードまで99万8800円〜と10%の消費税込みでもアンダー100万円を達成。このLグレードにはオートエアコンや非接触式キーといった上級装備こそ備わらないものの、リモコンキーやマニュアルエアコンは標準装備だし、電動格納式ミラーに運転席のシートヒーターまで組み込まれている。もちろんリアのパワーウインドウだって標準装備だ。
下位グレードだから見た目が安っぽいか? といえば、そんなことはない。ホイールキャップやボディ同色のドアハンドルが採用され、チープな雰囲気は皆無。さらに先代までと大きく異なるのは、先進安全装備の充実だ。今や当たり前の衝突被害軽減ブレーキには、前方だけでなくバックする際に障害物へ接触しそうになるとブレーキを掛ける機能が導入されているし、サイドエアバッグやカーテンエアバッグだってもれなく全車に搭載される。装備面でないものといえば、ナビやオーディオくらいである。
そんな仕様が100万円を切るのだから、もはや驚くしかない。物価上昇が世間をざわつかせている2022年に本格発売がスタートするクルマとは思えない“攻め”の姿勢。それがプライスタグを見るだけでもひしひしと伝わってくるのだから、スズキ恐るべしである。
「でも、上級グレードはお高いんでしょ?」と思うのは当然のことだろう。しかし最上級グレードの「ハイブリッドX」でさえ、LEDヘッドライトにアルミホイール、非接触式キー、オートエアコン、それに助手席のシートヒーターまでついて、前輪駆動車で125万9500円〜というお買い得プライス。そこへ、全方位モニター付きディスプレイオーディオやヘッドアップディスプレイなどのセットオプションを加えても137万1700円〜に収まるのだから、なんとハイコスパなのだろう。さすが初代モデルが“47万円”という衝撃価格で世間を驚かせただけのことはある。というかもはや「値づけを間違えたのでは?」とさえ感じる安さだ。
■愛着を感じさせるエクステリアデザイン
そんなアルトは、軽自動車の中でも最もベーシックな軽セダンタイプに属す。昨今、軽自動車といえば背の高いモデルが人気だが、(スポーツカータイプを除けば)セダンタイプのクルマは軽自動車で背が最も低いパッケージングであり、最小限のボディサイズと低価格を実現した軽自動車の原点ともいえる存在だ。
新型アルトのエクステリアは、先代に比べて親しみやすいデザインとなった。先代に漂っていたドライでビジネスライクな雰囲気はなくなり、新型は表情があって愛着を感じさせる。どことなく派生モデルである「アルトラパン」っぽい印象が強くなったため「ラパンと統合されるのか?」と開発陣に確認したところ、「そうではありません」との回答が。さらに「ラパンもちゃんと“次”を用意しています」とのことだから、ラパン好きもひと安心だろう。
エクステリアを担当したデザイナーによると「先代は『親しみを感じにくい』という声が少なくなかったので、新型はそこを重視しました」とのこと。丸みを持たせたヘッドライトとテールランプ、楕円のモチーフを採用した前後バンパーや左右ドアパネル下部は、親しみやすさを強めるためのものだ。それらにより、どことなく欧州の小型車っぽい雰囲気を感じさせる。
さらにエクステリアで興味深いのは、キャビンが箱っぽくなったこと。フロントピラーがより立ち気味のデザインとなり、全高を50mm高くしたのがその要因だ。これらもラパンっぽく見える要因のひとつだが、フロントピラーを立てたのは視界確保と開放感を高めるため、天井を高くしたのは乗降性を良くするためと、新型で全グレードに標準採用となったカーテンエアバッグ展開時のスペースを確保するためである。併せて居住性も向上しているが、それは狙いではなく、あくまで他の要因を求めた結果だと開発陣はいう。
インテリアに目を向けると、ダッシュボードはシンプルで平面的だった先代とは対照的に、立体感と丸みを感じられる仕上がりとなり、エクステリアと同様に温かみを実感する。
その上でシートは、中央の生地に濃い青のデニム調、側面や背面は一転してブラウン仕上げとするなど、遊び心とセンスの良さを感じさせる。こうしたコーディネートは、Tシャツとジーンズをシンプルに着こなしているかのようであり、高級感はないけれどシンプルさを突き詰めたおしゃれさがある。
ちなみにデニム調のシート生地は、本物の織物っぽく見えるプリントが施されるなど凝った作りとなるが、これは本物のジーンズを研究した結果、編み出された手法だという。
そんな中「アルトらしいな」と思ったのは、ドライビング環境へのこだわりだ。イマドキ珍しい、電動式でも足踏み式でもないサイドレバー式のパーキングブレーキは、その操作に慣れ親しんでいるユーザーへの配慮から。また、新型は天井が高くなっているものの、低い着座位置を軸とする違和感のないドライビングポジションは従来モデルと同様で、これらもワゴン系とは一線を画す軽セダンならではの特徴といえる。
一方リアシートに座ると、多くの人が驚くのではないだろうか? 前後席間の距離は先代と同じだが、後席乗員の足下スペースはそうとは思えないほど広々としている。大人が足を組めるほどゆったりしていて、「(さらに広い)軽ワゴンなんていらないのでは?」とさえ感じるほど。かつて軽セダンのリアシートは狭かったが、イマドキのアルトはそうではないのだ。
ただし、リアシート重視のパッケージングゆえ、ラゲッジスペースはミニマム。積めるのは機内持ち込みサイズのスーツケース2個ほどだ。リアシートの背もたれを倒すこともできるが、左右独立可倒式ではないため畳むと乗れるのはふたりまでとなってしまう。
こうした点はシンプルさに徹した軽セダンゆえの割り切りだ。
■リッター当たり25kmも走る抜群の実燃費
メカニズムに目を向けると、新型アルトの車体構造は、先代の改良版となるプラットフォームに新設計のアッパーボディを組み合わせたもの。アッパーボディは、リアゲート開口部などに骨格を一周つないで剛性を高める環状構造を組み込んで強化している。
エンジンは、先代に設定のあったターボ仕様がなくなり、最新の“R06D”型エンジンを使ったマイルドハイブリッド仕様と、先代から継承した“R06A”型エンジンにエネルギー回生システムを組み合わせたベーシックタイプの2種類を用意。前者に関しては、カタログ記載のWLTCモードで27.7km/Lという軽自動車トップの燃費を記録している。
気になる走り味はどうか? その評価はどんな場所で走るかによって変わってくるだろう。
軽い車体のおかげもあって、街中での走りは想像以上に軽快。交通の流れが速いバイパスでも、信号が青になってからの発進加速で無理なく前走車についていけるだけの実力を持つ。またクルージング時は、意外なほど静かなエンジン音のおかげで、逆にタイヤから生じるロードノイズの方が気になるほどだ。一方、脇道からバイパスに入って急加速を求められるシーンや高速道路の本線への合流、60km/hを超えてからの中間加速などでは力不足が否めない(これはアルトだけでなく、自然吸気エンジンを搭載する軽自動車はすべて同じ)。
そういった印象から、ターボエンジンの設定がない新型アルトは、街乗り中心の人には大いにおすすめできる1台だ。乗っていて大きな不満を覚えることはないだろうし、メインターゲットもそういった領域に置かれている。おまけに、普通に運転していてもリッター当たり25kmも走る実燃費を体験すると、素直にスゴいと思えてしまう。
ハイコスパで燃費が良く、気軽な足にちょうどいい新型アルト。昨今、二酸化炭素の排出量削減が声高に叫ばれ、「その問題を解決できるのは電気自動車だけ!」なんて誤った意見もあるけれど、製造や廃棄時の環境負荷が小さい上に燃費も良好な新型アルトのようなクルマも、この先、絶対に欠かせない立派なエコカーといえる。
<SPECIFICATIONS>
☆ハイブリッドX(2WD)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1525mm
車重:710kg
駆動方式:FWD
エンジン:657cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49馬力/6500回転
エンジン最大トルク:5.9kgf-m/5000回転
モーター最高出力:2.6馬力/1500回転
モーター最大トルク:4.1kgf-m/100回転
価格:125万9500円
>>スズキ「アルト」
文/工藤貴宏
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- Original:https://www.goodspress.jp/reports/423785/
- Source:&GP
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