PC上の仮想オフィスにアバターで入室し、離れた場所にいても一緒に仕事のできる「RISA」。
これまでは3Dアバターでコミュニケーションできるツールを提供してきましたが、今回2D版として全面リニューアルしました。
あえて2D化を実施した理由や、その背景にあるテレワークの課題、新時代の働き方などについて、同サービスを提供する株式会社OPSIONの代表取締役、深野崇さんに聞きました。
誰もが使えるツールをめざして2D版をリリース
——新しくリリースされた2D版より、従来の3D版のほうがアバターのリアルさなどを感じられるように思います。今回あえて2D版を作った理由をお聞かせください。
深野:ビジネスで使うツールなので、やはり実際に仕事をする環境できちんと使えることが大前提となります。3D版でも負荷を下げるための工夫は行ってきましたし、大半のパソコンでは問題が出ないレベルまで軽くすることはできたのですが、利用される方のなかには古いPCを使っている方もいらっしゃるんですよね。
コミュニケーションツールなので、チームに1人でも使えない人がいると意味がなくなってしまう。それを考えたときに、より負荷が少なく、どんな環境からでもアクセスしやすい2Dの方が実用性が高いと判断しました。
——3D版と比べて、機能面で変わった点はあるのでしょうか?
深野:基本的な機能はほとんど変わりませんが、2D版の新機能としてビデオ通話が加わりました。カメラをオンにするとアバターの顔部分に自分の映像が表示され、リアルな顔を見ながら話ができます。
また、アバターのアニメーションに連動して音が鳴るようになったことも新しい変化です。たとえば、「拍手」を選ぶと拍手と歓声の音が流れて、「笑い」を選ぶと笑い声が流れるといった感じです。
——効果音が鳴るのはおもしろいですね。この機能が追加された理由は?
深野:皆さんも経験があると思いますが、Web会議では相槌を打ったりリアクションをしたりすると声が被ってしまって、お互いに「あ、どうぞどうぞ」みたいになりがちです。リアルの場での会話と違い、反応してしまうと逆に相手がスムーズに話しづらくなってしまう。だからといって無反応も寂しいですよね。
アバターの動きと効果音の組みあわせであれば、話を妨げることなく気軽に反応できます。結果として話が盛り上がりやすくなったり、会議をスムーズに進めやすくなったりするのではと考えています。
三人称視点なのでオフィスを俯瞰できる
——2Dになったことで、画面の見え方もずいぶん変わりました。
深野:最大の違いは「視点」だと思います。3Dの場合、アバターから見た一人称視点になるので視野が限られてしまい、オフィス全体の様子を確認するにはアバターをくるくる動かして周囲を見渡さなければいけません。
一方で2Dは、天井から見るような三人称視点なので、誰がオフィスにいるのか、何をしているのかといったことがひと目でわかります。
——視点の違いは言われてみると確かにそうですね。操作も2Dのほうがシンプルです。
深野:3D版では、慣れるまでアバターの操作が難しいという方もいらっしゃいました。2D版はクリックやドラッグ、矢印キーなどで直感的に操作できるので、ゲームなどになじみの薄い方、年齢層の高い方にも楽に操作していただけると思います。
お茶目なアバターで話しかけるハードルが下がる
——改めて、仮想オフィスを使うことにはどんなメリットがあるのでしょうか?
深野:テレワークの大きな課題のひとつが、「ちょっとした相談や雑談がしづらい」という点です。
RISAの画面を見ていただくと緑色の枠が表示されているのがわかると思いますが、これは声をかけることが可能なエリアを表しています。
同じ枠にいる人同士はマイクを使ってすぐに会話ができるので、5分で済むような相談や、たわいもない雑談など、わざわざ時間を確保してWeb会議のリンクを発行するほどではない会話をするハードルが低くなります。
また、枠に「入室制限」をかけることで他の人が入れなくできる機能も用意されているので、機密性の高い話をしたり、1on1の面談をしたりといった場合にも安心して話せます。
——RISAはキャラクター風のアバターを使うことが特徴ですが、アバターだからこその強みはありますか?
深野:コミュニケーションの心理的ハードルが下がる利点があると思います。実際に利用されている企業さんの話ですが、その会社には非常にコワモテの上司がいて、リアルでは皆その人に声をかけるのを恐れていたそうなんです。
でも、RISAに入るとその上司がかわいいアバターを使って、手を振ったり拍手をしたりと積極的にリアクションしまくっている。「この人、意外とこういう一面もあるんだ」と周囲の認識が変わり、見た目がアバターということもあって、話をしやすくなったそうです。
今後は2Dと3Dのハイブリッドに進化する可能性も
——3D版にも3Dならではのよさがあったと思いますが、今後、3D表示のツールと2D表示のツールはどのように使い分けられていくことになるのでしょうか?
深野:2Dも3Dも、それぞれ長所と短所があります。
3D版のRISAは、お客さまから「人がそこにいる感覚が高くて孤独感を解消できる」という評価をいただいていました。そういった部分は、3Dのほうが優れていると思います。
一方で、先ほどお話したようなPCのスペックの問題や、全体を俯瞰して見られない、操作の難易度が高くなるといった部分はデメリットとなります。
なので、今後は両者のハイブリッドになっていくのではないでしょうか。たとえば、1人で作業しているときは2Dで全体の様子がぱっと見られるほうが便利ですし、ミーティングなどで他の人と話すときには、3Dのほうが相手の存在をリアルに感じられると思います。
利用シーンに応じて2Dと3Dを使い分けるような形に進化することで、それぞれのよさを生かした使い方をしていく形に進化するのではと考えています。
仕事をゲームのように楽しめるようにしたい
——RISA以外にも仮想オフィスのサービスはいろいろ出ていますが、RISAならではの特徴はどのようなところでしょうか?
深野:私たちは、“仕事をゲームのように楽しめるようにしたい”という思いを込めて、「WORK AS PLAY」というコンセプトを掲げています。
ただ仕事を効率よく進めるだけでなく、楽しく使えるようにしたいという思いがあるからこそ、アイコンではなくアバターを使ったり、動きや音でリアクションできるようにしたりと、エンターテイメント性を持たせることにこだわっています。
仕事は人生の大半を費やすものですが、楽しいというイメージを抱いている人は少ないと思います。でも私は、仕事とゲームは「共通の目的に向かって、複数の人たちと協力してプレイしていく」という点では本質的に同じだと思っているんです。
ゲームの場合は自分のレベルがわかったり、敵を倒したらすぐにアイテムがもらえたりと成果が可視化できるのに対して、仕事はそういった部分が見えづらくなっています。
今の自分にどれくらいのスキルがあるのか、このタスクをこなすと何がレベルアップするのか、そもそもこのチームの目標は何か・・・・・・。そういったことがデザインされてないために不完全で楽しめない状況が生まれています。そこを変えていけるような、楽しみながら仕事のできるシステムを作りたいと思っています。
「仮想オフィスが当たり前」の時代が来る
——今後、RISAに追加していきたい機能はありますか?
深野:音声の会話が可能なエリアや、家具の配置、床の色などをカスタマイズしたいという要望はとても多いので、まずはそこを改善したいと思っています。
あと、現状ではPCからしかアクセスできないのですが、学校現場などから「PCを持っていない人でも参加できるようにスマホ対応してほしい」という要望がとても多いので、スマホ対応も進めていく予定です。
——すごく広い話になってしまいますが、この先、ビジネスシーンにおいて仮想空間はどのような位置づけになっていくと思われますか?
深野:働き方に関していうと、かつてのように毎日オフィスに出社するスタイルに戻ることはないと考えています。必要に応じて一部出勤することはあるかもしれませんが、テレワークは一定のレベルで残ると予測しています。
そのような働き方が定着したときに、どうしてもコミュニケーションが不足する部分が生まれてしまいます。それを補うのが仮想オフィスの役割です。
今後は、仮想オフィスを持つことが特別なものではなくなり、チャットやWeb会議ツールのように、「どこの会社でも持っている当たり前のコミュニケーションツール」になっていくのではと思っています。
(文・酒井麻里子)
- Original:https://techable.jp/archives/174005
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:amano