楽天モバイルの人口カバー率が、2月に96%に到達しました。
同社が携帯電話市場に参入する際に総務省に提出していた「開設計画」では、26年3月までに人口カバー率を96%まで上げることがうたわれていました。基地局の建設を急いだ結果、約4年の前倒しが実現したというわけです。
まだ先行する大手3社並みとまではいきませんが、本格参入直後の20年4月に比べると、大幅につながりやすくなっていることも事実です。
ローミング利用量が経営の重しに
楽天モバイルがエリアの拡大を急いだ背景には、ローミング利用量が経営の重しになっていたことが挙げられます。
開始当初は全国をくまなくカバーするのが難しいため、同社はKDDIとローミング契約を締結。現時点でも、地下街や屋内に加え、エリアの切り替えが終わっていない一部の地方では、KDDIのローミングに接続することがあります。
ローミング費が1GBあたり500円に近い金額で、使われ方によっては赤字になってしまうからです。現行の料金プラン「UN-LIMIT VI」では、KDDIローミングを5GBまで利用できますが、ユーザーが5GB使った場合の金額は2178円。これに対し、楽天モバイルからKDDIへの支払いは2500円弱になり、足が出てしまいます。
楽天モバイルユーザー増加で、赤字幅が拡大
元々楽天モバイルは、ローミング時のデータ通信を2GBまでとしていましたが、競争力を高めるため、サービス開始直前にこれを5GBに拡大。2GBであれば、ユーザー1人あたり1000円弱のコストで収まっていましたが、データ容量を拡大したことでその計算が成り立たくなってしまいました。
実際、サービス開始以降、楽天モバイルは赤字を四半期ごとに拡大していくことになります。
赤字額は21年度第3四半期(7-9月期)に1000億円を突破。第4四半期(10-12月期)には、約1186億円に赤字幅が拡大しています。これは楽天モバイル単体の数値ですが、この赤字をカバーしきれず、ECやクレジットカードなど、その他事業が堅調だったにも関わらず、楽天グループ全体でも営業損失を計上しています。
自社エリア拡大でローミング費用圧縮へ
もちろん、営業損失のすべてがローミングというわけではなく、エリア拡大を急いだための設備投資費用も含まれています。
ローミング費用を支払われる側のKDDIも、傘下のMVNOやローミングから得られる収入が大きく伸びており、その理由が楽天モバイルだったことがうかがえます。ローミング費用を圧縮するのは、楽天モバイルにとって急務だったというわけです。
一方のユーザーから見ると、楽天モバイルのエリアが狭い地域では、3278円でデータ通信使い放題になるという楽天モバイルのメリットを体感しづらくなります。
行動範囲のすべてがKDDIローミングだと仮定すると、5GBプランに2178円支払う計算になり、それなりにデータ通信を使うのであれば、他社の方が割安だからです。
ユーザー獲得の観点からも、自社エリアを拡大する必要があったと言えるでしょう。
第二四半期以降、短期間で黒字化を目指す
人口カバー率96%を超えたことで、ローミングエリアをさらに縮小できる目途が立ったと言えます。元々の計画では、KDDIローミングは26年3月の人口カバー率96%達成までの間に提供する契約になっていたからです。
2月に取材した、楽天モバイル副社長のの矢澤俊介氏も、前倒しでのローミング終了に関しては「十分あると思っている」と語っています。
現状では、KDDIローミングをメインにしている地域は8県残されていますが、次回見直しが行われる4月ごろに、これらの場所も楽天モバイルの自社回線に切り替えられる可能性が高まってきたと言えるでしょう。
実際、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長によると、22年の第2四半期(4-6月)以降、「業績の回復を見込んでいる」といい、その後は「歴史的に類を見ない短期間での黒字化を目指す」としています。
1年間の無料キャンペーンに続き、3カ月の無料キャンペーンも終了させ、売上高が徐々に上がってきていることも、楽天モバイルにとって明るい兆しの1つです。収入を増やしつつ、コストを大幅に抑えることで黒字化するというのが楽天モバイルの戦略。自社エリア拡大の前倒しに成功したことで、その目標に向け弾みがついた格好です。
人口カバー率96%=日本全土の96%ではない
ただし、人口カバー率96%と言っても、あくまで500メートル四方に区切ったメッシュの50%以上をカバーしている場所の割合を示した数値でしかなく、日本全土の96%でつながるわけではありません。エリアの穴は依然として残っている点には注意が必要です。
また、大手3キャリアは4Gで100%に近いカバー率を達成しており、同じ指標上で比較した際にもまだ差は残っています。
楽天モバイルは、現状、4Gの周波数帯が1.7GHz帯しかなく、いわゆるプラチナバンドは割り当てられていないため、この点でも不利になります。同社では、プラチナバンドの割り当てを要望していますが、現状では低い周波数帯に空きがなく、獲得できるかは不透明です。他社が3Gを終了させた際に再割り当てをする案も出ていますが、各社とも抵抗感を示しています。
いずれにせよ、“つながりやすさ”は、屋外だけでなく、屋内や地下など、ユーザーの導線がきちんとカバーされて初めて実感できること。エリアの拡大は今後も続けていく必要があります。
そのうえで、“つながりにくい”イメージを払拭していく努力も必要になりそうです。また、ユーザーが増えていくにつれ、通信のキャパシティも必要になります。とくに同社は他社と比べ、5Gのエリアがまだまだ狭いため、その拡大が急務と言えそうです。
(文・石野純也)
- Original:https://techable.jp/archives/174147
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:amano