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「ディオ」「ジョグ」「セピア」一世を風靡した原チャリは今どうなった?

バイクブームが盛り上がっていた1980〜90年代、16歳になるととりあえず原付免許を取得し、中古のスクーターを購入するというのがお決まりのパターンでした。かくいう筆者もご多分に漏れず、16歳になると同時に原付免許を取りに行き、当時いっぱい出ていた中古バイク雑誌を眺めながら「何に乗ろうか?」と思いを巡らしていました。

当時、定番だったのはホンダの「ディオ」やヤマハの「ジョグ」、それにスズキの「セピア」など。なかでも「ディオZX」「ジョグ SPORTS」「セピアZZ」など“走り”を強化したモデルが人気でした。そうした当時のスクーター事情を振り返りつつ、往年の人気モデルが現在どうなっているのかを紹介します。

 

■ホンダの「ディオ」は原付二種に

当時の若者に人気だったホンダのスクーターといえば「ディオ」。初代モデルが発売されたのは1988年のことですが、当時の年間販売計画台数が20万台(!)ですから、その人気のほどが感じられると思います。

▲1988年式ホンダ「ディオ」

人気の理由のひとつは、ヘルメットを収納できるメットイン機構を備えながら、走りに定評のあった「DJ-1RR」と同系の6.4PSを発揮するエンジンを搭載していたこと。日常の利便性を確保しつつ、当時としては必須だった“走り”の性能も両立していたのです。

モデルチェンジのサイクルが早かったのも当時らしいところで、翌1989年の年末には6.8PSにパワーアップ。そして1990年にはフロントにディスクブレーキを装備した「ディオSR」が登場します。そして、このモデルの人気を決定付けたのが1992年に登場した「ディオZX」でしょう。

▲1992年式ホンダ「ディオZX」

「SR」をベースにハイマウントストップランプを内蔵したリアスポイラーを装着。パワーユニットもシリンダーやキャブレター、マフラーを変更し、7.0PSへとパワーアップしたことで、当時の“原チャリ小僧”の憧れの的となりました。

1994年にはエンジンの形式をそれまでの縦型から横型に変更。メットインスペースを拡大しながら、スタンダードモデルが7.0PS、「ZX」は7.2PSにパワーアップも果たします。ちなみに、この年までにシリーズ累計の販売台数は150万台に達しています。

▲1994年式ホンダ「ディオBAJA」

そして、多くの人の記憶に残っているであろうモデルが、「ディオBAJA」というバリエーションモデル。メキシコ半島の砂漠を疾走するオフロードレース「BAJA1000」に参戦しているマシンを思わせる2眼のヘッドライトが印象的でした。

▲2001年式ホンダ「ディオ」

「ディオ」シリーズも、排出ガス規制に対応するため、2001年にエンジンが4スト化されます。最高出力は5.0PSになり、小排気量マシンに2ストエンジンはありがたい存在だったことを痛感させられました。

「ZX」は4スト化に合わせて「Z4」に改名され、最高出力もスタンダードモデルと同様になります。4スト化された「ディオ」はモデルチェンジを挟んで2010年代まで生産が続き、2016年に生産終了がアナウンスされました。

50ccの「ディオ」は終了しましたが、現行モデルにもその名を冠したマシンがラインナップされています。それが「ディオ110」。

▲2021年式ホンダ「ディオ110」

2011年に登場したグローバル展開モデルで、デザインも国内向けスクーターとはイメージが変わっていますが、原付二種となったことで8.7PSを発揮し、走りはなかなか。価格も24万5300円とお買い得感のあるものになっています。

 

■まさかのホンダ製となっているヤマハ「ジョグ」

▲1983年式ヤマハ「ジョグ」

ヤマハのスポーツスクーターの代名詞的な存在となっていたのが「ジョグ」。初代モデルの登場は1983年と早く、その後に登場する多くの国産スクーターに大きな影響を与えたともいわれています。最高出力は当時としてはハイパワーな4.5PS。車重はわずか49kgでキビキビした走りで市場に衝撃を与えました。

1987年には2代目に進化。エンジンも6PSにパワーアップ。翌年には“ジョグスポ”なんて呼ばれたスポーツエディションも追加されます。

▲1988年式ヤマハ「ジョグ」

“走り”の性能はアップしますが、このころからやや人気に陰りが。その理由は1986年から原付でもヘルメットの装着が義務化されたこと。縦型エンジンを積んだ「ジョグ」はメットイン機構を備えていなかったのです。ただ、この縦型エンジンはパワーアップが容易で、当時盛んだったスクーターレースでは人気を維持していました。

1989年にはエンジンが横型となり、待望のメットイン機構を備えたモデルが登場。

▲1989年式ヤマハ「ジョグ」。まだこの頃もミラーは右だけ

エンジン出力は6.8PSとなり、”走り”の性能も向上しました。今見てもスタイリッシュでシャープなデザインもあり、一気に人気を取り戻します。

そして「ジョグ」シリーズの中で、ひとつのピークだったといえるのが1994年に登場した「ジョグZR」。最高出力は原付一種クラスの上限である7.2PSを発揮していました。

▲1994年式ヤマハ「ジョグZR」

フロントディスクブレーキに、リアスポイラーと当時の“小僧”の心を掴むアイテムをフル装備。「ジョグ」といえば、このモデルを思い出す人も多いのではないでしょうか。

そんな「ジョグ」も2007年に排出ガス規制に対応するため、4スト化。最高出力は4.2PS(のちに4.5PS)にダウンします。マイナーチェンジを挟みながら2017年まで生産されますが、原付スクーター人気の低迷もあって、ヤマハはついに自社での生産を断念しました。

そして生まれたのが、2018年に登場した現行の「ジョグ」です。

▲2018年式ヤマハ「ジョグ」

このモデル、実はホンダ製のOEMで、外観こそ変えられていますが、中身はほぼホンダの「タクト」。2016年にホンダとヤマハが原付一種の一部車種について業務提携したことから実現したことですが、こんな時代が来るとは1980年代には想像もできませんでした。

 

■独立車種「ZZ」に進化したスズキ「セピアZZ」

スズキのスクーターで、当時の“小僧”たちに圧倒的人気を誇ったのが「セピアZZ」。「ZZ」と書いて「ジーツー」とすんなり読めるのは、その頃を知る人たちでしょう。発売は1990年で、それ以前に“走り”系のスクーターとして人気があった「Hi-UP(ハイアップ)」の後継車種として登場しました。

▲1990年式スズキ「セピアZZ」

ベースは「セピア」ですが、そちらは覚えてていなくても、「セピアZZ」の尖ったスタイルは記憶に残っている人が多いはず。エンジンの最高出力は7.0PSで後に自主規制上限の7.2PSまでパワーアップ。メットイン機構を備えながら、リアスポイラー(のちにハイマウントストップランプも装備)やフロントのディスクブレーキを備え、当時の憧れ装備が“全部入り”の状態でした。

このモデルの人気が高かったため、2000年には「ZZ」という独立車種に進化します。7.2PSを発揮するエンジンは受け継がれ、ハイマウントストップランプを内蔵したリアスポイラーももちろん装備。エアインテークを備えたフロントカウルの先端にもスポイラーを装備していました。正立式のフロントフォークにはゴールドのアルマイトも施され、6本スポークのキャストホイールを採用するなど、今見ても凝った作りとなっています。実際に完成度も高く、人気もありましたが、排出ガス規制の強化によって2007年に生産が終了に。残念ながら後継モデルもリリースされず、「ZZ」の血統は途絶えてしまいました。

*  *  *

ちなみに筆者は、人づてにミッション付きの50ccを安く譲ってもらい(こちらも懐かしい「NSR50」でした)、今回紹介したスクーターを所有することはなかったのですが、当時毎日のように雑誌で眺めていたスタイルは今でも鮮明に思い出すことができます。今でも購入できるのならば、足代わりに欲しいと思うくらい。

原付一種の販売台数が、全盛期の10分の1以下にまで減ってしまった現在では難しい話でしょうが、電動でもいいので、当時のように各メーカーが競ってこういう元気のいいモデルをリリースする時代が来れば…と夢想してしまいます。

 

<文/増谷茂樹

増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。

 

 

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