地球低軌道が少々混雑してきた。小規模な人工衛星の急増や、SpaceX(スペースX)の「Starlink(スターリンク)」のような大規模な衛星コンステレーション、そして増え続ける宇宙ごみの間を抜けて、軌道上に衛星を打ち上げ・運用することは、まるでゲームの「フロッガー」をプレイしているように感じられるかもしれない。国際宇宙ステーションでさえ、定期的に「回避行動」をとらなければならないのだ。
宇宙にはまだ、たくさんのスペースがある。しかし、10億ドル(約1170億円)もする人工衛星を運用するのであれば、衝突しないように全力を尽くしたいと思うだろう。
そこで、Slingshot Aerospace(スリングショット・エアロスペース)の出番となるわけだ。同社は複数のソースからのデータを統合し、デジタルで構成した宇宙の全体的状況をリアルタイムで提供することで、宇宙事業者がその資産をより良く管理・保護できるようにする。2017年にMelanie Stricklan(メラニー・ストリックラン)氏、David Godwin(デイヴィッド・ゴドウィン)氏、Thomas Ashman(トーマス・アッシュマン)氏によって設立され、現在はテキサス州オースティンとカリフォルニア州エルセグンドを拠点とするこの会社は、2部構成のシリーズA投資ラウンドで3460万ドル(約40億6000万円)を調達。2020年10月に調達した約800万ドル(約9億4000万円)に続き、第2回目となる2500万ドル(約29億3000万円)相当の資金調達を、米国時間3月10日に発表した。
「宇宙には無限のチャンスがあります。しかし、我々は宇宙飛行の運用と軌道上の資産管理を最適化するために、デジタル革命を起こさなければなりません」と、ストリックラン氏は同社のプレスリリースで述べている。「宇宙を利用するすべての組織に、よりアクセスしやすく、タイムリーで、正確なリスク軽減を提供するためには、リアルタイムの調整が必要です」。
今回の2回目のラウンドは、Draper Associates(ドラッパー・アソシエイツ)とATX Venture Partners(ATXベンチャー・パートナーズ)が主導し、Edison Partners(エジソン・パートナーズ)、Embedded Ventures(エンベデッド・ベンチャーズ)、Valor Equity Partners(ヴァロー・エクイティ・パートナーズ)、Lockheed Martin Ventures(ロッキード・マーティン・ベンチャーズ)などが追加出資した。Slingshot Aerospaceの顧客には、NASA、Boeing(ボーイング)、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)、U.S. Space Force(米国宇宙軍)、U.S. Air Force(米国空軍)、OneWeb(ワンウェブ)などが含まれる。
「宇宙状況認識という分野は今、破壊的革新を起こすための機が熟しています。現在のところ、衛星オペレーターが実用的な情報をもとにリアルタイムで通信・協力し、軌道上のコンジャンクションを解決したり、グローバルな宇宙認識を最適化するための共通プラットフォームは存在していません」と、とEdison PartnersのDaniel Herscovici(ダニエル・ハースコビッチ)氏は述べている。
LeoLabs(レオラブズ)やKayhan Space(カイハン・スペース)など、他の宇宙関連のスタートアップ企業は、この評価に同意しないかもしれないが、Slingshotが魅力的なプラットフォームを構築していることは確かだ。
「Slingshot Beacon(スリングショット・ビーコン)」は「商業、政府、民間の顧客を1つのプラットフォームで結びつけ、衛星やその他の資産をより良く設計、管理、保護できるようにし、リスクを軽減し、すべての宇宙飛行事業者が安全で信頼できる運用を確実に行えるようにする」軌道衝突回避プログラムだ。その試験運用プログラムは、現在地球低軌道にある衛星コンステレーションの半分以上を占める資産を所有する参加者たちとともに、2021年8月に開始された。
同社が新たに調達した資金は、Slingshot Beaconをはじめとする製品の商業化のために使われる他、今後1年間で40人の従業員を新規雇用するために充てられる予定だ。2030年までに約11万5000個の衛星が打ち上げられると予想される中で、これはかなり良い、そしてかなり必要とされるアイデアだろう。
画像クレジット:Slingshot Aerospace
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(文:Stefanie Waldek、翻訳:Hirokazu Kusakabe)