ロシア軍がウクライナに侵攻を開始したのは3週間前だ。紛争は初日から多面的な様相を見せている。地上戦に加え、ウクライナ政府はデジタル戦線にもすばやく対応した。国家の代表者が暗号資産の寄付を求め、ハイテク企業にロシアでの販売やサービスを停止するように呼びかけ、デジタルレジスタンスを組織した。
ロシアの侵略に対する政府の反応を体現している公人の1人が、Mykhailo Fedorov(ミハイロ・フェドロフ)氏である。2019年、28歳でウクライナ初のデジタル変革担当大臣に就任した。またウクライナの副首相でもある。Oleksandr (Alex) Bornyakov(オレクサンドル[アレックス]ボルニャコフ)情報変革(Information Transformation)担当副大臣も、ウクライナ政府で重要な役割を果たしている。先週TechCrunchのIngrid Lunden記者は、ボルニャコフ氏にインタビューを行っている。
ミハイロ・フェドロフ氏は、米国時間3月15日未明のTechCrunchによるインタビューで「戦争前のことですが、Zelensky(ゼレンスキー)大統領と一緒に考えていたのは、デジタル利用できる公共サービスという点で、世界で最も便利な国作りでした」と述べている。
現在、これらのプロジェクトの多くは保留されているが、ウクライナ政府はデジタル変革の取り組みによる効果をすでに実感しているところだ。フェドロフ氏は、デジタル外交の面でも積極的に活動している。彼は、ビッグテック企業が国際関係においてかなりの力を持つようになったことをよく理解している。だからこそ、彼らにウクライナの味方になってもらうために、あらゆる手を尽くしているのだ。
Zoomを使った幅広いインタビューの中で、フェドロフ氏は通訳の助けを借りながら、戦時中に政府に参加することがどのようなものかについての洞察を語った。なおインタビューの内容は、わかりやすく簡潔にするため、若干の編集が加えてある。
TechCrunch:いまどちらにいらっしゃいますか?現在のご自身の状況について教えてください。
ミハイロ・フェドロフ氏:私は活動のまさに中心にいます。セキュリティの関係上、所在地をお伝えすることはできませんが、すべてのプロジェクトについて、24時間休みなく、大統領のチームと連絡を取り合っていることは断言します。
数カ月前と今とでは、日常生活が大きく変わっていると思います。対ロシア戦争時の、日々の仕事と役割について教えていただけますか?
我々は非常に若い省庁です。ゼレンスキー大統領が当選したときに、彼のプログラムの重要な部分を実行するために設立されました。選挙前、私は大統領のデジタルキャンペーンの責任者でした。彼が当選した後、私たちはデジタル国家という共通のビジョンを実現するために力を合わせたのです。
ゼレンスキー大統領との戦争前のビジョンは、デジタルで利用可能な公共サービスという点で、世界で最も便利な国を作ることでした。私たちが目指したのは、ダブルタップでサービスが受けられるような行政です。お役所の干渉をできるだけ受けないように、半自動化するのです。つまり、みなさんが期待するような政府というよりも、Uberに近い存在になろうとしていたのです。
この危機的状況の中でウクライナの人々を支援するために、そうしたデジタル公共サービスを活用する方法はないのでしょうか?
公共サービスを立ち上げるための工場のようなものを作りました。それを可能にしているのが、1500万人のユーザーを持つ私たちのアプリです。また、この期間を通じて実装することができた、政府が運営するすべてのデータベースの相互運用と、新しいサービスを立ち上げて提供するために微調整された管理組織も、それを可能にしています。
例えば、この戦時中に、戦闘で大きな被害を受けた地域からの移住を余儀なくされた人たちに、現金を支給するなどのサービスを開始することができました。また、無料の公共テレビと無料のラジオを埋め込むこともできました。また、公式なルートで軍への募金を行えるようにしました。
敵の動きも追跡して報告できるサービスもあります。基本的にはクラウドソーシングによる情報提供ですが、戦争が勃発してからわずか数日でそれを開始することができました。
なぜなら、私たちの内部諜報機関は非常に特殊であり、誰もが持っているようなものではないからです。また戦時中に、誰であろうと、どこにいようと、どんな身分であろうと、内部移動と公共サービスを受けるための重要な情報をすべて網羅した追加書類を公開することができました。また、将来の手続きのために、基本的に戦争で損害を受けたり破壊されたりした場合に備える資産目録サービスにも取り組んでいます。
これらのサービスは、今いる場所からインターネットサービスにしっかり接続できることを意味しています。携帯電話、固定電話ともに接続の現状はどうでしょう?
通信産業のおかげで、今のところ非常に安定しているし、自信も持てるのだと言えるでしょう。24時間体制で働く彼らは、真のヒーローです。停電が発生すると、すぐに修理に駆けつけてくれます。
そのため、国土の大部分において安定したインターネット接続を維持することができているのです。また、EU圏内で最も多くのStarlink(スターリング)端末を保有しています。
軍と政府の両方から預かっている機密データについては、どうなさるつもりですか?現在データの拠点はウクライナ国内にあるのでしょうか?また、最悪の事態に備え、データを海外に移動する計画はあるのでしょうか?
デジタル国家を構築すると、露出度や攻撃界面が増えます。つまり、私たちは常にサイバーセキュリティに細心の注意を払い、真剣に取り組んできたのです。また、デジタル国家を構築していく中で、ロシア連邦から常にサイバー攻撃の標的にされてきました。
詳しくいうまでもなく、私たちのデータは安全だと言いたいと思います。バックアップもあります。データの整合性と安全性を確保する手段を備えています。つまり、何が起きようとも、ウクライナ国民のために信頼性の高いサービスを提供し続けることができるのです。
話題を変えて、対ロシアの企業制裁の話をしたいのですが、大臣はTwitter(ツイッター)やメディアで「欧米の企業は今すぐロシアでの販売を停止すべきだ」と企業に呼びかけていますね。このアイデアはどこから来たのでしょう、そして効果的だと思いますか?
私たちはこのプロジェクトをデジタル封鎖と呼んでいます。そして、この戦争に勝つためには、これが非常に重要な要素であると考えています。そして、将来的には、政府は古典的な政府ではなく、ハイテク企業に似てくるだろうと思っています。
デジタルプラットフォームは、複数の重要なサービスを提供しています。社会の仕組みにしっかり組み込まれてしまっているのです。このようなサービスを攻撃者から1つずつ取り除いていけば、彼らの社会構造に実際のダメージを与え、日常生活を送る上で非常に不愉快な思いをすることになるのです。
私たちはこれを、まったく新しい未踏の戦場と考えたいと思っています。そしてこれは、ロシアの発展を何十年も後戻りさせることになると予想される制裁を、補完する措置でもあるのです。
また、ハイテクビジネスは非常に大きな付加価値を生むと思っています。だからこそ、Tesla(テスラ)はGazprom(ガスプロム、世界最大の天然ガス企業)よりも価値があるのです。こうした付加価値を生み出す技術系の人材は、実はとても身軽でノマド的なのです。このような不利な条件をロシア内に生み出してしまえば、技術系の人材は他に移ってしまうことになるでしょう。
これが今回のデジタル封鎖を可能な限り徹底的かつ包括的に行う理由です。ロシアの戦車と兵士がわが国から撤退し、わが国民の殺戮を止める瞬間まで続けます。
副大臣のご意見として、ロシアでの販売停止やビジネス停止などが十分でなく、もっとやるべきことがある企業はあるでしょうか?
特に名前を挙げたいのはSAPですね。銀行や大企業にERPを提供しているドイツの会社です。基本的に、彼らはロシア企業にITインフラを提供し、またロシアで税金を納めることで侵略戦争に貢献しているのです。こうして彼らは、ウクライナ国民や民間人を殺害している軍隊を支持しているのです。
現在のウクライナのハイテク産業、ハイテクコミュニティについて教えてください。私たちは技術コミュニティで起きていることを多く取り上げていますので、ウクライナの技術者たちが今どのように反応しているのかを知りたいのです。
ウクライナには約30万人の技術系人材がいます。国際企業のほとんどは、ウクライナでの事業を安定させ、事業継続を確保することができました。難しいことではありますが、ほとんどの人が何とかやっています。
ブロードバンドインターネット、安全な場所、税制優遇、移動手段などを提供し、技術系企業のニーズに応えようと考えています。つまり基本的に、彼らに何か問題があったときに、ワンストップで対応できるような存在になることを目指しています。
昨日(米国時間3月14日)には、ウクライナ軍がClearview AI(クリアビューAI)の顔認識技術を利用しているという報道がありました。このClearview AIとの提携について、詳しくお話ししていただけますか?
現在、このプロジェクトは非常に初期の段階にあると言えます。進捗状況についてコメントする立場にはありませんが、結果が出れば、喜んで結果をシェアしたいと思っています。
Clearview AIを活用する場合、どのようなユースケースを想定なさっているのでしょうか。
まず最初に、これらのユースケースのほとんどは非公開のもので、公にお知らせできるものではないということをお断りしておきます。
でも、ちょっとだけお話しするなら、総務省との仕事があります。ウクライナ国内で殺害されたり、捕虜になったりしたロシア軍を特定しようとするものです。ご存知のように、ロシア政府は彼らの存在を否定し始め、書類なしで送り込んだりしています。
もう1つは、検問所を通過する人をチェックするユースケースです。もう1つは、行方不明者の捜索です。
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暗号資産による寄付についてもお聞きしたいのですが。暗号資産に関する戦略について、最新情報を教えていただけますか?
現時点で、5500万ドル(約65億2000万円)を調達することができました。そして、そのすべてがウクライナ軍へ振り向けられました。
我々は暗号資産にやさしい国家も目指しています。具体的な内容もお伝えできます。国会で仮想資産に関する法律が採択されました。数日のうちに大統領が署名して法制化されると思います。ですから、私たちはできるだけ仮想資産にやさしくするように努めています。そして、戦時中もこの取り組みを続けています。
ウクライナで暗号資産に関する新しい法律が程なく成立するというお話が出ましたね。政府のメンバーとして、現在どれくらい緊密に働いていますか?新しい法律をどのように成立させ、政府の他の部分とどのようにチームとして働いているのでしょう。
それはすばらしい質問です。戦時中は、政府は基本的にオーバードライブモードで動いています。私たちは24時間、土日も関係なく働いています。戦争前は会議は毎週開催でしたが、現在は毎日開催しています。
ちょうど、軍隊の勇敢な軍人たちが、土日祝日もなく昼夜を問わず国を守っているようなものです。私たちも同じようにやっています。
私たちは、軍事面でも、技術面でも取り組みを行っています。また、経済面でも取り組んでいます。わが国の政府は、経済の自由化を進め、経済におけるあらゆるハードル、障害、ボトルネックを取り除くことに特に力を注いできたのです。税制の簡素化も進めています。私たちは税関を開放していて、ああ、戦争にもかかわらず経済的に国を発展させようとさえしています。
現状で知りたかったことは、すべてお尋ねしたつもりです。もしよろしければ、毎週、あるいは2週間おきに定期的にお話しして、近況を共有しましょう。ひとます今回は、ご回答ありがとうございました。
もちろん、フォローアップ会議を企画したいと思います。あと、結論として、以下のことを記事に書いていただければと思います。
技術コミュニティ全体に感謝したいと思います。技術コミュニティが私たちの側、明らかに善い側を選んでくれたと信じているからです。私たちはそれを心で感じ、技術者コミュニティの行動で感じることができています、とても感謝しています。
画像クレジット:Future Publishing / Getty Images
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(文:Romain Dillet、翻訳:sako)