PCやiPhone、iPadに搭載されているマイクは「無指向性マイク」と呼ばれ、360度あらゆる方向からの音を拾います。このため、周りが騒がしい状況ではZoomなどのビデオ会議でその雑音が入り込む可能性があり、ときに通話相手が自分の音声を聞き取りづらいと感じるかもしれません。
そんなときに役立つのが「指向性マイク」と呼ばれる、特定の方向から飛んでくる音を集中的に拾うことができるマイクです。しかしながら、一口に指向性マイクといっても安いものから高いものまで存在し、商品説明を見ただけではその違いがわかりづらいのではないでしょうか。
そこで今回は安い指向性マイクと高級な指向性マイク、そしてiPhoneに搭載されたマイクを利用し、実際に録音される音がどのように違うか比較してみました。
マイクの「指向性」とは?
マイクの指向性とは、マイクが音を拾う方向の特性のことを指します。
iPhoneやiPad、PCなどに搭載されている一般的なマイクは指向性がない「無指向性マイク」であり、360度どの方向から飛んできた音でも同じように拾います。
このため、マイクの周囲のどの位置に人などの発音源があっても音を拾えるのが利点ですが、一人で参加するZoom会議など拾ってほしい音が限られた場所にある場合には、余計な音まで拾ってしまうのが欠点です。
これに対し、「指向性マイク」と呼ばれるマイクは、音が飛んでくる方向に応じて録音される音の大きさが変わります。
上の画像はマイクメーカーのSHUREのものですが、このようにさまざまな特性を持った指向性マイクが存在し、用途に応じて使い分けられています。
一人で参加するZoom会議で正面の音に特化した指向性マイクを使うと、それ以外の方向から飛んできた音が大きな音で拾われないため、周囲のノイズを排除した状態で通話が可能です。
無指向性マイクは周囲のノイズに弱い
無指向性マイクがどれくらい周囲のノイズに弱いのか実験してみました。
実験には無指向性マイクを持つiPhone XRを使用し、「ボイスメモ」アプリで録音をおこなっています。
以下の写真のようにiPhone XRの底面マイクの正面に1台PCを置き、反対側にもう1台PCを置きました。
そして正面のPCでiPhone Maniaの記事を読み上げさせながら、反対側のPCのCPUファンの音を小さくしたり大きくしたりしました。
まず、ファンの音が小さいときにはこのような感じで録音されます:
iPhoneシリーズのマイクは比較的音質が良く、きれいに音が録れています。
しかしながら、反対側に置いたPCに負荷をかけ、CPUファンの回転数を上げるとこうなります:
無指向性のiPhoneのマイクは後ろ方向にあるCPUファンの音もしっかりと録音しました。
この録音されたファンの音、人間の耳で聞くよりも大きく聞こえます。人間の耳は単純に音を聞いているのではなく、状況を判断して選択的に音を聞いているといわれるため、その場で聞いているときは脳が自動的にファンの音をマスキングしているのでしょう。
これはつまり、通話中は自分が思っているよりも周りの雑音は通話相手に大きく聞こえているということです。
安い指向性マイクと高級な指向性マイクで実験してみた
そこで、指向性マイクを使った場合にこのCPUファンの音がどうなるか実験してみました。
サンワサプライ MM-MC32の場合
まずは安い指向性マイクとして、サンワサプライのMM-MC32を使いました。
このマイクは定価2,310円(税込)、実売では1,000円ほどで販売されており、手軽に試すことができます。
MM-MC32をPCのマイク入力端子に接続し、同じように録音をおこなった結果が以下です。
CPUファンの回転が遅い場合:
CPUファンが高速回転している場合:
確かにiPhone XRに比べるとCPUファンの回転の違いに対してノイズの変化が少なく、後ろからの音がカットされているように聞こえます。
ただ、CPUファンの回転が遅いときでもノイズが大きいです。
これは、MM-MC32の出力はデジタルではなくアナログの3.5ミリのミニプラグであり、PCが発するノイズを拾ってしまっているためだと考えられます。
AKG Lyraの場合
次に比較的高価なAKGのLyraを試しました。
こちらはUSB接続のマイクであり、Windows/Mac/iPhone/iPad/Androidなどさまざまな機器にデジタル接続することが可能です。
価格はオープンプライスですが実勢価格は12,000円ほどと、MM-MC32の10倍ほどの価格で販売されています。
Lyraには指向性切り替え機能がついていますが、まずは正面の音だけを集中的に拾うFRONTモードで実験した結果がこちらです:
CPUファンの回転が遅い場合:
CPUファンが高速回転している場合:
背面からのノイズがしっかり抑えられており、なおかつMM-MC32で気になったノイズも小さいです。
CPUファンが高速回転している状態でLyraの指向性の設定を変更し、背面の音も拾うFRONT&BACKにするとこうなります:
ファンの音もしっかりと録音されており、たとえば複数人数で会議に参加するときなどはこのモードが便利です。
Lyraにはほかに、TIGHT STEREOと呼ばれる正面の音をステレオで録音するモードや、WIDE STEREOという背面の音も含めてステレオで録音するモードが用意されており、状況に応じた使い分けができます。
音質の違いは?
次にiPhone XRを含めたこれらのマイクに対し、音声通話時の音質を比較します。
人間の声での音質比較
まずは音声通話に使うことを想定し、筆者がiPhone Maniaの記事を読み上げた音声を録音してみました。
以下の録音では3つの機器を横に並べ、1回の読み上げで同じ声を同時に録音しています。
iPhone XR:
MM-MC32:
Lyra:
やはりMM-MC32はノイズが大きく、Lyraのほうがクリアに聞こえます。
特筆すべきはiPhoneの音質の良さです。ノイズも少なく、声だけであればLyraに引けを取りません。
電話であるiPhoneのマイクは声に最適化されており、音声をきれいに録音することができるのでしょう。
音楽での音質比較
次に、声だけでなく楽器の音も含むフリー素材の音楽を録音してみました。使用したのは「水曜日のフィロソフィ / 仄架よみ feat. Flehmann」です。
この楽曲をSonosの高音質スピーカー「Arc」で再生したものをそれぞれの機器で録音した結果が以下です。
iPhone XR:
MM-MC32:
Lyra:
iPhone XRの音質も悪くはありませんが、高音のキラキラした音が失われ、ベースの音もスピード感がなく、全体的にもっさりした音になってしまっています。声を重視するためにそれ以外の周波数を削り落としているのかもしれません。
とはいえ、iPhoneのマイクは機器に標準搭載されているものとしては音質が良いです。試しにWindowsノートPCであるVAIO S15の2012年モデルで同じ録音をおこなってみました。
VAIO自身のファンの音を拾ってしまっているのはさておき、音質としてもイマイチであることがわかるでしょう。
一方、ノイズが多いもののMM-MC32は高音域をそれなりに再現しています。
Lyraの音質はさすがで、音楽の録音にはやはりこのクラスのマイクが必要です。
指向性マイクはZoom会議などの音声通話で役に立つがそれなりのマイクが必要
今回の実験で、指向性マイクを使うことで、Zoom会議などの音声通話において周りの騒音を低減する効果がしっかりと得られることがわかりました。
家でも職場でも、雑音が存在する状況で通話するのに役立つでしょう。
一方、音質の面では安いマイクはノイズが多く、iPhoneなどの高音質マイクを搭載した機器のほうが高い音質で録音できました。
声は相手の印象を左右する要素の1つといわれており、重要な会議などではきれいな声を届けたほうが良い結果が得られるかもしれません。
リモートワークが普及するこの現代、コミュニケーションを取るための道具であるマイクについてもこだわってみてはいかがでしょうか。
Source: サンワサプライ, AKG, SHURE, DOVA-SYNDROME
(ハウザー)
- Original:https://iphone-mania.jp/news-453002/
- Source:iPhone Mania
- Author:iPhone Mania