Appleのティム・クック最高経営責任者(CEO)は拡張現実(AR)の重要性を主張し続けてきましたが、WebARというブラウザベースのAR環境構築において、Safariが障壁となっている、と没入型コンピューティング専門家が苦言を呈しています。
WebXRで足を引っ張っているApple
Appleは1,000人ものエンジニアをARグラスチームに動員しており、2017年にAR開発者フレームワークを導入するなど、ARの先駆者的な存在として知られています。
しかしながら、Webベースでアプリダウンロードなしでブラウザから直接ARコンテンツ体験が行えるWebARという分野においてはむしろ足を引っ張っているとされています。
「AppleはWebARのイノベーションの足かせになっている」と、没入型コンピューティング専門家のクリストファー・レプコウスキー氏は苦言しています。
レプコウスキー氏は、Pretty Big Monsterという米ロサンゼルス拠点のマーケティング・エージェンシーの技術部長兼パートナーを務めており、Netflix、Warner Bros.、Discovery、アメリカン航空などの大手企業のARマーケティングキャンペーンづくりを手掛けてきた人物です。
アプリをダウンロードするのは多くの顧客にとって非現実的
昨今のコンテンツ配布において最も重視されるのは紛れもなくスマートフォンですが、“アプリのダウンロード”という工程を踏むと、顧客の数は95%減少するといいます。「95%のお客様にとって、それは非現実的なことです」と、Pretty Big Monsterの業務執行社員のジェイソン・スタインバーグ氏は語っています。同氏いわく、クリック(タップ)1つを経るだけでも50%の顧客を失ってしまうそうです。
そこで、WebARに白羽の矢が立つわけです。WebARであれば、QRコードのスキャンなどワンステップのインタラクションのみでARコンテンツにアクセス可能となります。
Google、Meta、Samsung、Mozilla、Magic Leapなどのブラウザおよびデバイスメーカーの幅広い連合によって開発された「WebXR」標準のおかげで、アプリを使わずにブラウザ上でAR体験を行うことができるようになっています。
WebXRはiOSに事実上非対応
WebXRはAndroid環境では非常に役に立ちますが、Appleは他のブラウザメーカーにSafariのWebKitレンダリングエンジンを使用してiOS版のブラウザを構築することを強制しているため、他のブラウザメーカーがWebXRをiPhoneに導入する手立ては今のところありません。
唯一、「WebXR Viewer」というMozillaが開発したARKitベースのWebXRコンテンツ閲覧用のアプリがありますが、このアプリをダウンロードしなければならないということは、「持っているブラウザで直接ARコンテンツ体験ができる」というWebARの醍醐味が失われることを意味します。
ARKitが障壁に?
ポケモンGOの運営で知られるNianticが最近買収したARスタートアップ企業8th Wallは、AppleのARKitを使用せずにブラウザ上でSLAMなどのARにおいて重要なコンピュータビジョン機能が利用できるWebARソリューションを提供していますが、他のブラウザのAPIに効果的に便乗する手法では、AppleのARKitほどの深いハードウェア統合を活かすことができないそうです。
ARKitのみがアクセスを許されているセンサーデータを使わずにブラウザ上でARを動作させても、アプリ並みのAR体験は得ることはできません。また、消費電力が多く、バッテリーにとてつもない負荷がかかるとのことです。
加えて、8th Wallのソリューションには月額のライセンス費用がついて回ります。大手企業であればこれらのコストは負担可能ですが、教育者やアーティストおよびその他の独立系の開発者にとって現実的な選択肢ではありません。
AppleがWebXRをサポートすれば状況は一変する
AR関係者はWebXRのiOS非対応問題を以前から認識していましたが、Appleがサードパーティー開発者に対する制限をめぐって規制当局の圧力に直面する可能性があることがわかり、状況は今後変わっていくかもしれないと前向きです。
もしAppleがWebXRのサポートにポジティブな姿勢を示した場合、業界全体が大きく変化し、消費者向けのARグラスが市場に出る前に、新しいイノベーションの波が押し寄せると予想されています。
Source:Protocol via 9to5Mac
Photo:Apple
(lexi)
- Original:https://iphone-mania.jp/news-454263/
- Source:iPhone Mania
- Author:iPhone Mania