広告企業に大打撃を与えているとされる、Appleによる「アプリのトラッキングの透明性(ATT)」について、すべてのトラッキングを排除できてはいないとの研究が英オックスフォード大学から発表されました。
一定の成果は評価しているが
iOS14より導入が始まったATTは、アプリのトラッキングをユーザーが積極的にコントロールできるのが特徴で、デバイス上でどんなWebサイトを見たかや、どこへ出かけたかといったの追跡をボタン一つでアプリごとに設定することが可能です。
米国では96%のユーザーがトラッキングを「許可しない」に設定している調査もあり、広告事業を主とする企業や、彼らに広告を出向している中小企業にとっての影響が懸念されています。実際、Facebookは以前よりATTに対して警告を発してきました。
しかし、オックスフォード大学の研究チームが新たに発表した論文「さよなら、トラッキング?iOSアプリトラッキングの透明性とプライバシーラベルの影響」では、ATTが機能していることを認めつつも、Apple自身がある意味ではユーザーをトラッキングしていることや、プライバシー対策への回避策が生まれていることが指摘されています。
また研究チームは、食品の栄養成分表示に例えられるApp Storeのプライバシーラベルについても、人気のないアプリでは「不正確で誤解を招く」として批判を投げかけています。
迂回の証拠やAppleの限界も指摘
研究論文は、Appleの新しいポリシーがトラッキングに必要な広告識別子(IDFA)の収集を適切に防いでいることを認め、ユーザーのデータをやり取りするブローカーにとって追跡するための障壁が高くなっていると述べています。
ただし、ブローカーが本当にユーザーを追跡しようと思えば、ATTを迂回できてしまうことも明らかになりました。具体的に研究チームは、サーバーサイドのコード使用を通じて、アプリが指紋認証由来の識別子を計算し一致させるアプリの存在を実際に発見したと述べています。トラッキングもiPhoneではなく、オンライン上で訪れる場所で行われるのが特徴です。
こうした挙動はAppleの規則に違反しているにもかかわらず、Appleが制御できない領域で行われているため、「私設のデータ保護機関としてのAppleの執行力の限界を浮き彫りにしている」と論文は指摘します。「Appleの変更は、個別ユーザーの追跡をより困難にする一方、対抗策を生み出す原動力ともなっている」
巨大企業がより富むだけ?
これらを踏まえて論文は、こうしたレギュレーションが「大量の1stパーティーデータ(自社の顧客や社内のデータ)にアクセスできるゲートキーパー企業が市場ですでに有している力をさらに強化する」ことにも繋がると警鐘を鳴らします。
研究チームは、プライバシールールの厳格化が「より多くのプライバシーのために、より一部のテック企業によるデータ収集の集中を認め」てしまったと結論づけます。
例えば、「ユーザーを識別化できるだけの1stパーティーデータにアクセスできるため、依然としてアプリ間でユーザーを追跡することができる」としてAlphabet(Google)やMeta(Facebook)といった企業の名を具体的に挙げています。
また、Apple自身についても「広告技術でより大きなシェアを確保し、デバイスのシリアル番号を含むユーザー識別子へのユニークアクセスを得ることで、さらに正確に顧客を追跡することができるようになった」とし、広義ではトラッキングの不透明化に寄与していると批判します。
批判として成り立っているかは疑問
個人的には、ATTによって逆に回避策が高度化したことを問題視するのは、泥棒対策をしたら泥棒の技術が高度化したと指摘するようなもので、的を射た批判ではないように思われます。
一部で喧伝されている(している)ほどには巨大テック企業がダメージを受けていないことや、Appleが自身を例外視していること、プライバシーラベルの判定が曖昧なことは事実だとしても、ユーザーの利益に適っているのも確かでしょう。
なお、今回の研究と視点は異なりますが、ATTが直接的にはAppleの利益に繋がっていないとする論文も発表されています。
Source:AppleInsider
(kihachi)
- Original:https://iphone-mania.jp/news-456191/
- Source:iPhone Mania
- Author:iPhone Mania