【遊べる絶版車図鑑⑥】
1990年代に沸き起こったミニバンブーム。大勢で移動し、荷物もたくさん積める便利なミニバンは、バブル景気崩壊で人々の節約マインドが大きくなる中、「1台で何でもできるクルマ」として受け入れられました。また、1990年代前半まで主流だったキャブオーバーやセミキャブオーバータイプから乗用車ベースのミニバンに移行して乗り心地と走行性能が向上したことも要因でした。
各社は1990年代後半からさまざまなサイズのミニバンを市場に投入。コンパクトなミニバンとしては1980年代から発売されていた日産 プレーリー(後にプレーリージョイ、プレーリーリバティに名称変更)やスバル ドミンゴ、ホンダ ストリーム、ダイハツ アトレー7などがありました。
ホンダは2001年12月に画期的なミニバンを市場に投入。全長わずか4055mmというコンパクトなボディに3列シートを組み込んだモビリオです。さらに翌2022年9月にはモビリオを2列シートにして遊びの要素を盛り込んだモビリオスパイクも市場に投入。どちらも大ヒットモデルとなりました。
■スモールミニバンのモビリオを遊び仕様に!
モビリオの何が画期的だったのか。それは2000年に登場したホンダのコンパクトミニバン「ストリーム」より500mm近く全長が短いのに、ホイールベースをストリームより20mm長く設定。さらに初代フィットで採用したセンタータンクレイアウトを取り入れて、コンパクトでも車内の居住スペースをしっかり確保。3列目席にも大人が座れるだけの空間が与えられたのです。
運転席と助手席のドアは開けた時に上部が斜めに開くヒンジを採用して狭い場所でも乗り降りをしやすくしました。
モビリオスパイクはモビリオの2列シートバージョンですが、単に3列目席を外すのではなく、デザインから大々的に変えられました。「ガレージボックス」をコンセプトにした直線基調のデザインはまさにガレージにあるツールボックスのようなイメージ。最大の特徴はモビリオのラゲッジスペース部分にあるリアクォーターウインドウを取り払い、極太のピラーにしていること。これにより道具感が演出されています。
しかもこのピラーの内側(ラゲッジ部分)にはA3サイズのフリースペースを設置。遊びで使う小物などを置いたりできるようになっています。
また、ラゲッジ内のタイヤハウス部分は箱型になっていて、上部にはトレーを設置。この部分にボードを渡すことで、荷室を上下二分割したり、テーブルとして利用できるようになっています。オプションで防水ラゲッジボードも設定。海や湖などで遊んでも濡れたものを気にせず積み込めます。さらにバックドアには開けた時にウェットスーツなどをぶら下げられるフックも取り付けられています。
ラゲッジスペースは高さ1005mm、幅1235mmで、スクエアデザインにしてあるので荷物が積みやすくなっています。センタータンクレイアウトによる広い室内空間を活かしたシートアレンジも魅力です。
フィットでも評判がよく、今なお採用されている、リアシート座面を跳ね上げて高さのある荷物を積める「トールモード」(当時はツインモードという名称でした)も用意。この状態にすると最大1390mmの高さのモノを積載できます。
■リアシートをたたむと2m近いフラットな空間が出現
遊びに使える便利な道具だったモビリオスパイクは、ファミリーはもちろん、サーフィンをはじめとするマリンスポーツやウインタースポーツ、釣りなど、さまざまなアクティビティを楽しむ人から支持されるヒットモデルに。その中には少し意外なニーズもありました。それは「車中泊」。
モビリオスパイクが登場した2002年頃はまだバンライフという言葉もなく、車中泊も今ほどメジャーな存在ではありませんでした。サーフィンや釣りなど早朝からレジャーを楽しむ人は大型のミニバンや軽ワンボックスの中でシートを倒して仮眠を取っていました。
前述したようにモビリオはコンパクトカーとは思えないホイールベースの長さで広い室内空間を実現したモデル。そして3列シートのモビリオは2列目席が前席を前に持ち上げる格納方法だったのに対し、モビリオスパイクはシートバックを前に倒した後に2列目シートを足元に収納させるダイブダウン方式を採用。これによりフロントシートを起こした状態でも最大1945mmのフラットなラゲッジスペースが出現しました。
彼らは大柄な人でも足を伸ばして寝られるこのスペースに注目。Web上で「こうすれば快適に寝られる」というアイデアを出し合っていました(現在でも「モビリオスパイク 車中泊」で検索するとたくさんの情報が出てきます)。
もしかしたら車中泊というニーズはホンダも想定していなかったのかもしれません。モビリオスパイクは1代限りで幕を下ろしましたが、後継モデルであるフリードスパイクには純正アクセサリーで車中泊アイテムが用意されました。
■前期型と後期型でデザインが大きく変更。どっちを選ぶ?
そんなモビリオスパイクは2005年12月、エクステリアを一新する大規模なマイナーチェンジが行われました。前期型がツールボックスをイメージした道具感のあるスタイルなのに対し、後期型はライトが大きくなるとともに、ライト周りに曲線を使ったファニーなイメージに。前期型でバンパー内にあったテールライトは、後期型ではテールゲートのナンバープレートそばに移動しています。
インテリアではフロントのベンチシートにカップホルダーを内蔵したユーティリティボックスを装備。ラゲッジスペースには角度調整機能がついたスポットライトが設置されました。
2022年6月現在、中古車サイトにはモビリオスパイクの中古車が80台弱掲載されています。前期型と後期型の割合はほぼ1:1となっているので、まだデザインの好みで選べる状況です。そしてほとんどの中古車が車両本体価格50万円以内で見つかります。
流通している中古車はノーマルの状態のものがほとんどで、手が加わっているものでもホイールが換えられている程度。その意味では安心できますが、デビューから20年前後経っているので購入を検討する際は車両状態やパーツの状況などを販売店にしっかり確認してください。
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<文/高橋 満(ブリッジマン)>
高橋 満|求人誌、中古車雑誌の編集部を経て、1999年からフリーの編集者/ライターとして活動。自動車、音楽、アウトドアなどジャンルを問わず執筆。人物インタビューも得意としている。コンテンツ制作会社「ブリッジマン」の代表として、さまざまな企業のPRも担当。
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/458819/
- Source:&GP
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