バズワードとして盛り上がりを見せる「メタバース」。
この数年で、さまざまな企業がメタバースを活用した事業に興味を持ち、参入してきました。しかしながら、その意味をよく理解しないまま、メタバース事業を始めているケースも少なくないようです。
今回は、VRイベント「バーチャルマーケット」の運営で豊富な実績を持ち、メタバースのアドバイザー・コンサルティングサービスも提供している株式会社HIKKY・CEOの舟越 靖氏に取材。企業がメタバースを活用する意味を改めて伺いました。
企業がメタバースを活用することの意味
舟越:株式会社HIKKYは、メタバース事業やVR/AR領域における大型イベントの企画・制作・宣伝、パートナー企業との新規事業開発などを展開しています。創業したのは2018年ですが、2016年頃から、前身チームがVRを用いたマーケティングをおこなっていました。
VRイベントの「バーチャルマーケット」は、2018年から開催しています。
――メタバースという言葉がバズるずっと前から、注目していたのですね。
舟越:メタバースは、確かに新しいといわれますが、以前から研究を重ねられてきた領域です。しかし、事業ではなかなか活用されていない状況でした。数年前まで、VRと聞くとゲームをイメージする人が多かったのではないでしょうか。
企業が、VRを使って何かをするということ自体が、ほとんど考えられていなかったのです。
弊社は、「ほかの事業でも、VRを活用すれば、今までにない成長を遂げられるのでは」と考え、アパレルや通信、教育など幅広い分野の企業とVRを活用した事業をおこなってきました。
VRは、想像以上に活用範囲が広く、集客や売上アップにもつながっていたので、バズる前から、手ごたえを感じていました。
――メタバースの活用により、企業は具体的にどのようなことを実現できるのでしょうか。
舟越:新たなマーケティングチャネルを見出せます。
2Dのインターネットショッピングでは、対象商品を“的確にはやく”購入することが主な目的として置かれています。一通りの流れを基本的に自分だけで完結することが可能です。
一方、メタバースのバーチャル体験では、店員に質問したり、友達や家族と相談したりするといったコミュニケーションが生まれます。そのため、ハイブランドなどの売上につながる傾向があります。一定の金額を超える商品は、やはり誰かに相談しながら購入を検討したい人が多いためです。
時間や場所にとらわれない2Dのインターネットショッピングのメリットに加え、多くの人たちが求めているコミュニケーションを表現・共有しやすいのが、メタバースのいいところだと考えます。
――人とのコミュニケーションや、自分だけでは見つけられない商品との出合いを楽しめるのはメタバースならではですね。
舟越:弊社の「バーチャルマーケット」においても、店員に相談しながら買い物をしたり、音楽ライブに参加したりするなど、2Dのインターネットショップにはない、メタバースならではの“体験”を提供しています。
来場者は、互いに音声によるコミュニケーションが可能で、現実世界で一緒に過ごしているかのような臨場感を楽しめます。
――ほかにメタバースを活用するメリットはありますか。
舟越:情報を一気に伝えられる点もメタバースの魅力です。
たとえば、動画でプロモーションをおこなう際には、「最初に面白い内容を持ってきてユーザーをひきつける構成にしよう」など、情報を伝えるために考えなければならないことがたくさんあるでしょう。
一方のメタバースでは、ユーザーはバーチャル空間に入った瞬間に、「ここでは何が売られているのか」「どのような空間なのか」といった情報がすべてわかります。
先入観を排除し実力を発揮できる場として
舟越:弊社の社員は、バーチャル空間で、自分の分身であるアバターを用いて働いています。本人が希望すれば、年齢や性別、本名を非公開にすることも可能です。
――非公開にすることで、どのような効果があるのでしょうか。
舟越:新しい生き方を体験できると実感しています。
私たちは、思っている以上に人の見た目に影響を受けているものです。たとえば、若い人を見ると、「経験が少なそうだけど大丈夫だろうか」と頼りなく思い、仕事ぶりを見る前に不安に感じる人もいるかもしれません。
しかし、アバターで見た目がわからず、年齢も非公開なのであれば、先入観を持たずに、その人の人柄やスキルを評価できます。実際に、弊社では親の許可をもらって働いている10代の社員がトッププレイヤーとして活躍していたり、70代の社員がこれまでの知見をフルに活かして働いたりしています。
少子高齢化による労働力不足の解決策のひとつとしてはもちろん、一人ひとりが本来の力を発揮する取り組みとして、もっと多くの企業に広がっていってほしいです。
メタバースというキーワードに踊らされないように
舟越:バーチャル空間上のコミュニケーションにおける不安は、ゼロになることはないと思います。
インターネットはすでに広く普及していますが、「ネットってやっぱり怖い」と感じることが、今でも少なからずあるでしょう。
――法律面の整備なども必要になってくると考えますか。
舟越:サービスの提供側は、法整備を求める前に、まず自分たちができることから始めるべきです。たとえば、ユーザーIDの管理を徹底することが挙げられます。
法整備を求める前に自分たちに何ができるかを考える必要があるというのは、メタバースに限った話ではないと思います。
――メタバースが今後普及していくうえで、ほかに課題がありましたら、教えてください。
舟越:メタバースが話題になり、多くの情報が発信されていますが、その中身は実際の経験にもとづくものから、表面的なものまでさまざまです。
「メタバースにちょっと興味がある」ぐらいの人だと、どの情報が正しいかを見極めることは難しいでしょう。
メタバースは今後もっと成長していく領域です。同時に多くの情報が混在するようになると考えています。だからこそ、情報の取り方や精査の仕方は、より重要になっていきます。
――情報を見極めるための具体的なポイントはありますか。
舟越:集客や情報発信の方法などをチェックすることをおすすめします。
たとえば、実際に集客を実現しているのか、広告ではなく口コミによる評判はどうか、情報発信が借り物でないかどうか、などが挙げられます。また、取引先の数なども参考になります。こうした情報が、信頼できる情報かどうかを精査する助けになると考えています。
メタバースを一部の人たちだけのものにしたくない
――今後の事業展開について、教えていただけますか。
舟越:弊社が持つ知見を他社のメタバース事業に役立ててもらうべく、コンサルティング・アドバイザー業務をおこなうサービスを提供中です。各社の条件に合わせたソリューションを企画・開発しています。
しかし、弊社が一緒に仕事をできる企業数には限りがあるのが現実です。そのため、現在、パートナープログラムを準備しています。このプログラムでは、パートナー企業も弊社の知見をもとにしたサービスを提供することが可能です。
メタバースを一部の人たちだけのものにせず、大手企業から街の個人商店まで、さまざまな人たちが活用できるようにしたいです。そのために、弊社がこれまで培ってきたノウハウを活かしていきます。
(文・和泉ゆかり)
- Original:https://techable.jp/archives/181405
- Source:Techable(テッカブル) -海外・国内のネットベンチャー系ニュースサイト
- Author:izumiyama