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「空間を身にまとう時代」を見据えて。Psychic VR LabがXRに注力する理由

次はいよいよVRやARの時代へーー。

という言葉にメディアも生活者も簡単には飛びつかなくなりました。仮想現実をつくる技術そのものに新鮮な驚きを抱くフェーズはすでに少し前のモノとなりました。

では、VRやARが具体的にどのような未来を描くのでしょうか。

2016年創業ながらもXR企業として存在感を放つ株式会社Psychic VR Labの執行役員・CMOの渡邊遼平さんに話を伺いました。

2030年以降、必ずやってくる「リアルとバーチャルが重なる世界」

ーーまずは、御社の事業内容を教えてください。

渡邊:Psychic VR Labは、 “人類の超能力を解放する。” をミッションに掲げ、XRクリエイティブプラットフォーム「STYLY」の提供をはじめ、官民連携のさまざまなプロジェクトに参加しています。

STYLYは世界中でダウンロードされていて、4万5000人のアーティストによる5万以上もの作品が発表されています。また、KDDIが提供するARコンテンツ再生アプリ「SATCH X」にも、じつは私たちのシステムが採用されています。

ーー2016年創業とのことですが、一言で表すとどのような会社ですか?

渡邊:「スタートアップにしては年齢層が高い会社」でしょうか(笑)。

ボードメンバーは、上場企業での経営経験があり、COOの渡邊(信彦)は当時の「セカンドライフ(※)」を日本に持ってきた張本人でもあります。

※2003年に運営がはじまった3Dの仮想空間のこと。いわばメタバースのはしり。

ーー「ベテランぞろい」でめざす「人類の超能力の解放」とは?

渡邊:歴史を遡ると、人類の能力はテクノロジーによって拡張されてきました。インターネットの登場で仕事のやり方は一変しましたし、iPhoneなどのハードやその他のあらゆるソフトウエアも同じです。

ありとあらゆるテクノロジーが昨日まで持っていなかった能力を獲得するきっかけになっています。

そこで私たちは、「XRテクノロジーによる人類の能力拡張」に挑戦しています。

ーーどうしてXRに着目されたのでしょうか?

渡邊:2030年以降、XRがいまよりも身近になると予想しているからです。私たちの頑張りにかかわらず、リアルとバーチャルが重なり合う世界、いわばXRを身にまとう時代が到来すると予想しています。

というのも、歴史を振り返ってみると同じようなブレイクスルーが起こっています。

たとえば、SONYは1979年にWALKMANを発表して音楽を「まとうもの」「持ち運ぶもの」に変えました。iPhone から始まったスマートフォンもまた、コンピューターを「まとうもの」「持ち運ぶもの」に変えたイノベーションのひとつです。

これらのように人々は何かをまとうことで、これまでにない新しいライフスタイルを獲得してきた歴史があり、同じことがXRでも起きると考えています。

新技術は「まとえる」ようになってからが本番

ーーXRも「まとう」ような時代が来る?

渡邊:その通りです。「空間を身にまとう時代」が、2030年頃に来るはずです。

コンピューター通信の世界に絞って振り返ると、2000年に3Gが誕生して、テキストのみならず画像の送受信が可能になり、そのハードルは圧倒的に下がりました。

その10年後には、4Gです。スマートフォンが主流になり、YouTubeというプラットフォームの助けもあって動画コンテンツの送受信が当たり前になりました。

ーーだいたい10年刻みということですね。

渡邊:はい。90年代から家庭にもコンピューターが浸透したと考えると、主流となるコンテンツは、およそ10年でテキストから画像に、さらに10年で画像から動画に代わりました。

次の10年ーーつまり2030年以降ーーで一般的になるのが、VRやARといった「空間」ではないかと考えています。

ーー今後、いま以上に「空間の送受信が当たり前」になる着火点はどこにあるのでしょうか?

渡邊:優れたハードウエアでしょう。

Appleがメガネ型のウェアラブル端末を出すのではないかと、かねてから噂になっていますが、そういったアイテムが市場に現れると一気に変わると思います。必ずしもAppleがというわけではありませんが。

年間約3兆時間の非可処分時間が解き放たれる

ーーウェアラブル端末が鍵になってくると。

渡邊:ウェアラブル端末が普及したとき、まさに空間のコンテンツを「身にまとう」のが当たり前の日常になっていると思います。1日に8時間×10億人という計算で、年間にして約3兆時間の非可処分時間が市場に解き放たれます。

そうなると、本格的に日常の空間すべてがメディアになるでしょう。

私たちがVRとARのどちらも扱っている理由はここにあります。

あくまでも現実にいる「自分」をベースに、リアル – AR/MR – VRが多層化された世界がやってくると考えているからです。そのような日常を予測しているからこそ、VRもARも同じように扱っています。

ーー「空間がメディアになる」とは具体的にどういうことでしょうか?

渡邊:目に触れる場所や空間すべてがメディアになれる可能性を秘めているということです。現実の都市空間の “上” にコンテンツを配置します。

場所を選ばない広告媒体になりえますし、リアルとバーチャルを掛け合わせたエンターテインメントとしての集客も期待できます。

ーーバーチャルを目当てに、リアルの場所に人が集まるというのは面白いですね。

渡邊:自治体などが弊社に声をかけてくださる理由もこれが大きいかと思います。「バーチャルで何かをしたい!」というよりも「リアルの町に集客をするためにXRで何かしたい!」という背景があります。

こうした需要に応えるために、KDDIと共同で、実在の空間をメディア化するソリューション「XRscape」を展開中です。

弊社の制作ツールである「STYLY Studio」を使って、各都市の3Dデータのプリセットを取り込み、AR・MRコンテンツの制作から都市空間への配信までをワンストップでおこなう環境を整えています。

現在は、東京・大阪・名古屋・札幌・福岡・京都の6都市に対応していて、今後は全国の都市や施設に拡大予定です。

これから「XRのYouTube」になるために必要なこと

ーー「空間がメディアになる」時代を見据えて、XRコンテンツを簡単に送受信できる環境をSTYLYで提供しているということですね。

渡邊:弊社はSTYLYを、動画コンテンツでいうところのYouTubeのようなプラットフォームにしたいと考えています。

作品を発表する障壁を圧倒的に下げるべく、なるべく簡単に扱えるように整備していて、Webブラウザさえあれば使えるようになっています。エンジニアリングに長けている人がメインのターゲットではありません。

ーー入り口は広く、ですね。

渡邊:一方、クリエイターがその気になれば細部まで作り込める拡張性も意識しています。

拡張性という意味では、WordPressに近いかもしれません。

WordPressは、テンプレートからデザインを選択するだけで手軽にHPの構築ができます。一方、プラグインなどを活用することで、よりリッチなHPをつくることもできますよね。

STYLYは、Webブラウザだけでコンテンツを作ることができますが、BlenderやMayaで作られた3Dのオブジェクトにも対応するなどして、利用の幅を広げています。

渡邊:毎朝メガネをかけるような感覚で当たり前のようにXRデバイスやMRグラスをつけ、リアルの空間でバーチャルコンテンツの存在が当たり前になる時代が来たとき、STYLYが空間を送受信する大きなプラットフォームになっていたいと考えています。

そのために、できるだけ多くの人が扱えるような操作性とWordPressのような拡張性の両方を担保して、誰でも手軽に制作ができる環境を実現していきます。

(文・川合裕之)

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