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赤きサボイア、スタンドモデルとして完成!【達人のプラモ術<サボイア マルケッティ S.55>】

【達人のプラモ術】
DORA WINGS(ドラウイングス)
1/72 サボイア マルケッティ S.55 大西洋横断記録機
04/04

異形の飛行艇と呼ばれた「サボイア マルケッティS.55」製作の完成編となる今回は、
最終仕上げの工程、エンジンの搭載、そして複葉機など古き良き時代の飛行機モデルの製作では必須工作ともいえる張り線の取り付けを行って完成を目指します![全4回の最終回/1回目はこちら

長谷川迷人|東京都出身。モーターサイクル専門誌や一般趣味雑誌、模型誌の編集者を経て、模型製作のプロフェッショナルへ。プラモデル製作講座の講師を務めるほか、雑誌やメディア向けの作例製作や原稿執筆を手がける。趣味はバイクとプラモデル作りという根っからの模型人。YouTubeでは「プラモ作りは見てナンボです!「@Modelart_MOVIE」も配信中。

 

■トラブルは完成間近にやってくる

前回、機体後部のブームと尾翼を取り付けて、いやぁ飛行機らしくなってきたなぁと悦にいったのですが、あろうことか作業中に機体をポロリと落としてしまい…。強度がない胴体ブームや尾翼類は、パーツがすべてイモ付けだったので取り付け部位を金属線で補強していたのですが、見事にバラバラになってしまいました(泣)。主翼にダメージがなかったのは救いでしたが、曲がってしまった補強用の真ちゅう線を交換、ダメージを受けた水平尾翼裏面の塗装の修正に半日かかってしまいました。

▲製作中にうっかり落としてしまい、取り付けた胴体ブームが主翼取り付け部から折損。尾翼側も歪んで塗装もろとも剥がれてしまった。一度バラして補強用の真ちゅう線を打ち直して組み直した

 

■たかが張り線されど張り線

今回制作したS.55は複葉機(主翼が2枚上下に設けられた機体)ではありませんが、胴体ブームや尾翼には多くの補強用ワイヤーが張られています。

1920年代の複葉機といえば翼は布張り、機体は木製で強度がありませんでした(正直エンジンがついた凧みたいなもの)。その上、エンジンも非力だったので、揚力を稼ぐためには翼面積を大きくする必要があったのですが、なにせ布と木でできた機体では大きな翼を支える強度が保てなかったんですね。そこで小さめの翼を2枚上下に配置して翼面積を確保、さらにその間にワイヤーをめぐらすことで強度を持たせたワケです。

しかしワイヤーは細くても抵抗が大きく、速度低下の原因にもなっていたそうです。また飛行中ワイヤーの風切り音も大きいのだそう。

模型的には、古き良き時代の複葉機や今回のS.55 のような機体では、補強のために張り巡らされた張り線は避けては通れない必須工作です。

まぁそこはそれ、自由に作ってこそのプラモですから、必ず張り線を付けなければいけないというワケではありませんが、リアルな完成度を目指すのならばチャレンジあるのみです。

ちなみにキットには張り線の取り付け位置は指定されていますが、付属はしていないので自身で用意する必要があります。

▲張り線に使用した0.2ミリの真ちゅう線。作例ではシルバーに塗装して使用している。長さは50センチあるものの10本入りで1100円といささか高価なのが辛いところ

▲複葉機などの製作で愛用者の多いストレッチリギング。伸縮性があり適切なテンションでワイヤーを再現できる。細く強度の高い金属製のメタルリギングもある。価格は1500~1900円

 

■真ちゅう線を使った理由

張り線の再現ですが、木綿糸やテグス(釣り糸)などがよく使われています。髪の毛を使ったという作品もありました。近年では張り線を再現する専用アイテム(メタルリギング、ストレッチリギング)等があるので、よりリアルに再現できるようになりました。

張り線はキットのスケールによって変わるので、太さの違うものが何種類か揃っています。また使われている部位によっても太さが違う、英国機では平板状のワイヤーが使われている、さらにこだわるならばターンバックル(後で解説)の工作も必要等々、なかなか奥が深いのです。

今回、S.55では、太さ0.2ミリの真ちゅう線を使って胴体後部と尾翼に集中している張り線を再現しました。また動翼類の作動索も同じく真ちゅう線を使用しています。

S.55は、イモ付けだった尾翼類は真ちゅう線で補強したとはいえ、強度がありません。糸やリギングを使った場合、どうしてもパーツにテンション(引っ張る力)がかかってしまうので、曲がってしまったり破損する恐れがあります。真ちゅう線を各部位に合わせて長さをカットし接着することで、パーツにテンションをかけずに済みます。ちなみにターンバックルの再現はスケールも考慮して省略しています。

▲水平尾翼は張り線が多いのだが、ともかく強度がないためリギングなどを使ってテンションをかけることができない。そこで位置に合わせてカットした真ちゅう線をはめ込むように瞬間間接着剤で固定している。胴体ブームもX状に10センチ近く張る必要があるのだが、真ちゅう線であれば弛むことがない

▲エルロンやラダーといった動翼は作動用のヒンジがエッチングパーツで再現されているので、そこに作動索を取り付ける

▲エンジンは、ウエザリング塗装でオイル汚れを再現。機体のマウントに取り付ける

▲実機のプロペラは木製なので、ダークブラウンで塗装さらにクリアーオレンジを重ねることで質感を再現

▲飛行艇ならではの装備。右艇体に再現されている錨

▲スタンドモデルとするためにタミヤの飛行機モデルの展示ベースを流用した

※ターンバックルとは、ワイヤーの張りを調整するための道具で、複葉機では、張り線の基部に取り付けられています。

▲ターンバックル

 

■スタンドに乗せてS.55の完成!

エンジンをマウントに搭載、プロペラを取り付けて張り線を再現したことで、機体の精密感がぐっと増しました。しかし飛行艇ということもあって、ベタ置きのままだと展示の見栄えがイマイチよろしくありません。

そこで作例ではタミヤの1/32飛行機キットに付属している展示用ベースを流用して、飛行状態をイメージ(パイロットは乗っていませんが)したスタンドモデルにしてみました。いや完成するとどうしてなかなかカッコよろしいです。

キットは国産メーカーのような精度はありません。隙間や段差ができ、取り付け強度のないパーツ、極小エッチングパーツの取り付け、さらにはオーバースケールのデカール、そして張り線と製作の難易度が高いキットです。

さらには製作中のクラッシュ。正直、この連載で製作してきたキットの中でいちばん苦労させられました。

しかしそれでも完成するとそんな苦労は忘れてしまいます。出来悪い子ほど愛着が湧くと言いますか、自身でいろいろ工夫しながらの製作するのもプラモデルの楽しさのひとつですし、魅力でもあると思うわけです。さて次回は何を作りましょうか。

 

■キット化希望!

▲サヴォイア・マルケッティ S.66

S.55を三発化し大型化させた機体(サボイア社は3発機好き)。旅客用として開発され地中海での旅客運送や海上救難任務で活躍。エンジンが増えると強そうにみえる。こちらもぜひキット化してほしい。

>> [連載]達人のプラモ術

<製作・写真・文/長谷川迷人>

 

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