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カスタムの世界にもEV化の波!EVストリートロッドに見るイノベーションの可能性

米国独自のクルマ文化といえば、ストリートロッド。知ってます? 1930年代のフォードやシボレーにはじまり、なかにはロールスロイスまで、昔のイメージを活かしたボディを作って、街中での“映え”を意識した改造車を指します。

昔のクルマにデカいエンジンをむきだしに搭載したドギツイいけれど、カッコいいホットロッド(映画『アメリカングラフィティ」の世界)とちょっと違い、楽しむことが第一。でもその世界にも現代的な変化の波が押し寄せているようです。

▲1977年の「シボレー・ブレイザーK5」をベースにした「ブレイザーE5」。Photo by John F. Martin for General Motors

米ゼネラルモーターズ(GM)の開発センター取材で見せてもらったのが、“未来の”ストリートロッド。1977年の「シボレー・ブレイザーK5」をベースにしたその名も「ブレイザーE5」。もう1台は、62年の「シボレーエルカミーノC-10」あらため「EルカミーノE-10」。

▲こんなふうに洒落たプラックが専用でデザインされている

お気づきのように、アルファベットがエレクトリシティ(電気)を表す「E」に変えてあります。これはシャレっけですね。

▲GM車のチューンナップを手がけているリンゲンフェルターと組んで開発することが計画されている

この2台、GMと、インディアナ州のリンゲンフェルター・パフォーマンスエンジニアリングの合作です。リンゲンフェルターは、おもにシボレー・コーベットや、同カマロといったスポーティなモデルのチューンナップを得意とする会社。

同時に、キャデラックならエスカレード、それにシボレーやGMCのトラックのチューニングもお手のもの。約半世紀にわたり、GM傘下のブランドのチューニングを手がけ、リンゲンフェルターの製品には保証も効くそう。

■そう特別なことではないEV化

▲ブレイザーE5にはV型にユニットが組まれて搭載。Photo by John F. Martin for General Motors

私がすごいなと感心したのは、電気モーターなんだけれど、まるでエンジンみたいに扱っているところ。なにしろ、ブレイザーのボンネットの下には、2基のモーターがV型に組んであるんです。

目に飛び込んでくるのは、電流を制御するインバーターと、それに組み合わせて冷却まで制御するハイパワーディストリビューターモジュール。オレンジ色のぶっといケーブルが、いかにもパワフル、という印象を与えます。

使っているモーターは、シボレーのピュアEV「ボルト Bolt」のもの。149kW(200hp)の最高出力と360Nmの最大トルク。これに60kWhのバッテリーを組み合わせるのがオリジナルです。

▲ブレイザーの荷台にも大容量バッテリーが積まれる(重心高は高くなってしまうだろうがしようがないかも)。Photo by John F. Martin for General Motors

ブレイザーでは、2基連結のため、450hpとされています。シボレーパフォーマンスによると、さらに、バッテリーを2層にして容量を上げることで最大700hpのパワーが絞り出せるとか。

▲今回のプロジェクトの説明をしてくれるGMパワードソリューションでアシスタントマネージャーを務めるトニー・ブラウワー氏。Photo by John F. Martin for General Motors

「世界が進化するにつれて、ゼネラルモーターズも新しい未来をつくりだしていきます」。GMにあって、これまで自社の製品のチューンナップを手がけてきた「シボレーパフォーマンス」はそう説明。

ブレイザーE5は、電子的に合成されたかつてV8的なぶっといドローン音を響かせながら、静止から時速60マイル(96km/h)を5秒で加速といいます。たいしたものです。

▲ブレイザーの大きな荷台には大容量バッテリーが搭載可能。Photo by John F. Martin for General Motors

▲エルカミーノも荷台が大きくEV化に向いているパッケージ。Photo by John F. Martin for General Motors

ブレーザーE5にしても、Eルカミーノにしても、Eストリートロッド化が容易な点があります。荷室が大きいので、大容量のバッテリーが搭載できる点です。

▲62年の「シボレーエルカミーノC-10」あらため「EルカミーノE-10」。Photo by John F. Martin for General Motors

シボレーパフォーマンスでは、EV化はなにもそう特別なことではない、と考えているようです。これまで米国人は、たとえばこの会社が組み上げたヘビーデューティ(高性能)仕様のV8エンジン単体を通販で購入し、自力で自分のクルマに搭載するのが“当たり前”。これと同じように扱えることを目指すんだそうです。

▲チューニング会社はこれから電気を手がけていくことになるかもしれない。Photo by John F. Martin for General Motors)

▲Eルカミーノに搭載されたボルト用電気モーターユニット。Photo by John F. Martin for General Motors

組み上げられて通販で送られるエンジンのことを、米国人は“クレートエンジン”などと呼びます。木箱(クレート)に入って送られてくるからでしょう。EVユニットについて、シボレーパフォーマンスでは「eクレート」と名づけています。

私がミシガン州ウォーレンのGMテクニカルセンターで話を聞いた担当者は、「ギアボックスは従来のガソリンエンジン用のものが使えます」と言っていました。このEVユニットには、従来のガソリンエンジンと同様のパワーアウトプットシャフトがあるのでしょう。ようするに、簡単にコンバート(ガソリンからEVへの転換)ができるというのが、メリットなのです。

▲エルカミーノの荷台に搭載されたバッテリーユニット

ただし、販売にはまだ至っていないようで、見せてもらったのは、「ここまで出来るというショーケース」(担当者)とのこと。今は、2016年発売のボルトのユニットを使っていますが、「将来的にはさまざまな可能性があります」と言います。

つまり、キャデラック・リリックやGMCハマーEVに使われている「アルティウム」という新世代のパワーユニットで、EVストリートロッドを作ることだってありえるわけです。

なぜそこまでしてEV化を? と確認すると、「0(ゼロ)クラッシュ、0エミッション、0コンジェスチョン(衝突事故ゼロ、排ガスゼロ、渋滞ゼロのスリーゼロ)がGMが追求する電動化の姿で、(今回のように)電動コンポーネンツを提供するのも排ガスゼロへの取り組みです」という答えが返ってきました。

「イノベーションの可能性はリミットがありません」。シボレーパフォーマンスはそう謳っています。

こんな大きなバッテリーを60年代のクルマに搭載して、衝突の際の安全性は大丈夫なんでしょうか。それについて、GMのテクニカルセンターで、開発担当者に尋ねると、「古いクルマは頑丈に出来ているので大丈夫ですヨ」と答えてくれました。

<文/小川フミオ>

オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中

 

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