【スニーカーとヒト。Vol.2】
スタイリストとフォトグラファーといえば、ファッション業界を代表する花形職業。その両方のアシスタントを務めるのが、今回の主役である仁茂田 汐音(にもだ しおね)さん。取材当日の待ち合わせ場所は、原宿と渋谷を繋ぐ遊歩道・通称“キャットストリート”。「これは相当、主張の強い人物がやって来るに違いない!」と覚悟して臨むも、現れたのは清楚な雰囲気のあるキュートな23歳。
「果たしてどんなスニーカーかな?」と挨拶もそぞろに足元をチェック。彼女が履いていたのは、シグネチャー柄が存在感を放つCOACH(コーチ)の「シグネチャー ローカット スニーカー」であった。
■アシスタント女子の足元は、脱ぎ履き簡単なローカットしか勝たん!
【お気に入りの1足】
COACH
「シグネチャー ローカット スニーカー」
「友人・知人にはニモちゃんと呼ばれています」と、はにかみ笑顔で教えてくれた彼女。ちなみに、仁茂田(にもだ)という名字は日本に100人程度しかいないらしい。現在は、雑誌、広告、タレントやミュージシャン、声優まで幅広く手掛けるスタイリストの師匠のもとで、アシスタントとして働いている。
「両親が地元でブティックを営んでいたため、『面接で実家の話をすれば受かるかな?』と考えて、バンタンデザイン研究所の門を叩きました」。そこで選んだのはファッション学科。そもそも“是が非でもスタイリストになりたい!”という熱い思いからではなく、“ファッションビジネスを学べば将来の役に立つかも”という打算的理由からスタートした服飾系専門学生ライフ。
しかし、そんな本人の思いとは裏腹に、そもそも適性があったのかスタイリングの授業では高評価を獲得。すっかり調子に乗り、その後はスタイリスト学科に転向。「ショーに向けてテーマを考え、スタイリングを組むという作業がすごく面白かったんです。今考えると、必要なアイテムを集めてクエストを達成する。そういう意味では、昔から好きだったゲームと同じような感覚で楽しめたのかも」。気が付けば、スタイリストへの道を彼女は歩み始めていた。
そして卒業を目前に控える2019年、「就職活動をしたくないなぁ」とおぼろげに考えていたところ、学生時代からインターンとして手伝っていた現在の師匠から連絡をもらい、そのまま師事することに。“これまで経験したことのないことばかりで、何もかもが楽しかった”という日々も半年が経った頃、師匠からこんな提案をされる。
「先輩アシスタントとの差別化のためにも、スタイリスト以外の別のことにも挑戦してみたら?」
こうして師匠に仲の良いフォトグラファーを紹介してもらい、スタイリストとフォトグラファー両方のアシスタントという“二足の草鞋を履く”生活が始まった。通常どちらか片方だけでも、一人前になるまでが大変な道のりだというのに見上げたチャレンジ精神! スタイリストの仕事でさえ何となく肌感覚で分かってきたところなのに、カメラに関してはぶっちゃけズブの素人。だが彼女が幸運だったのは、両師匠とも“仕事は見て覚えろ!”タイプではなく、しっかり教えてくれる上に、人としての真っ当な生活が送れるように尊重してくれるタイプだったこと。
せっかくなら実際の仕事現場にお邪魔したいところだが、さすがにソレは難しいので、代わりに仕事道具を見せてもらった。
スタイリストの仕事に欠かせない、いわゆる現場バッグとハンディースチーマー。カメラもあるかと期待していたが、引越し費用捻出の為に手放してしまったということで、手元に残していたクリップオンを持参。どれもちゃんと使い込んだ形跡が見られると同時に手入れがされており、仕事への意欲を感じさせる。
ここでそれぞれの仕事の醍醐味も聞いてみた。「スタイリストは、仕事が世に出た瞬間に味わえる達成感が魅力。フォトグラファーとしては、撮影現場で師匠以外のスタイリストさんの仕事が直接見られるので、とても勉強になります」。ということで、いよいよお気に入りの1足についても話をお聞かせ願おう。
筆者の経験上、スタイリストやフォトグラファーが履くスニーカーは二極化傾向。シンプルでどんなシーンにもマッチする定番モデルか、「それ、どこのですか?」と聞かれるたびに優越感を感じるであろう、ファッションコンシャスな最新モデルと相場が決まっている(あくまで筆者の主観なので、あしからず)。
だが今回のチョイスは、そのどちらでもなかった。1941年、ニューヨークに革小物工房として誕生し80年以上の歴史を誇るライフスタイルブランド、COACH(コーチ)。頭文字“C”を意匠化したシグネチャー柄は代表的モチーフとして愛されており、それをアッパー全体にあしらった「シグネチャー ローカット スニーカー」こそ、彼女が選んだお気に入りの1足。“名は体を表す”と良くいうが、そのものズバリの直球ルックス。スポーツブランドのそれとは一線を画すハイエンドな存在感と、まだ年若い彼女が織りなすギャップも実に興味深い。
アッパーサイドには、ブラウン×ベージュの落ち着いた色合いのテープをあしらい、その上にブランド名をラバープリント。履き込みすぎて、文字の一部が削れているのもご愛敬。品の良いキャンバス素材とスエード素材のコンビネーションも、スポーティさと洒脱さを併せ持ち、なかなかに表情豊かだ。先述のように相当履き込まれている様子だが、その理由が古着屋で購入したからと聞けば、思わず納得。「専門学生時代に、授業の作品撮りに使用するアイテムを探していて偶然発見! それまでスニーカーといえば、スポーツブランドのモノばっかりだったので、すごく新鮮に感じられて思わず一目惚れでした」
一般的にアシスタントといえば、お金を持っていなくて当然。ゆえに意外性のあるチョイスが話のネタになるので、現場でも重宝しているとか。「気に入って愛用しているのには、もうひとつ理由があります。買った瞬間から既に履き込まれていたので、すごく脱ぎ履きしやすいんです。スタイリストもフォトグラファーも、アシスタントは現場でシューズを脱ぎ履きすることが多いので、コレはかなり重宝しています!」
シューズ単体で見ると主張が強いように感じられたが、実際に着用している姿を見れば、彼女の雰囲気と着こなしに良く馴染んでいるではないか。
* * *
ちなみに、「ほかにはどんなスニーカーを持っているの?」と投げかければ、「実はスニーカーはあまり持っていないので、いま新しいモデルが欲しくて探しているところです。次に狙っているのは、ORPHIC(オルフィック)の『ジャーマントレーナーサンダルスニーカー』というモデルなんですが、その前にまずは新しいカメラを買わなきゃですよね(笑)」と、ごもっともなリアクション。
とはいえ、お気に入りのスニーカーを長く履くためには、何足かをローテーションさせるのが鉄則。足元選びはオシャレの基本なんていわれているし、ここは清水の舞台から飛び降りるつもりで、いざゲット推奨。二足の草鞋を履いて頑張る仁茂田さんに、そんなコーチ(助言)を残して、また次回!
>> スニーカーとヒト。
<取材・文/TOMMY>
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- Original:https://www.goodspress.jp/columns/478659/
- Source:&GP
- Author:&GP